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『体育座りで、空を見上げて』 [読書日記]

体育座りで、空を見上げて

体育座りで、空を見上げて

  • 作者: 椰月 美智子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
大人の階段を昇るのってすごくしんどい。5分だって同じ気持ちでいられなかった、あの頃。今もっとも注目の著者が、読者を瞬時に思春期へと引き戻す、おかしくも美しい感動作!野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞受賞第一作。
椰月美智子(やづきみちこ)といえば、僕が今からちょうど2年前に読んだ『るり姉』の作者であり、当時このブログでも「女シゲマツ」的な作風を指摘するとともに、各章ごとに主人公が異なる連作短編の構成を「あまり好きではない」などと評していたことがある。最初からこの作家だと知っていれば手に取ったかどうかすらわからない新たな椰月作品を改めて手にしたのは、タイトルからして明らかに学園ものだったからに違いない。コミセン図書室で借りて家に持ち帰ってから、初めて本書が椰月さんの作品であることに気付いた。

1人の女子中学生が、中学に入学してから卒業するまでの3年間を描いている。日記ほど日々の出来事を克明に記しているわけではなく、それぞれの学年で鍵となる出来事をいくつか取り上げつつ、当時何にハマっていたのか、クラスの誰と仲良くしていたのか、誰と誰が付き合っているとの噂があったのか、家族とどんな葛藤があったのか、等等を淡々と描いている。時系列順の展開で、かつ主人公・和光妙子の視点で貫かれているので、『るり姉』よりはわかりやすい構成だった。

ひょっとしたら、1970年生まれで神奈川県小田原市出身の著者の、ある意味自伝的な作品なのかもしれない。何が流行っていたのか――CCBだのキョンキョンだの尾崎豊だのと聞かされれば、そして校内暴力が社会問題化してそのいちばんひどかった年齢コホートから2学年下で、上級生から「呼び出し」を喰らうのではないかと心配しながら中学に入学するシーンなどから、この作品の舞台が、僕自身が中学時代を過ごした頃よりも6~7年後だと容易に想像つく。しかも、大人が自分のことをわかってくれないと訳もなくイライラして、どうしょうもなくなって近くの海岸に出かけるというシーンなどを見ると、遠浅の海岸、否応なしに相模湾でしょと想像できてしまう。自伝かどうかはともかく、著者は明らかに自分の中学時代を振り返りながら、その要素を作品の中に取り入れている。

あまりに沢山の登場人物が出て来る。クラス替えがあるたびに「つるむ」相手が変わってくるし、クラス替えどころか席替えのたびにでも変化がある。お陰で、「誰だったっけ?」と前のページで確認した人物も何人かいた。多すぎて頭に入らない(笑)。3年間を通じて仲良いのは結局のところは部活の同僚であり、あとクラス替えをサバイブして何度も同じクラスになった友人である。また、本書は女子中学生が主人公なので、主には同性の友人関係を気にする姿が描かれているが、誰が誰と付き合っているという噂話にはそれなりに敏感で、会話はほとんどないのに憧れの先輩がいたり、予想もしない相手からラブレターをもらったり、告白されたりという出来事はそれなりに書かれている。女子の目線から男子がどう映っていたのかという点では、納得できる距離感で描かれているように思う。

でも、この主人公のように、ラブレターをもらっても無視、告られても無視、戸惑うだけならともかく、嫌悪感まで抱かれるとすると、僕が中学時代に気になっていた子に仮にどこかのタイミングで勇気を振り絞ってアタックしていたとしても、玉砕していたに違いない。(そのあたりの甘酸っぱい話は、6年前に書いたこの記事の中で紹介している。よかったら併せて読んでみて下さい。)

また、中学1年の時の何かの行き違いで、僕は当時仲が良くて本当は気になっていた同級生がいたのに、何かの行き違いで口をきかなくなり、結局2年、3年とクラスも違ったので、話す機会もなく、そのまま卒業に至ったというケースもあった。今考えると1年生の頃にあんなに意地を張ったのかがよくわからない。大人から見たら理解しづらいのが中学生なのかもね。

わけのわからぬ先生、とりわけ3年時の担任や生活指導の先生への反抗、特別強いわけでもなく惰性に近い形で続けていた部活動、やらずにホッとしたクラス委員、夜更かしして聴いていた深夜の「オールナイト・ニッポン」、1年時にハマったラジカセ&エアチェック、スーパーカーブーム、2年時に流行ったBCL、ちょっと気になっていた同級生の急逝、3年時に聴いていた世良公則&ツイスト、星野一義、駅伝、生徒会―――等々。読みながら主人公と同じ年齢だった頃の自分のことを思い出していた。

そういう、自分自身の中学生時代を思い出させるのを助けてくれる、読んでて心地よさを感じる作品だった。






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