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『Common Wealth』(その5) [持続可能な開発]

連載シリーズ第4弾、といっても、シリーズとして第1弾から第3弾までと、第4弾をすっ飛ばして第5弾を掲載したのはなんと2年以上前の話で、その後下書き状態の第4弾を長きにわたって放置して今日に至った。その間、僕は某私大大学院の非常勤で履修生に持続可能な開発を語る立場になり、そのテキストとしても本書を使っている。本書を用いるきっかけとなったのは2015年8月に読了していて内容を知っていたからだが、その直後から非常勤講師の話はいただいていたので、すぐにシラバスに組み込み、既に二度にわたり講座で使わせていただいた。最近、今年度開講分として再読がようやく終わったので、過去の遺産に終止符を打つべく、この記事を完成させてアップしてしまうことにした。

地球全体を幸福にする経済学―過密化する世界とグローバル・ゴール

地球全体を幸福にする経済学―過密化する世界とグローバル・ゴール

  • 作者: ジェフリー・サックス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/07/24
  • メディア: 単行本

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本日は、著者の言う持続可能な開発に向けた戦略の枠組みについてご紹介する。

持続可能な開発を実行するには、何もしなければ地球とそこに住む僕たちが今後辿るであろう軌道に対して、3つの根本的な変化をもたらさなければならないという(pp.60-61)。
 
(1)短期間のうちに、地球規模で、持続可能なテクノロジーを採用すること。
   持続可能なテクノロジーとは、環境に負担をかけずに高いレベルの繁栄を可能にする。

(2)世界人口、特に最貧国の人口を安定させること。
   それができなければ、環境を持続させつつ経済的な繁栄を得ることはできない。

(3)最貧国が貧困の罠から抜け出せるよう支援すること。
   
これらは、市場の影響力だけでは実現することは難しい。市場メカニズムは、世界の科学者やエンジニアの努力を持続可能なテクノロジーの開発に向かわせることを保証しない。重要なテクノロジーの多くは社会に大きな恩恵をもたらすが、市場取引に付しても儲けにつながらないので、民間企業はそのような研究開発には投資しないという。また、たとえ持続可能なテクノロジーが発見され、研究開発が進んでも、それを世界中に広めるための後押しが市場メカニズムだけでは進まないかもしれない。

持続可能なテクノロジーとして、どのようなものが想定されるかというと、例えば著者は「クリーンなエネルギー、旱魃に強い改良品種、環境に負荷をかけない魚の養殖、熱帯性の疾病に効くワクチン、生物多様性を遠隔地から監視・保護する装置の改良」(p.62)等を挙げている。

簡単にまとめると、持続可能なテクノロジーの開発と普及には市場メカニズムを補完する資金動員手段が必要で、公的資金の役割が大きいという。基礎研究にもっと予算を投入する必要があるという議論は日本国内にもあるし、それは援助という形態とは違うけれど、持続可能な開発への波及効果は期待できるだろう。

人口の安定化に関しては、市場メカニズムを通じてでは、1国内、またはグローバルなレベルでの適切な人口変化のパターンを構築できない。多岐にわたる人口政策も必要だと述べられている。政策による取組みが中心として論じられていて、予算面での制約の打破には援助の役割はあるかもしれないが、本署において人工妊娠中絶を提唱して物議を醸した点を除けば、あとは比較的常識的な議論がされている。

極度の貧困の撲滅と言う基本的課題についても、市場メカニズムは10億人以上の貧困層を置き去りにしてここまで来ているので、市場メカニズムを補完する、適切な処置をとらなければならないとする。貧困の罠については、ここは相当著者の論点には議論もありそうなところだが、日々の生存のためにあくせくしていては将来に向けた投資は考える余裕もないので、余力ができる最低限の生活水準までは援助がこれを補償し、罠から抜け出せる前提条件を整えた上で、そこからは彼らの自立発展を促すというものだ。繰り返すが、この点はウィリアム・イースタリーが著書『傲慢な援助』で批判していたポイントであり、大学院のテキストとして履修生に読ませてみても、この点には異論が相次いだ。

この本の著者はSDGsの形成と推進に主導的な役割を果たしてきた人だし、元々国連や国際金融機関に近い立場で仕事されてきたわけだから、課題解決に対するアプローチが外部者側の目線でサプライ・ドリブンになっているのはある程度仕方ないが、援助を受ける側の政府や人々の目線で見てどう映るか、援助が受入国政府の援助依存を助長していないか、人々の自助努力を阻害していないか等の懸念に対する洞察はあまりないのは残念だ。

その点は割り引いて本書は読む必要があるが、2008年のこの段階から、著者の専門でもない科学技術に注目し、これだけ論じられたという点では高く評価する。科学技術に関しては、自国内での基礎研究への予算配分という面に加えて、日本の場合は科学技術協力(SATREPS)という、途上国での課題解決につながる研究開発に協力しようというプログラムがある。しかも、その過程で社会実装も試みるという、途上国にとっては恩恵の大きいプログラムだ。でも、個々のSATREPSの案件に関わる研究者が、持続可能な開発やSDGsをどれくらい意識されているのかは疑問でもある。ここからどれくらいの英語の論文が生まれているのだろうか。

ジェフリー・サックスでも、コロンビア大学の科学技術研究者を動員して集めた成果をこうして本にまとめているのだから、SATREPSだって、誰でもいいのでその実践の中で生まれてきた発見をまとめて、1冊の本にしてくれたらいいのになと期待せずにはおれない。

最後に、この本を読みながら、時折イースタリー著『傲慢な援助』のことを思い出していた。過去にブログで書いた記事を読み直してみた。ここ1カ月ぐらいの間、今の仕事を終えた後、将来自分が何をやりたいかというのを真剣に考え始めていたが、その中で生まれてきたアイデアとよく似たことが、『傲慢な援助』の中でも述べられているのに気が付いた。内発的に生まれてきたアイデアだが、それと似た取組みをされていた欧米人がいらして、それをイースタリーが肯定的に評価されているのを知り、ちょっと嬉しくなったので、最後に付記しておく。

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