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『Common Wealth』(その3) [持続可能な開発]

連載シリーズ第3弾、本日は、本書における著者の問題提起の内容についてご紹介する。

地球全体を幸福にする経済学―過密化する世界とグローバル・ゴール

地球全体を幸福にする経済学―過密化する世界とグローバル・ゴール

  • 作者: ジェフリー・サックス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/07/24
  • メディア: 単行本

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 21世紀の課題を定義するなら、この過密化した地球で人類が共通の運命を分けあうという現実を直視すること、となる。共通の運命であればこそ、新しい形のグローバルな協力体制が必要とされる。これはごく単純な基本点なのに、世界の指導者の多くは、この点をまだ理解できず、または受け入れようとしない。過去200年間、テクノロジーや人口統計学は人びとに理解されないまま、つねに社会より先行してきた。産業化と科学がもたらした変化のペースは、人類史上でも例を見ないほどの速さだった。哲学者、政治家、芸術家、経済学者などは、時代の社会的な状況に追いつくために、たえず息せき切っているようなありさまだ。結果として、社会哲学はつねに目の前の現実に遅れをとることになる。(pp.21-22)

障害はこの地球にあるのではなく、人間がどれほど協力できるかという、私たちの能力にあるのだ。いま、私たちに必要なのは、グローバル・レベルでの合意と世界共通の団結心をもって、地球が抱える問題に取り組むことである。(p.27)

第二次世界大戦後、冷戦の危機にもかかわらず、世界の指導者たちは、環境、人口、貧困、大量破壊兵器といった共通の課題に一致団結して立ち向かった。国際連合を初めとして、天然痘の撲滅、子供の予防接種、識字教育と家族計画の普及、地球の環境保護といった世界規模のキャンペーンに取り組み、新しい形のグローバル協力を考案したのだ。そして、さまざまな障害や不信感をのりこえて、グローバルな協力体制がよい結果をもたらすということを証明してみせたのである。(pp.29-30)

この行動に必要とされるわずかな費用と、それをしなかったときの結果の甚大さは比較にならないほどなのに、世界はまだ麻痺したまま動きだそうとしない。最悪の結果を回避するためにどのような手順が必要なのか、多くの専門家にとっては一目瞭然である。しかし、一般の人びとはまだ理解していないようだ。ぐずぐずしてはいられない。再度強調するが、問題は、合理的かつ低コストの解決方法が存在しないことではなく、それらの解決策を導入するのに必要なグローバルな協力態勢がとれないことなのである。(p.35)

 グローバル協力を構築するのが困難であることに加え、私たちは、きわめて効果的かつ低コストの解決策を無視している。というのも、私たちの調査やガバナンスの方法論そのものが、持続可能な開発に適していないからである。専門家が閉鎖的に進める科学調査は、他ジャンルの研究とあまりにも接触がなさすぎる。いま解決しなければならないのは複雑なシステムをもった問題であり、そこではあらゆる研究分野が重要な役割を果たすというのに、物理科学、生物学、工学、経済学、公衆衛生学などの分野が境界を越えて結びつくことはまれである。現実の問題とは、きちんと分類された学問分野のなかにきちんと収まるものではない。(p.39)

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以上は、第1章第1節で掲げられた著者の問題意識である。続いて、今我々が直面している地球の変化を、著者は次の6項目にまとめて提示している。これらは人類史上前例のない変化だと強調する。世界は同時に起こっているこれらの変化を経験しており、グローバルな社会としてこの変化にどう対処するかで、この先、人類が反映を共有できるか、あるいは壊滅的な危機に陥るかが決まる。

1)収束(コンバージェンス)
持続的な経済成長のプロセスが、いまやほぼ全世界に到達し、人類全般において1人あたりの所得は急速に増えつつある。豊かな国々と途上国の多くの間では、1人あたりの平均所得(平均ですからね!)の格差が急激に縮んでいる。

2.より多くの人がより高い所得を得る
世界の人口は増え続け、その結果、グローバル経済全体の成長が増幅される。1人あたりの平均労働生産性は高まり、同時に生産に従事する人の数も増える。世界の経済生産の規模は現在の数倍になる。

3.アジアの世紀
所得の伸びは、世界人口の半数以上を擁するアジアで最大になる。結果として、世界経済の重心はアジアに移動する。

4.都市の世紀
人びとの生活スタイルも根本から変化しつつあり、生活の基盤は、人類の起源までさかのぼる農村暮らしからグローバルな都市文明へと変わってきた。農村から都市型生活への転換はほぼ一方通行で推移し、2008年にはその中間点を越え、いまやほとんどの社会が都市を基盤として成り立っている。

5.環境への影響
人間の活動そのものが周囲の環境に与えるインパクトが、歴史上例を見ないほど多様な危機を環境に対してもたらす。人類による経済活動は、今や気候そのものを含む基本的な自然作用を変化させるほど大規模に及んでいる。

6.最富裕層と最貧困層の格差
貧しい人々の大半は豊かになるが、貧困の罠に陥った10億人の最貧困層は別で、貧困の罠に陥ると、持続的な経済成長につながる第一歩が踏み出せない。この危機の中心はサブサハラ・アフリカにある。この地域は最も急激に人口が増加している場所でもある。原辞苑に置いて、世界中で最も雇用創出能力に欠けた地域で、人口大爆発が起こっている。

以上、今回は課題列挙にとどめる。第4回では、これらのトレンドに対して我々が取りうる、持続可能な開発の戦略について、著者の主張を紹介してみたい。

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