『オープン・イノベーションの教科書』 [仕事の小ネタ]
1週間のご無沙汰です。ここ2週間ほど、「オープン・イノベーション」についてにわか勉強中ですが、読み込みをやっている一方で、仕事の方がとんでもなく忙しくなってしまい、そちらの準備も並行してやっていたので、なかなかPCに向かってブログ更新の作業を行うに至っておりません。かく言う現在も、33,000字超の日本語の文章を8月7日までに英訳するというとてつもない作業に従事しており、休日である本日も、朝3時から起きて翻訳と格闘中です。眠くてたまらないので息抜きでブログを書いている次第。
その意味では、今回ご紹介のこの本は、見事にそのツボにヒットする1冊だといえる。事例も日本国内の企業や大学のケースが多いので、わかりやすかった。
企業が生き残りをかけてオープン・イノベーションを採用する決断を下したからといって、何をどうしていったらいいのかというのはなかなかわからない。ましてや製品の研究開発に取り組んでいる部門は、これまでずっとクローズドな空間の中で研究開発に取り組んできたわけで、何をどうしていったらいいかという前に、そもそも外部の技術やアイデアに頼るということ自体に抵抗もあるだろう。
著者は元々はこうした迷える企業に対してオープン・イノベーション政策の導入指南を行ってきたコンサルタントであるらしく、元々企業に対してどのように助言していったらいいかという方法論がそれなりにまとまっていたのだろう。それを詳らかにするのがこの本だが、全てのノウハウを開陳するというよりも、少なくともオープン・イノベーションを志向するならこれくらいのことは知っていて欲しいというポイントをまとめ、それを「教科書」と称して世に問うているのである。
だから実に教科書っぽく、構成もわかりやすい。特に、40ページで示されている図「オープン・イノベーションの全体像」というのが重要ではないかと思う。
その上で、本書がカバーしているのは、上記2の「戦略提携型オープン・イノベーション」の2類型に関してのみであるという点には注意が必要だ。すなわち、「教科書」と称してはいるけれど、これを読んだからオープン・イノベーションが理解できたとは必ずしもすんなりならないということなのだ。
その上で、掲載されている事例は以下の通りである。
➀インバウンド型(技術を探し出す)
トップの発信力で自前主義から脱却(東レ)
社長みずからが組織をつくる(味の素)
チームの力がトップと現場をつなぐ(大阪ガス)
現場の危機感が巨大組織を動かす(デンソー)
生き残るために変化は避けられない(医薬品業界) 等
②アウトバウンド型(技術を売り込む)
大企業の強みを活かした技術提供(帝人)
中小企業の技術が大企業を凌駕する(ハタ研削)
技術力で世界と戦うベンチャー企業(JAC)
四国から世界中に技術を発信する大学(香川大学) 等
興味深いのは、多くの企業が、オープン・イノベーション導入の成否のカギとなるのが「トップのコミットメント」と「現場のモチベーション(研究者ひとりひとりのマインドセット)」を共通して挙げていることだ。結局のところ、新しい政策は上にも下にもそれなりの覚悟が必要だということなのだろう。
前述した通り、この本には守備範囲があって、企業としてオープン・イノベーションを導入して組織制度もそれに合わせて整えていくのが前提で書かれており、平場でオープン・イノベーションを起こすような仕掛け作りの話では必ずしもない。その点では少しばかり型にはまった書き方になっているのが気になった。またよしんば組織的なオープン・イノベーション導入の話に特化して、堅苦しくなるのをよしとするにしても、できれば官営の研究機関とか、あるいは大学以外の公的機関がオープン・イノベーションをうまく導入しているような事例があるのかないのか、そのあたりも本当は触れて欲しかった気もする。
オープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップ
- 作者: 星野 達也
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/02/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)以前紹介したチェスブロウの『OPEN INNOVATION』を読んだ時にも、その後でヒッペルの『民主化するイノベーション』(ブログ未紹介)を読んだ時にも感じたことなのだが、とかく欧米の学者やコンサルタントが書いた経営学の本は、事例として使っているのが欧米の企業であるケースが多く、読んでいてもなかなか親近感が湧いてこないのが難点だ。また、元々英語で書かれた原書を日本語に訳したからと言って、どこかしら違和感の残る文章になってしまう。同じテーマを扱っている書籍だったら、日本語で最初から書かれた本の方が、実はかなり読みやすかったりするのではないかと思う。
自前主義を貫くのか、外部の叡智を活かすのか、日本企業の生き残りを賭けた選択のとき。東レ、デンソー、帝人、味の素、大阪ガスからフィリップス、P&G、GEまで、国内外の成長企業が実行する新戦略のすべて。
その意味では、今回ご紹介のこの本は、見事にそのツボにヒットする1冊だといえる。事例も日本国内の企業や大学のケースが多いので、わかりやすかった。
企業が生き残りをかけてオープン・イノベーションを採用する決断を下したからといって、何をどうしていったらいいのかというのはなかなかわからない。ましてや製品の研究開発に取り組んでいる部門は、これまでずっとクローズドな空間の中で研究開発に取り組んできたわけで、何をどうしていったらいいかという前に、そもそも外部の技術やアイデアに頼るということ自体に抵抗もあるだろう。
著者は元々はこうした迷える企業に対してオープン・イノベーション政策の導入指南を行ってきたコンサルタントであるらしく、元々企業に対してどのように助言していったらいいかという方法論がそれなりにまとまっていたのだろう。それを詳らかにするのがこの本だが、全てのノウハウを開陳するというよりも、少なくともオープン・イノベーションを志向するならこれくらいのことは知っていて欲しいというポイントをまとめ、それを「教科書」と称して世に問うているのである。
だから実に教科書っぽく、構成もわかりやすい。特に、40ページで示されている図「オープン・イノベーションの全体像」というのが重要ではないかと思う。
オープン・イノベーション
1.自由参加のコンソーシアム型
・異なる知見を持ち寄り、新しい技術を創造。利益は参加者で享受
(例)リナックスのOS、SEMATCHの半導体技術、SIMドライブの電気自動車
2.戦略的提携型
➀技術探索型(インバウンド型)
・外部の技術を探し出して自社の製品に応用する。
(例)アップルのiPod、P&Gのプリングルズ・プリントチップス、
フィリップスのノンフライヤー
②技術提供型(アウトバウンド型)
・保有する技術の売り込み
・技術募集に対する提案
その上で、本書がカバーしているのは、上記2の「戦略提携型オープン・イノベーション」の2類型に関してのみであるという点には注意が必要だ。すなわち、「教科書」と称してはいるけれど、これを読んだからオープン・イノベーションが理解できたとは必ずしもすんなりならないということなのだ。
その上で、掲載されている事例は以下の通りである。
➀インバウンド型(技術を探し出す)
トップの発信力で自前主義から脱却(東レ)
社長みずからが組織をつくる(味の素)
チームの力がトップと現場をつなぐ(大阪ガス)
現場の危機感が巨大組織を動かす(デンソー)
生き残るために変化は避けられない(医薬品業界) 等
②アウトバウンド型(技術を売り込む)
大企業の強みを活かした技術提供(帝人)
中小企業の技術が大企業を凌駕する(ハタ研削)
技術力で世界と戦うベンチャー企業(JAC)
四国から世界中に技術を発信する大学(香川大学) 等
興味深いのは、多くの企業が、オープン・イノベーション導入の成否のカギとなるのが「トップのコミットメント」と「現場のモチベーション(研究者ひとりひとりのマインドセット)」を共通して挙げていることだ。結局のところ、新しい政策は上にも下にもそれなりの覚悟が必要だということなのだろう。
前述した通り、この本には守備範囲があって、企業としてオープン・イノベーションを導入して組織制度もそれに合わせて整えていくのが前提で書かれており、平場でオープン・イノベーションを起こすような仕掛け作りの話では必ずしもない。その点では少しばかり型にはまった書き方になっているのが気になった。またよしんば組織的なオープン・イノベーション導入の話に特化して、堅苦しくなるのをよしとするにしても、できれば官営の研究機関とか、あるいは大学以外の公的機関がオープン・イノベーションをうまく導入しているような事例があるのかないのか、そのあたりも本当は触れて欲しかった気もする。
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