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『稼ぐまちが地方を変える』 [読書日記]

稼ぐまちが地方を変える―誰も言わなかった10の鉄則 (NHK出版新書 460)

稼ぐまちが地方を変える―誰も言わなかった10の鉄則 (NHK出版新書 460)

  • 作者: 木下 斉
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 新書
内容紹介
地方は消滅しない!縮小社会を生き延びる術、本気の人だけに教えます!人口減少社会でも、経営者視点でまちを見直せば地方は再生する! まちおこし業界の風雲児が、地域ビジネスで利益を生むための心構えから具体的な事業のつくりかた、回し方までを、これからの時代を生き抜く「10の鉄則」として初公開。自らまちを変えようとする仲間に向け、想いと知恵のすべてを吐露する。
今週月曜日、TBSラジオの夜の番組『荻上チキ・Session 22』で夏休みの荻上さんに代わって代役MCを務めた社会学者の新雅史先生が、オープニングトークで盛んに薦めていた1冊である。今まちづくりといったら木下斉さんが第一人者だと強調されていた。実はこの本自体は5月にどこかの新聞の書評で見かけ、早々に購入して積読にしておいたものだ。相当に売れている本らしく、普段はあまり本を買わない僕ですら購入に走ったぐらいだから、今店頭で売られている本は既に第六刷に達しているそうな。まあ、そんなに宣伝するなら読んでおこうかと思い、通勤途中の読書用の本として、今週はこれを常に携行して読み進めた。

タイトルに「稼ぐ」という表現を使っているのはよりドラマチックなメッセージにしたいからだと思うが、書かれていることは当たり前のことで、儲からないまちに魅力はなかなか感じない、まちづくりを進めたいなら事業(プロジェクト)として早期に利益を出せることを考えるべきだと主張されている。下手に補助金に頼ったりしてすると効率性がなかなか生まれなくて黒字転換も早期には実現できないという。その通りだと思う。

サブタイトルにある「10の鉄則」というのは次の通りだ。

 鉄則① 小さく始めよ
 鉄則② 補助金を当てにするな
 鉄則③ 「一蓮托生」のパートナーを見つけよう
 鉄則④ 「全員の合意」は必要ない
 鉄則⑤ 「先回り営業」で確実に回収
 鉄則⑥ 「利益率」にとことんこだわれ
 鉄則⑦ 「稼ぎ」を流出させるな
 鉄則⑧ 「撤退ライン」は最初に決めておけ
 鉄則⑨ 最初から専従者を雇うな
 鉄則⑩ 「お金」のルールは厳格に

どれもまあそうだなと思う。そんな中で著者の慧眼を強く感じたのは、まちづくりのためには地元の不動産の所有者がまちを変えたいと本気になることが大事だという点。シャッター店舗としてただ放置しておくだけで不動産所有者がなかなかそれを人に貸さないのは、テナントに貸して得られるキャッシュフローが大したことないからで、ちゃんと不動産所有者にも収入が入って来るしっかりとした事業を立ち上げられれば、不動産所有者は喜んでテナントに店舗を貸すし、必要なリフォームも行うと主張している。

日本の多くのまちでは、まちづくりは税金でやってもらうのが当たり前、と考えている市民がいまだに圧倒的に多い。まちの財政のことなど全く考えもせずに、好き勝手に「あれをやれ」「これが欲しい」と意見だけは行政に言う。それがかなわないとなると、今度は「お役所仕事」だとか「市長はアホ」だとか批判を始める。批判を避けたい役所の方も、公共事業を業者に丸投げしてその場をしのぐ、著者によれば、日本のまちづくりにおける行政と市民との関係はそんな形が多いと嘆く。まちづくりは民間主導でというのが著者の主張だ。

まあ、それはそうだと思います。が、小さく始めるというのはビジネスの場合も同じだろうと思いはするものの、どれくらいのタイムスパンで見ていけばいいのかとか、鉄則は一見本当に鉄則に見えても、実は具体的なところになるとよくわからなかったりする。事業(プロジェクト)として考えろと言うが、小さく始めて3ヵ月刻みぐらいで事業の見直し、撤退の要否の検討などを行うとあるけれど、それじゃあ本当に1つの事業であって、「まちづくり」というほど大げさなものなのかどうかがわからなかった。それではそうして小さく始めた事業がどれくらい年数を経るとどれくらいの規模にまでなり、地域社会へのインパクトがどのように出て来るのかという、大きな話も聞いてみたかった気もする。

最初は少人数で小さく始めるというと、それは一部の人と一緒にビジネスを始めるのと似ており、それに参加している人々は儲かるかもしれない。でも、それはまち全体として儲けているわけでは必ずしもない。まちを1つの主体として捉えているけど、短期的にはそれに乗って稼げる人と、そうでない人に分かれるのではないかと思える。そうでない人々がどのように乗っかって稼げるようになって地域全体として儲けられるようになるのか、それにはどれくらいの時間がかかるのか、業態によってもその辺のタイムスパンは異なるのかもしれないが、そういうところのみもう少し言及があるとよかったかも。

多分、この鉄則を当てはめたケースストーリーを幾つか知りたいということなのだと思う。一応本書でも各鉄則毎にそれなりに具体的なケースへの言及はあるものの、全ての鉄則を1つの特定の自治体のまちづくりのケースに当てはめてみるような取組みがもう少し多いとわかりやすくなったかもしれない。

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