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『オープン・イノベーション』 [仕事の小ネタ]

OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて (Harvard business school press)

OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて (Harvard business school press)

  • 作者: ヘンリー チェスブロウ
  • 出版社/メーカー: 産能大出版部
  • 発売日: 2004/11/10
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
ハーバード・ビジネス・スクールで研究されている最新のイノベーション理論手法の限界を認識し、新たなオープン・イノベーションについて執筆。著者自身の経験や著者の人的ネットワークを駆使した調査に基づく内容を紹介。
「オープン・イノベーションの社内勉強会をやらないか」――社内シンクタンクの代表を務める先輩から、声をかけていただいた。製造業におけるプロダクト・イノベーションだったらちょっと距離感があるけれど、ファブラボ(FabLab)に代表される「メイカー・ムーブメント」や、最近国際協力の分野では盛んに用いられる「南南協力・三角協力・知識共有」、一時やたらと関連書籍を読みまくっていた「スマートシティ」なんてのはまさにオープン・イノベーションを狙った動きなわけで、切り口がいろいろあって結構面白いかもと思い、即座に了承した。この夏はオープン・イノベーションのお勉強だ。とっかかりとして、この道の先駆者であるヘンリー・チェスブロウの最も古そうな著作から読み始めた。

実はチェスブロウについて言及するのはこのブログでは二度目である。ジェフ・ジャービス著『パブリック』について紹介する記事を書いた際、その中でチェスブロウの「オープン・イノベーション」についてこう書いている。
カリフォルニア大学バークレー校で准教授を務めるヘンリー・チェスブロウ氏が唱える「オープン・イノベーション」の概念も注目を集めている。それは、これまでの企業が優秀なエンジニアを擁し、自社のみで研究開発を行っていたことに対し、今後、自社の知的財産を他社にオープンにすることで、新たなビジネスモデルや製品を開発し、革新を起こすというものだ。
僕は『パブリック』を読んだ後、チェスブロウの著作も読んでおきたいなと思っていたので、先輩からの勉強会のお誘いに対して、先ずやったのがチェスブロウに当たるという作業であった。

著者によれば、20世紀の終わりになって、企業内部で研究開発投資をすることにより、新技術を発見するという「クローズド・イノベーション」が崩壊の危機に瀕しているという。1つには、熟練労働者の流動性が高まり、企業が長年働いた熟練労働者をつなぎ止めておくことが難しくなったこと。こうした労働者は、長年蓄積した知識を企業外に持ち去ってしまう(ノーベル賞の中村教授を想起させますね)。1つには、大学や大学院で訓練を受けた労働者の数が増え、多くの産業で大企業から中小企業まで知識のレベルが向上したこと。そしてもう1つはベンチャーキャピタルが台頭し、他社で埋もれてしまっていた研究を商品化することに特化したベンチャー企業に資金が回るようになったこと。「クローズド・イノベーションは、多くの製品がマーケットに出るまでのスピードがアップしたことと、新製品の寿命の短さに追いつけなくなった。さらに、ますます賢くなった顧客やサプライヤーを相手に利益を上げるのは困難となって来た。また、海外の企業からの競争も激しくなってきた」(p.7)

これに対して、「オープン・イノベーション」では、企業が技術革新を続けるために、企業内部のアイデアと外部(他社)のアイデアを用い、企業内部または外部においてアイデアを有機結合させ、価値を創造するアプローチのことだとする。ネットワークの発達により、今では顧客が企業の研究室にでもいるかのようにコミュニケーションをとることが容易になり、単に顧客からアイデアを得るというだけではなく、試作品を顧客に使ってもらいながら誤りや問題点を早期に把握し、完成品を早く市場に出すことが可能になってきたことが背景としてある。加えて、優秀な人材は1つの組織に所属せず、複数のチームに同時に所属し、異なる分野の異なる知識を活用することでイノベーションもよりダイナミックになってきているのだという。

序章に両者を比較した表が載っているので参考になる(p.10)。

【クローズド・イノベーション】
◆最も優秀な人材を雇うべきである。
◆研究開発から利益を得るためには、発見、開発、商品化まで独力で行わなければならない。
◆独力で発明すれば、一番にマーケットに出すことができる。
◆イノベーションを初めにマーケットに出した企業が成功する。
◆業界でベストのアイデアを創造した者が勝つ。
◆知的財産権をコントロールし他社を排除すべきである。

【オープン・イノベーション】
◆社内に優秀な人材は必ずしも必要ない。社内に限らず社外の優秀な人材と共同して働けばよい。
◆外部の研究開発によっても大きな価値が創造できる。社内の研究開発はその価値の一部を確保する
 ために必要である。
◆利益を得るためには、必ずしも基礎から研究開発を行う必要はない。
◆優れたビジネスモデルを構築するほうが、製品をマーケットに最初に出すよりも重要である。
◆社内と社外のアイデアを最も有効に活用できた者が勝つ。
◆他社に知的財産権を使用させることにより利益を得たり、他者の知的財産権を購入することにより
 自社のビジネスモデルを発展させることも考えるべきである。


さらに、どういう産業がどちらのイノベーション手法に向いているのかの比較表もある(p.12)。僕はこの比較表を用いた場合、我が業界がどのあたりに位置するのか、あるいはオープン・イノベーションに向かうためにはどこをどうする必要があるのかを考えてみることが可能かもしれないと思ったので、この表もあわせて掲載しておく。

【クローズド・イノベーション】
(産業の例)原子炉、メインフレーム・コンピュータ
◆ほとんど社内のアイデア
◆労働者の流動性が低い
◆ベンチャー・キャピタルが少ない
◆ベンチャー企業が少ない
◆大学は重要でない

【オープン・イノベーション】
(産業の例)パソコン、映画
◆多くの社外のアイデアを活用
◆労働者の流動性が高い
◆ベンチャー・キャピタルが多い
◆ベンチャー企業が多い
◆大学は重要である


著者の主張は、21世紀に入り、イノベーション創出メカニズムにも大きなパラダイムシフトが起きていて、今や社内で技術を開発するのと同時に、社外でも有用な技術を探し求めることが必要であるということ、そして、自社のアイデアは、自社のビジネスを成長させるためにどん欲に利活用するだけではなく、他社へも積極的に提供すべきだということになる。

今の僕にとっては序章の記述が本書の全てであり、続く章でさんざん紹介されているシリコンバレーの企業のイノベーション創出メカニズムの変遷についての記述はあまりピンとは来なかった。欧米の経営学の本を読んでいて、こうして欧米企業のケーススタディを載せられてもあまり実感をもって頭に入って来ないというはよくあることで、必要だったらまた読めばいいと開き直って飛ばし読みした。(それに、本書の翻訳はイマイチで、前の段落で書かれていたことから当然想像される次の段落の記述が180度逆になっていて面食らうというケースが多々あった。)

できれば日系企業のケーススタディは別途知りたいと思うし、本書のように結局のところは企業のイノベーションについてのみ書かれているところから、公的セクターとか国際協力とか、市民社会とかへの展開の可能性についてもいずれ展開していってみて欲しいとも思う。ま、後者は自分たちが先輩の主宰する勉強会で本来やるべきことなのかもしれないけど。また、以前読んだ野中・広瀬・平田編著『実践ソーシャルイノベーション』なんかも、オープン・イノベーションの切り口で読み直してみたら、別の味わいがあるのかもしれない。

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