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『森は知っている』 [吉田修一]

森は知っている

森は知っている

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: 単行本
内容紹介
自分以外の人間は誰も信じるな――子供の頃からそう言われ続けて育てられた。しかし、その言葉には、まだ逃げ道がある。たった一人、自分だけは信じていいのだ。
南の島の集落で、知子ばあさんと暮らす高校生の鷹野一彦。東京からの転校生・詩織の噂話に興じるような、一見のどかな田舎の高校生活だが、その裏では、ある組織の諜報活動訓練を受けている。ある日、同じ訓練生で親友の柳勇次が、一通の手紙を残して姿を消した。逃亡、裏切り、それとも? その行方を案じながらも、鷹野は訓練の最終テストとして初任務につくが――。
過酷な運命に翻弄されながらも、真っさらな白い地図を胸に抱き、大空へと飛翔した17歳の冒険が、いま始まる!
「ここよりももっと良い場所、あるよな?」「あるよ、いっぱい。私たちが知らないだけで」
ささやかでも確かな“希望”を明日へと繋ぐ傑作エンターテイメント!

久し振りに吉田修一作品を読んだ。僕の読書選択の珍しいパターンは毎週土曜日朝のTBSテレビ『王様のブランチ』なのだが、最近9時30分にすぐにTBSにチャンネルを合わせるのに反対する子ども達の抵抗が弱まり、『ブランチ』の最初のコーナーであっても見られるようになった。そこで少し前に紹介されたのが『森は知っている』だった。

吉田修一といったら出身が長崎だけに舞台が九州という作品が多い印象で、しかも日常普通に生活が営まれているところに、何かのきっかけて普通の人が事件や何らかの波乱に巻き込まれてしまうというストーリーが多いような気がする。『悪人』や『横道世之介』がそんなパターンだった。もう1つの傾向は、日常生活とは対照的な、世論を騒がせるような大きな事件をそれに絡ませるパターンだ。『横道~』に出てきたベトナム難民とか、『路』で出てきた台湾新幹線計画とか。あと、一見普通に見える人が持っている「影」の部分とか(『ひなた』)、淡い恋愛的要素を絡めておそらく2人の会話もそういう普通の2人の普通の会話を淡々と描いていてドラマチックな描写が少ない作家だという印象だ。

吉田作品としては珍しいシリーズものになりつつある鷹野一彦シリーズは、一見普通の高校生が持つ「裏」の仕事がかなり膨らませられた感があり、「日常」よりも「非日常」の方が大きく描かれている作品になっている。舞台も、日常の部分は石垣島から少し離れた南蘭島だが、非日常の部分は、東京であったり、フランスであったり、香港であったり、韓国であったりする。宮崎も出て来る。そして世相を反映して、中国バイヤーによる山林買占めと日本の水道事業民営化問題が扱われる。日常の部分では淡い恋心みたいなものはちょっと出て来る、勿論、深まらないし、最後は別れだ。中高生時代の恋なんてそんなものだろう。

鷹野の仕事は「産業スパイ」である。既にプロの産業スパイとして活動開始している鷹野を描いた第一弾が『太陽は動かない』だが、第二弾となる『森は知っている』は、産業スパイとなる前の訓練中の鷹野を描いているのである。しかも、今後のシリーズの展開への布石として、ライバルであるディビッド・キム、南欄島で一緒に訓練を積んだ同級生・柳等を登場させ、しかも最後は行方不明で終わらせている。今後の鷹野の活躍を描く中で、再び登場することもあるだろう。(ディビッド・キムは既に『太陽は動かない』でも出て来るけど。)

吉田修一の新展開として要注目だ。

タグ:鷹野一彦
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