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『インドクリスタル』 [読書日記]

インドクリスタル

インドクリスタル

  • 作者: 篠田 節子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/12/20
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
人工水晶の製造開発会社の社長・藤岡は、惑星探査機用の人工水晶の核となるマザークリスタルを求め、インドの寒村に赴く。宿泊先で使用人兼売春婦として働いていた謎めいた少女ロサとの出会いを機に、インドの闇の奥へと足を踏み入れてゆく。商業倫理や契約概念のない部族相手のビジネスに悪戦苦闘しながら直面するのは、貧富の格差、男尊女卑、中央と地方の隔たり、資本と搾取の構造―まさに世界の縮図というべき過酷な現実だった。そして採掘に関わる人々に次々と災いが起こり始める。果たしてこれは現地民の言う通り、森の神の祟りなのか?古き因習と最先端ビジネスの狭間でうごめく巨大国家を、綿密な取材と圧倒的筆力で描きだした社会派エンタメ大作。構想10年、怒涛の1250枚!

篠田節子さんの作品といったら、このブログを始めるずっと前、1990年代末に『ゴサインタン』を読み、2011年1月に『絹の変容』を読んで以来である。正直、この2作品を読んだら篠田作品を次にまた読もうとするには相当な勇気が必要だった。後味が極めて悪く、『絹の変容』に至ってはその後しばらく夢の中にもカイコが出てきた(笑)。二度と読むかと思った篠田作品だったが、それでも再挑戦したのは、新作の舞台がインドだったからだ。

新聞の書評などを読んでいても、その舞台がどこなのかわからなかった。水晶が産出する地域というのは聞いたことがなかったので、きっと僕がまだ訪れたことがない北東部なんじゃないかと勝手に想像していたのだが、実際に本を手にとってみると、それがオリッサ州(オディシャ州)南部、アンドラプラデシュ州との州境に近い山間地であることがわかった。僕自身、以前インドに駐在していた頃にこの地域を訪れ、作品にも登場するような山岳先住民の村の生活を垣間見る機会もあった。そこで目にした風景、人々の身にまとった衣装、住居、食べていたもの、11歳の女の子が自分の赤ちゃんを抱いていた姿等を思い出しながら長丁場の作品を読み進めることができた。現地の知人の車で先住民の村まで行ったはいいものの、帰路では激しい夕立に遭遇し、落雷によってなぎ倒された木に道路が塞がれ、真っ暗な中で立ち往生した。蚊にたかられてマラリアやデング熱の心配をしながらどうしようかと悩んだが、知人が携帯でバイクタクシーを呼んでくれて、それに分乗してなんとか最寄りの町まで戻ることができた。首都に住んでいるだけではなかなか経験することのできない、貴重な経験だった。

当然先住民の居住地とそこからたまたま採れることがわかった有用な鉱物資源のために、伝統的な暮らしと開発との間で先鋭化する葛藤が描かれている。作品で出て来る水晶は、地元住民にとってはさほど有用な鉱物資源ではないが、それを求めていた山梨の企業がこの地域で採れる水晶の原石を高く評価し、高値で購入・確保することを望んだところから均衡状態が崩れ、話が動き出す。毎年決まった時期にほんのちょっとだけ採っていた資源を、もし大量供給を求められて通年で採掘するようになると、何が起きるようになるのか。そこに地元の支配階級の地主や先住民を支援するNGO、社会党系の政治家などが絡んでくる。さらにはこの山岳地域で広範に活動を展開する左翼ゲリラ「ナクサライト」の活動にも細心の注意を払わなければならない。そういう難しさのある地域を舞台にした作品で、インドの抱える様々なジレンマを知るにはとてもいい作品だと思う。

この地域で活動をされている日本のNGOの関係者や、この地域での事業に関わっておられる本邦の企業の関係者の方に知り合いが何人かいるが、そうした方々からはこの作品はどのように映るのか、訊いてみたい気がする。

ただ、理解できなかったところも幾つかある。1つは作品を通じてのキーパーソンとなったロサの風貌。先住民でかつ瞳が大きく、第三の眼のタトゥーを額に入れ、かつ男性が魅了されるというのは正直イメージしがたい。そういう先住民出身の女性を見たことがないので。ロサ以外で出て来る先住民の人々の風貌はすごく腑に落ちたが、ロサだけは理解不能だった。

2つめは、そのロサが結局のところなぜ藤岡だけは生還させるような働きかけを一貫して行ったのか、その理由があまり描かれていないような気がした。3つめは、途中から登場したスラムの社会起業家ラジェンドラの捉え方。山間地の地主階級出身の彼が、先住民から搾取して成り立っている親の暮らしに反感を抱いてスラムでの活動を始め、カーストなどを気にしないという新しい世代のリーダー格だというのまではわかるけれど、そんな彼が結局山では父親と組んで、先住民をこき使って顧客が必要とする原石の採取量を確保しようと試みるのには、どう理解していいのかわからない戸惑いを感じた。

とはいえ、過去に読んだ篠田作品での経験から、ハッピーエンドにはならないだろうとは思っていたが、結末は収まるところに収まった感じで、篠田作品に対するある種の抵抗感はこの作品を読んでかなりやわらいだ。いい作品だったけど、1ページ二段組みで、540ページもある大作は読むのが大変で、結局週末の空いていた時間は全てこの読書に充てることになった。

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