『思い出は満たされないまま』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)
心に迷いを抱えた人を誘い込む、古い神社の鎮守の森。手を繋いでその丘を下りて行く三人の親子。団地の植え込みの木の間を走って行く、親指ほどの大きさの、背中に蝶の翅が生えた小さな女の子。平凡に見える、全ての人が何か不思議な物語を心に秘めている。注目の新鋭が紡ぐ、団地を巡る少し不思議で懐かしい物語。
収録作品:「しらず森」「団地の孤児」「溜池のトゥイ・マリラ」「ノートリアス・オールドマン」「一人ぼっちの王国」「裏倉庫のヨセフ」「少年時代の終わり」
初めての作家である。表紙の装丁にはあまりひねりもないし、図書室で新着本のコーナーで見かけた時には、最初借りるかどうするか迷った。たまには小説も読みたいところだが、贔屓の作家の新作にはなかなかお目にかかれない。本書については知らない作家だったのでちょっと躊躇はしたものの、「団地」というところには少しだけ興味もあったので、期待せずに借りてみることにした。
結果としては、久しぶりに新鮮さを味わえる団地小説に出会ったという感じがした。収録されている短編は全て連作になっていて、ある作品の登場人物やそれに絡む事物が別の作品でも別の形で登場したりするので、興味も長続きした。
それと、元々劇作家でもあるというところから納得がいったが、作品のタイトルの付け方とか、風景描写、会話の描き方等を見ていると、映画にしやすい作品だなと思ったりした。特に、タイトルの付け方にはかなりのセンスを感じる。さらに、各々の作品の中にきらりとする知性も感じさせられる。会話の中に、「ヘンリー・ダーガー」や「サンタフェの奇跡」、「仁風閣」等が挿入されている。恥ずかしながら僕は全然知らなかった。こうやって、あまり期待せずに読み始めた作品で、新しいことを学べるというのはかなり得した気分になれる。
これからの活躍が期待できる作家に出会った気がする。
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