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『闇の歴史、後南朝』 [読書日記]

闇の歴史、後南朝  後醍醐流の抵抗と終焉 (角川ソフィア文庫)

闇の歴史、後南朝 後醍醐流の抵抗と終焉 (角川ソフィア文庫)

  • 作者: 森 茂暁
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
60年におよぶ南北朝動乱。両朝合体後、皇位迭立を阻まれ、歴史の表舞台から姿を消した旧南朝の皇胤たちは、いかなる運命をたどったのか。陰謀に巻き込まれる者、再興の志を持つ者、さらに、三種の神器のひとつ、神璽を奪い去る事件をひきおこす者まで現れたのである。室町幕府の抱える矛盾や天皇家の闇を、少ない史料を丹念に集め実証。近・現代史にも影を落とすその歴史に光をあてる。新知見を盛り込んだ後南朝史の決定版。

久し振りに南北朝時代を描いた歴史書にハマっている。きっかけは先日ご紹介した亀田俊和『南朝の真実』を読んだからであるが、その中で、著者の亀田氏は、福岡大学の森茂暁教授を「南北朝研究の第一人者」と評価し、文中何度か森教授の著作からの引用を掲載していた。

僕自身も森教授の著作は何冊か読んでいる。最も古いのは1988年に書かれた『皇子たちの南北朝』(中公新書)だと思う。元々小学生時代に太平記を読んで日本史にハマったクチなのだが、NHKが大河ドラマで太平記を取り上げたのをきっかけに、南北朝時代にまつわる当時の既刊本を読み漁っていた中の1冊が『皇子たちの南北朝』だったのである。新書サイズだったので古文書からの引用は抑え目にして、とかくこの時代の歴史書では大きくフィーチャーされすぎる後醍醐天皇の背後に隠れ、歴史に翻弄された皇子達の生涯にスポットを当てたもので、この時代をひと通り説明していく本とは一線を画し、ある考え方の下でこの時代の断片を切り取り、1冊の本にまとめたという本だった。

南北朝時代を描いた歴史解説書といったら、このようにパターンがたいてい決まっているので、1冊あればあとは同じ時代をどのような視点で見ることができるかの勝負になってくる。その点で言うと、森教授の元々のご専門は南朝研究らしいが、南朝はそもそもが北朝あっての南朝なわけで、南朝史だけを描いても片手落ちとなることは否めない。また、南朝は吉野や賀名生を拠点としていろいろ物資が乏しい中で自らの存続自体が大きな課題でもあったので、日本国内への影響力も乏しく、外部向けに発出された文書が元々少ない。加えて幕府方から度々攻撃を受ける中で内部の文書もかなり消失しているようで、現存する文書が北朝方に比べて圧倒的に少ないのだという。それが、南北合一以降、元南朝の後亀山天皇系の皇胤が再び京を離脱して畿内南部に逼塞し、そこで室町幕府と朝廷に反旗を翻したのは、元々政務よりも北の朝廷の打倒が目的だったのだから、内部者の記した記録自体がほとんどない。そこで、教授が採用したのは、当時京で暮らしていた公家が私的に綴ってきた日記の読み込みである。

このため、本書は、後南朝の歴史といいつつも、これを読むと後南朝とは室町幕府と南北合一後の皇室・皇胤の混乱ぶりを投射する鏡のようなものであったのかなという印象を受ける。京都だけでなく、鎌倉府や播磨で幕府に反旗を翻す動きが描かれたり、南伊勢の北畠氏の動きが描かれたりして、いわば南北合一から応仁の乱あたりまでの室町時代中期の政治史全般が描かれているといってもいい。この時代だけで、室町幕府の将軍が数年間にわたって空位だった時期が2回もあったということは驚きだ。

僕自身は後南朝の予備知識としては伊勢の北畠一族の歴史を多少知っているが、北畠氏が南朝を助けたのは親房の孫の北畠満雅の代までで、その後は幕府との関係が180度変わったので、後南朝の時代は北畠氏との関係は弱まっていた。逆に言えば後南朝自体が僕自身にとってはフレッシュなテーマだったとも言え、へぇ~というエピソードも盛り込まれた興味深い1冊だった。

タイトルはちょっとセンセーショナルな感じで、いかにも月刊誌『ムー』の読者が好きそうなものだが、中身はいたって真面目で、古文書からの引用と訳文がふんだんに盛り込まれた専門的な本である。後南朝の動向を示す史料は少ないと著者は嘆くが、当時の公家がつけていた日記が今もこれだけ残っているのは驚きだし、著者の読み込み方もすごいと思った。

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