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スマートコミュニティ入門 [仕事の小ネタ]

トコトンやさしいスマートコミュニティの本 (今日からモノ知りシリーズ)

トコトンやさしいスマートコミュニティの本 (今日からモノ知りシリーズ)

  • 作者: 新エネルギー・産業技術総合開発機構
  • 出版社/メーカー: 日刊工業新聞社
  • 発売日: 2012/06/08
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
スマートコミュニティは、情報通信技術を活かして、再生可能エネルギーの導入を促し、社会全体を環境にやさしい体系に変革します。そこには新たなビジネスチャンスが潜んでいます。

このところ続いている「都市」をテーマにした連続記事の1つとして、今回は「スマートコミュニティ」を取り上げたいと思う。

本書によれば、スマートコミュニティというのは、「エリア単位での次世代のエネルギー・社会システムの考え方」のことを指し、「進化する情報通信技術(ICT)を活用しながら、再生可能エネルギーの導入を促進しつつ、交通システムや、家庭、オフィスビル、工場、ひいては社会全体のスマート化を目指そうとするもの」だという。また、その形は、エリア毎にそれぞれの特徴や課題があるのだという。

背景にあるのは、今後の目指すべき社会の姿が、低環境負荷と経済成長の維持の両立という、サステナブルな社会であり、エネルギーに関しては、安定供給と環境適合性、効率の向上が実現される社会であるからだ。電力やガス、水供給、交通システム、物流等のスマート化により物の流れを良くすることと、省エネ技術や環境技術を新たに開発・導入して物の流れを少なくすることがアプローチとしては考えられる。

2000年代前半までは、エリア単位における電力系統への再生可能エネルギー導入ニーズの拡大を背景に、太陽光、風力、小型コージェネなどの分散型電源を組み合わせた小規模な地域電力システムで、その地域の電力事情に応じた需要コントロールを行う「マイクログリッド(小規模電力系統)」が指向されてきた。これが2000年代後半になると、広範囲における電力系統の再生可能エネルギー大量導入に対するニーズが拡大し、多様な公共サービスとの組合せが登場する。「スマートグリッド」と呼ばれ、電力システムを対象としたスマート化(ICTを利用した計測制御技術の導入)を行うことで、電力系統と需要家との電力需給を巧くコントロールする時代になった。しかし、この「スマートグリッド」は、未だどちらかというと供給側の視点に立ったインフラ整備といえる。

これに対して、2010年以降は、未来の快適で充実した社会、豊かな世界を構築するため、多様な需要家のニーズに応えるサービスの確立が求められるようになり、「スマートコミュニティ」という考え方が出てきた。電力に加え、熱供給、交通、水、住居に関する情報や生活情報などもICTでつなぎ、コミュニティ全体として最適に制御・連携を図ることで、快適で震災にも強い安定した暮らしや環境を向上させる住居や事業者の潜在ニーズに応じた街づくりが指向されるようになった。これはいわば需要側視点のインフラ整備の考え方である。しかも、東日本大震災以後の東北の復興ニーズにより、震災や津波によって破壊されたコミュニティのインフラや人々の信頼関係を再構築する必要性が高まり、これを機会に取組みの加速化が求められている。

いま一度定義を整理すると、「スマートコミュニティ」は大正を電力のみでなく、熱供給、上下水道、交通、通信等、幅広い公共インフラを対象としたものである。これに対して、「スマートグリッド」というと、電力システムを対象としたスマート化のことだけを指す。以前ご紹介した「環境未来都市」とかだと都市のサステナビリティ(持続可能性)を広く捉えて高齢化対策や災害へのレジリエンスのような、エネルギーやインフラとは直接関係しない、ソフト面の話も加わってくるが、「スマートコミュニティ」というとエネルギー効率の話が中心に来てしまうような印象だ。実際、本書をずっと読んでいくと、なんだか電力とかエネルギーのことばかりが書かれている。

著者もNEDOだし。インフラ中心に都市を捉えてビジネスチャンスを窺っているような企業には受けのいい内容だと思う。前々から「スマートコミュニティ」という言葉は企業が主導して提唱している概念であるような印象を受けていた。需要側の視点に立ったインフラの整備だといかに本書が強調しようとも、本書を読んでもそこに住む住民やそこで働く人々の視点があまりよく見えず、むしろ企業や国、自治体が主導して行われている実証試験の具体例ばかりが出て来る、所詮はインフラの話であることには変わりはない。そういう本なので仕方ないと割り切って読むことが必要だ。

とはいえ、NEDOが総力を挙げて編集したと思われる1冊になっているので、あんなことこんなこと、スマート化の取組みが極めて豊富に描かれているのでありがたい。加えて、世界のスマートコミュニティに関する動向、海外でNEDOが行っている実証プロジェクトの具体的事例等、単にスマコミインフラで何ができるかだけではなく、実際に他の国ではどうなのかが描かれている包括的な内容だ。

でも、1つのエリアでのスマコミ化には、実に多くのアクターが存在することもよくわかる。都市の低炭素化の重要性は、本書ではあまり強調されていないけれども気候変動対策の観点からも重要であることは言うまでもない。だが、それじゃあどうやって1つの都市をまるごと低炭素化・スマコミ化しようとしたら、何からどう手を付けて行ったらいいのか、プロセスがよくわからない。そういうパッケージの全体像を描いて、必要なアクターをつなぎ合わせる役目を誰が担うのか、どれくらいのタイムスパンで見て行ったらいいのか等、実際にこれらを導入しようとした時のハウツーが本書には欠けている。

入門書だから仕方ないことかもしれない。でも、それがわからないとどうやってこれを国内だけでなく、世界全体での普及を日本がリードしていけるのか、そこは依然としてブラックボックスになっている。

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