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『クリエイティブ都市論』 [仕事の小ネタ]

クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める

クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める

  • 作者: リチャード・フロリダ
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2009/02/20
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
「クリエイティブ・クラス」という新たな経済の支配階級の動向から、グローバル経済における地域間競争の変質を読み取り、世界中から注目を浴びた都市経済学者リチャード・フロリダ。2008年に発表された本書では、クリエイティブ・クラスが主導する経済において、先端的な経済発展はメガ地域に集中し、世界都市は相似形になっていく現実と近未来像を描いている。さらに、クリエイティブ・クラスにとって、いまや自己実現の重要な手段となっている居住地の選択について、独自の経済分析、性格心理学の知見を使って実践的に解説する。

前々回に引き続き、「都市」に関する本を取り上げる。『ワーク・シフト』からの派生で読んだこの本は、市立図書館で借りて、連休中になんとか読み切れた1冊である。

僕がこの本に興味を持ったのは、この著者が元々はワシントンDCに住んでいた研究者で、それがトロント大学での教授ポストを得てトロントへ引っ越したという都市経済学者であるからだ。トロント大学といえばそもそもが都市論が盛んな大学で、しかもここの研究者は世界初の都市指標の国際規格ISO37120の制定に深く関与し、この規格を世界銀行が全世界で支援する都市開発のプロジェクトの現場で適用しようという取組みを進めている。

「ワシントン」(世銀の所在地)、「トロント大学」、「都市」といったキーワードすべてにヒットするリチャード・フロリダという人物は、きっとISO37120制定にも関わっていたに違いない―――そう勝手に予想した僕は、ISO37120の背景を知ることができないものかと思い、この本の内容を調べてみたいと思うようになったのである。結果的に、著者とISO37120との直接的なつながりは見出すことができなかったが、ISO37120制定に関わったトロント大学の教授とはどうも接点がありそうだ。

結論から言うと、とても面白く、自分が関わっている仕事にも何らか生かせたらと思える内容だった。

前半は、グローバル化の中で一握りの「メガ地域」とそれ以下の、停滞していく都市の格差が開いていくという著者の世界観を提示している。インターネットが普及し、世界はフラット化が進むという僕らの間で流行している通説は間違いで、実際は特定都市とその周辺地域を含めた「メガ地域」が突出して高い活力を示し、さながら世界各地に長さの異なる鋲が幾つも置かれた「スパイキー」な世界像がより実態に近いと著者は指摘している。

これからの世界は一部のメガ地域と他の停滞する都市や農村との競争、というか格差拡大に至るという未来展望には激しく同意する。ただ、この世界観でショッキングだったのは、高い技術や才能、寛容性を有するクリエイティブな人々が集積する地域・都市というのが北半球、特に米国東海岸や西海岸に集中しており、アフリカをはじめとする開発途上地域にはほとんど「スパイク」が出来ていないという事実だった。要するに、途上国の都市は今後も人口稠密化が進むけれども、クリエイティブな人々が集積する地域にはなっておらず、イノベーションの源泉にはなりにくいだろうと言われているようなもので、そうすると、途上国では、クリエイティブではない人ばかりが都市に集積して、ただ馬鹿でかいけれども経済活動は停滞した、さながらスラムのような都市が拡大を続けるということが示唆される。

正直これはかなりショッキングだ。せっかく途上国で人材を育てても、能力を持つ者ほど国外に流出し、その行き先が欧米だというのだから。幸い、日本はまだイノベーションの源泉になるメガ地域が存在するが、それでもクリエイティブな人々が集積する地域としては認知されていないという。本当に能力のある人は、やっぱり米国西海岸や東海岸に移り住んでしまうのだ。昨年ノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏などその典型例だろう。

とはいえ、後半になると著者は都市にはそれぞれに歴史的構造からくる個性があるとし、自らの性格に適合した都市に住むことが幸福を高め、人生に成功をもたらすという主張を展開する。そして、米国の主要都市とその周辺地域には、どのような性格の人が多く住んでいるのかを示し、自分の幸福を保証してくれる街をどのようにして探すか、幾つかの視点を提示している。

ただ、米国視点で書かれているので、日本に住む僕らには面白くない記述が延々続き、出版社もそれがわかっていたからだろうが、邦訳版を出版するにあたって、後半の幾つかの章はカットしている。引越しが比較的気軽に行われる米国で、次にどの街で住むかを考えるにはいいかもしれないが、どの街に住むかというのはどこで生まれたか、両親はどこに住んでいるかとか、自分1人の個人的な動機だけで決まらないところもかなり大きいような気がする。

本書には日本に関する言及はほとんどない。メガ地域が2つ出てくるだけで、スパイキーな世界といいつつも、日本に関しては国全体で突出したスパイクを形成しているように見える地図の描き方になっている。でも、日本で今起きていることは都市間、自治体間の競争である。高齢化を見据えて都市のコンパクト化が叫ばれるものの、それを進めるには少ない人口をどこに集中させるかというような自治体間の競争が起こる。ある都市が魅力を高める施策を取ると、それ自体は部分最適化にはなるかもしれないが、後背地にある農村部から人を吸収して農村の人口過疎化をさらに進めたり、他の条件の良くない都市からの人口吸収で他都市の経済活力をさらに減退させたりといった具合に、全体の最適化にはつながらないかもしれない。そんな状況が日本では懸念されるのに、本書の分析はメッシュが粗いために、日本で懸念されるミクロの事象に対する示唆が必ずしも示されていない。

日本国内でも地域間の競争になるわけだし、グローバルに見てもクリエイティブな人材の奪い合いのような状況が今後激化し、なおかつ欧米に有利な状況が変わらないので、アジアやアフリカの開発途上地域にとってはますます不利な状況になることが懸念される。こうなってくると政治、政策の出番だと思うのだが、各々の国、地域、都市において、だから政策として何が求められるのかはあまり書かれていなかった。結局本書は、より大きなチャンスを求めて引っ越しを繰り返すような才能ある人にとっての転居先探しのガイド本のようなもので、僕のような問題意識を持っていた者が読んでも、100%そのニーズを満たしてくれるような内容のものではなかったというわけだ。

この著者は意外と多作で、本書以外にも訳本がかなり出ている。もっと調べてみたい気もするけれど、それよりも、著者が頻繁に引用しているジェイン・ジェイコブスの都市論に関する先駆的著作を読んでみるべきかもしれない。


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