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『ワーク・シフト』 [仕事の小ネタ]

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

  • 作者: リンダ・グラットン
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2012/07/28
  • メディア: ハードカバー
*下流民か、自由民か。地球規模で人生は二極分化する*
2025年、私たちはどんなふうに働いているだろうか? ロンドン・ビジネススクールを中心とした、「働き方コンソーシアム」による、世界規模の研究が生々しく描き出す2025年のに働く人の日常。「漫然と迎える未来」には孤独で貧困な人生が待ち受け、「主体的に築く未来」には自由で創造的な人生がある。どちらの人生になるかは、〈ワーク・シフト〉できるか否かにかかっている。

以前からご紹介している通り、僕はこのところ、2025年とか2030年とか、はたまた2050年とか2100年とか、様々な角度から未来を予測しようと試みた本を意識的に読むようにしている。温室効果ガスを今までと同じペースで輩出していったら、地球の温暖化は今世紀末までにどれくらい進むのか。それに伴って自然災害がどの程度頻発するのか。人口動態からみて国家間の勢力図はどのように変わって来るのか。そういった大きな絵図を示した本が多かったと思うが、それでは我々の日常生活、働き方のスタイルはどう変わっていく可能性があるのかといった、より実生活にリンクしたリアルな未来予測に触れる機会はまだまだ少なかった。

そんな折に、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットンの著書『ワーク・シフト』(原題、The Shift)を読む機会に恵まれた。このタイプの別の本、ちきりん著『未来の働き方を考えよう』を読んで、そこでやたらと『ワーク・シフト』を引用していたので、ちきりんの著書に感化されるところは少なかったけれど、『ワーク・シフト』は読んでおいた方がいいと考えた。それでも最初は図書館で借りて読みはじめたのだが、途中からこの本の価値の高さを痛感し、1冊購入することにした。

非常にわかりやすい構成になっているので、要約をご紹介してみたい。

先ず、働き方の未来図を考える前提として、グラットンは、今後の我々の働き方の未来図を左右するのは以下の5要因であると述べる。

1.テクノロジーの変化、
 ①テクノロジーが飛躍的に発展する。
 ②世界の50億人がインターネットで結ばれる。
 ③地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる。
 ④生産性が向上し続ける。
 ⑤「ソーシャルな」参加が活発になる。
 ⑥知識のデジタル化が進む。
 ⑦メガ企業とミニ起業家が台頭する。
 ⑧バーチャル空間で働き、「アバター」を利用することが当たり前になる。
 ⑨「人工知能アシスタント」が普及する。
 ⑩テクノロジーが人間の労働者に取って代わる。

2.グローバル化の進展
 ① 24時間・週7日休まないグローバルな世界が出現した。
 ② 新興国が台頭した。
 ③ 中国とインドの経済が目覚ましく成長した。
 ④ 倹約型イノベーション(frugal innovation)の道が開けた。
 ⑤ 新たな人材輩出大国が登場しつつある。
 ⑥ 世界中で都市化が進行する。
 ⑦ バブルの形成と崩壊が繰り返される。
 ⑧ 世界の様々な地域に貧困層が出現する。

3.人口構成の変化と長寿化
 ① 1980~95年頃生まれの世代の影響力が拡大する。
 ② 寿命が長くなる。
 ③ ベビーブーム世代(1945~64年頃生まれ)の一部が貧しい老後を迎える。
 ④ 国境を越えた移住が活発になる。

4.社会の変化
 ① 家族のあり方が変わる。
 ② 自分を見つめ直す人が増える。
 ③ 女性の力が強くなる。
 ④ バランス重視の生き方を選ぶ男性が増える。
 ⑤ 大企業や政府に対する不信感が高まる。
 ⑥ 幸福感が弱まる。
 ⑦ 余暇時間が増える。

5.エネルギー・環境問題の深刻化
 ① エネルギー価格が上昇する。
 ② 環境上の惨事が原因で住居を追われる人が現れる。
 ③ 持続可能性を重んじる文化が形成されはじめる。

そして、こうした要因が複雑に絡んで、今後僕達が何もせず漫然と2025年を迎えると、以下で示すような暗い現実が待っているだろうと予想する。

◆いつも時間に追われ続ける、3分刻みの世界がやってくる。睡眠時間もろくに確保できない。時間に追われることで、専門技能は磨きにくくなり、省察と学習の機会が失われ、息抜きや遊びの要素が排除されるようになる。
◆人とのつながりが断ち切られ、孤独にさいなまれるようになる。働く場の分散化が進んで同僚との気軽な関係が消滅する一方、家族との関わりが希薄になる。
◆繁栄から締め出される新しい貧困層が生まれる。「勝者総取り」社会で格差が広がる。何を所有し、何を消費するかを基準に人間を格付けする傾向が強まり、ナルシシズムと自己アピールが蔓延する一方、繁栄を享受できない層は劣等感とスティグマに苛まれる。

しかし、冒頭の5要因は、僕達がこうした暗い現実を予想して、これに抗って現実を変えていく努力をしていけば、ひょっとしたら、次のような主体的に明るい未来を築ける方向にポジティブに働いてくれる可能性は依然残されている。

1.みんなの力で大きな仕事をやり遂げる「共創(co-creation)」。組織内でのイノベーション創出に代わり、組織間でのダイナミックな関わりからイノベーションを創出するという「オープン・イノベーション」が普及する可能性。
2.積極的に社会と関わり、社会問題の解決に取り組むことで、バランスのある人生を送れる可能性。
3.ミニ起業家が活躍でき、創造的な人生を切り開いていける可能性。新興国や途上国発の倹約型イノベーションが先進国にも普及していく。

こうした明るい未来を主体的に切り開いていくには、これまでの固定観念、知識、技能、行動パターン、習慣などを根本から「シフト」する必要があるという。著者はこうした「シフト」について、仕事の世界で必要な資本、「知的資本」「人間関係資本」「情緒的資本」の3つに整理し、それぞれについて未来にどのようなシフトが必要かを述べている。

1.知的資本(知識、知的思考力):幅広い分野の知識と技能を持つことから、その他大勢から自分を差別化することへのシフト。そのためには、時間と労力を費やして専門分野の知識と技能を高め、熟練の技を磨きあげることが必要。但し、長い職業人生の中で、いくつかの専門技能を連続的に習得していくことが求められるようになる。
2.人間関係資本(人的ネットワークの強さと幅広さ):生活に喜びを与えてくれる深い人間関係(強い紐帯)、及び様々なタイプの情報や発想と触れることを可能にする広く浅い人間関係(弱い紐帯)、いずれも含めた多様性のある人的ネットワークを意識的に築く必要がある。
3.情緒的資本(自分自身について理解し、自分の行う選択について深く考える能力、勇気ある行動を取るために欠かせない強靭な精神をはぐくむ能力):自分の価値観に沿った生き方を選択し、情熱をもってなにかを生み出す生活スタイルが評価される社会へのシフトが必要。

ここで書かれていたようなことは、断片的にはこれまでにも読んできた別の本で、それぞれクローズアップして書かれてきたようなことが多い。例えば、「人間関係資本」のくだりなど、グラノヴェッターの「弱い紐帯の強み」の議論をそのまま持ってきているし、「倹約型イノベーション」なんて、以前このブログでご紹介した「ジュガード・イノベーション」「リバース・イノベーション」の論点をそのまま使っているという印象が強い。

そういったことから、この本は、僕がこれまで断片的に集めていた様々な情報をうまく組み立てたら、こんな未来像が描ける――何もせずに漫然とあと15年生きたらこうなるが、もし主体的に未来を変える努力を積み重ねていけば15年後はこうなっているという、2種類の未来予想図を示してくれているように思う。まだ今年も3ヵ月少々経過しただけだが、現時点まででいえば、この本はこれまで読んだ様々なジャンルの本の中でも第1位に挙げてもいいくらい、面白い1冊だった。僕ら自身の働き方、今後の身の振り方を考える上でも貴重な示唆を与えてくれるが、これから大学・社会人への第一歩を踏み出すような僕らの子ども達にも、こういう本を読んでから自分の進路を考えてみて欲しいと促すことのできる本だ。

ある意味本書で最も衝撃的だったのは、自動翻訳機能が充実して、僕らは外国の人と話す場合も、日本語で会話できる――相手のしゃべった言葉がすぐに日本語に翻訳されて日本語で音声が聞こえる、逆にこちらがしゃべった日本語がすぐに相手の言葉に翻訳されて、相手の言語で伝わる――要するに自分たち自身で外国語を習得する努力を払わずとも、機会が勝手に翻訳をしてくれる、そんな世の中があと10年もしたら到来すると予想されていることだ。そうなると、TOEICで高得点を取ることや、英検1級の価値が急落し、同時通訳者が食いっぱぐれるといった事態が起こり得るわけだ。つまり、僕らが今まで当たり前だと思っていたことが、当たり前でなくなるということだ。このあたりの話、読んでいたら英語や他の外国語の習得で苦労してきた僕自身の歩みが全否定されたような気持ちにもなり、少しばかり心が痛んだ。この理屈を我が子が持ち出し、「外国語なんて勉強しなくてもいい」と主張し始めないかという、余計な心配までしてしまう(苦笑)。

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