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『勇者たちへの伝言』 [読書日記]

勇者たちへの伝言 いつの日か来た道

勇者たちへの伝言 いつの日か来た道

  • 作者: 増山実
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2013/12/12
  • メディア: 単行本
内容紹介
ベテラン放送作家の工藤正秋は、リサーチのために乗車していた阪急神戸線の車内アナウンスに耳を奪われる。「次は……いつの日か来た道」。謎めいたアナウンスに導かれるように、彼は反射的に電車を降りた。 小学生の頃、今は亡くなった父とともに西宮球場で初めてプロ野球観戦した日のことを思い出しつつ、街を歩き始めた正秋。いつしか、かつての西宮球場跡地に建つショッピング・モールに足を踏み入れる。正秋の意識は、そこから「いつの日か来た道」へと飛んだ。四十数年前へ――。

以前にもご紹介した通り、僕は近所のコミセン図書室で本を借りる時、息抜きも兼ねて1冊は小説を含めるようにしている。今回もそんな軽い気持ちで、装丁が優しそうだし珍しく往年のプロ野球強豪球団を絡めた小説とおぼしき1冊を借りる本の中に含めたが、これが蓋を開けると結構重い1冊となった。

「人気のセ、実力のパ」―――そんな言葉が僕らの耳に初めて入ってきた時代、パリーグの実力派球団といったら阪急ブレーブスだった。オリックスに身売りしてから仰木監督の下で二度リーグ優勝しているが、近年の低迷は著しく、とてもそんな面影を今感じることはない。でも、僕らがプロ野球を本当に意識し始めた昭和40年代後半、上田監督の下で福本、蓑田、加藤、長池、マルカーノ、山田、足立、米田、山口高志、今井、佐藤義則らを擁した阪急は、リーグの中での人気は南海や近鉄、東映に譲っても、とにかく強かった。ただ、お世辞にも人気球団とはいえなかった。在阪パリーグ球団といえば人気ナンバーワンは南海ホークスだったと思う。

そんな不人気実力球団・阪急ブレーブスの往年の名選手や、当時の人気を博していた俳優、歌手で在日朝鮮人の帰還事業で北朝鮮に渡った実在の人物が登場したりと、史実とフィクションを織り交ぜて話が展開する。

序盤はブレーブスの試合を見に西宮球場に自分を連れてきた寡黙な父親が、何を考えていたのかを探る話として展開する。能登の寒村から生計機会を求めて日本国内を歩き回った祖父母の時代から紐解き、祖父母がどうやって知り合い、父がどこでどう生まれたのか、それがなぜ神戸で洗濯店を営むようになったのかまでが語られる。昭和44年にタイムスリップした息子が、父の半生を本人の口から聞き出すという話だ。

ところが、この父が西宮球場で、ブレーブスの試合ではなく競輪開催に通っていた時に巡り合った在日朝鮮人の女性が登場したあたりから話が動き始める。そうした経緯を知った主人公が、その後インタビューしたブレーブスの代打の切り札・高井のサイン入り色紙を西宮界隈で探すうちに、自分と父に宛てた手紙の存在を知る。父が昔西宮球場界隈で交流を深めていた女性からの手紙だった。そして、その分厚い手紙から、昭和40年代に盛んに行われていた在日朝鮮人の北朝鮮への帰還事業の実態が明らかになっていく。

途中からこれは小説なのかルポなのか、わからなくなるところがあった。著者はこの作品で何を訴えたかったのだろうかと時々考えた。ブレーブスと西宮球場の記憶を残そうという試みなのか、北に渡った人々の過酷すぎる生活、北朝鮮の暗黒過ぎる政策とそれを黙認していた日本政府の共謀の罪を訴えたかったのか、いずれにしても、本書の後半部分は、単に小説としてだけでは終わらない重苦しさを覚えた。

後半はほとんどがこの女性・李安子さんの書いた手紙で構成されいる。長いとはいえ、長すぎではないかと思わないでもない。小説なのかルポなのか、わからなくなった最大の理由は、後半のほとんどが手紙からの転載だったからだと思う。

それと、この作家さんのスタイルなんだろうが、ワンセンテンスで段落を区切る書き方は、ちょっと読みづらいとも思った。中身の薄っぺらい新書や自己啓発書ではよく見かける文体だが、本書はもうちょっと重いので、段落はもう少しまとめてから区切っても良かったような気がするが、これが放送作家出身の人が書く小説のスタイルなんだろうか。

いずれにしても、なんとなくこの作品はいずれ映画化されるのではないかという気がする。最初から映画化想定で書かれているような感じを受けたもので。

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