So-net無料ブログ作成

『入門 人間の安全保障』 [仕事の小ネタ]

入門 人間の安全保障 - 恐怖と欠乏からの自由を求めて (中公新書)

入門 人間の安全保障 - 恐怖と欠乏からの自由を求めて (中公新書)

  • 作者: 長 有紀枝
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2012/12/18
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
1994年、国連開発計画によって、国家ではなく一人ひとりの人間を対象とする「人間の安全保障」が提唱された。以来、頻発する紛争や暴力などの「恐怖」と、世界を覆う貧困や飢餓などの「欠乏」からの自由を目的に発展を遂げてきた。本書は、長年にわたり世界各地で緊急人道支援、地雷禁止条約策定交渉など最前線で活動を続けてきた著者が、自身の実践と国際政治学の知見をふまえて解説する包括的な入門書である。

1年ほど前から気になっていていずれ読みたいと思っていたのだが、先月著者の長さんが登壇されているパネルディスカッションを見て、今がちょうど読み頃なのかもと思っていた。前半の2章はあまり人間の安全保障と関係のないお話だったので飛ばし読みだったが、それ以降の全ての章については、かなり真剣に熟読した。自分が別の会議でこのテーマで話さなければならなくなったというのが直接的なきっかけで、そもそも僕はこれまで、1994年のUNDPの人間開発報告書と2003年の人間の安全保障委員会(CHS)報告書『Human Security Now(邦題:安全保障の今日的課題)』しか理解のために依って立つ文献にあたったことがないため、「恐怖からの自由、欠乏からの自由」とか、「上からの保護、下からのエンパワーメント」とかいった、通り一辺倒の言葉でしか「人間の安全保障」を理解してこなかった。それが、いきなり自然災害とか気候変動とかといった、より実践的なテーマと絡めて「人間の安全保障」のレンズで見たら何が言えるのかをしゃべれと言われて、はたと困ってしまったという経緯がある。

藁をもすがる思いで読み始めて、2012年9月の国連総会決議とか、「人間の安全保障」の概念が国際社会で受容されてきたという経緯もよくわかってきた。この著者はNGO難民をたすける会の関係者の方なので、そういう視点からの記述が本書の場合は多い。ところが、この本が書かれた時期というのは既に東日本大震災・福島原発事故が起こった後だったので、それまで国際協力活動に従事してきた著者のNGOが、日本国内で国内避難民(IDP)が発生するような事態にどう関わったのか、そこから何が見えてきたのかについても詳細に論じられている。

これまで、日本政府は、事あるごとに政府首脳を通じて「人間の安全保障」という言葉を発信してきた。本書にも書かれているが、日本政府が国連に人間の安全保障基金を創設して単独資金拠出したのも、国連に人間の安全保障委員会を設置して、共同議長にアマルティア・セン教授と緒方貞子氏を据えたのも、いずれも当時の小渕、森両総理の提唱によるものだったし、先だっての仙台での第3回国連防災世界会議の冒頭で安倍総理が発した「仙台防災イニシアティブ」にしても、その冒頭で防災分野の国際協力を推進する指導理念として「人間の安全保障」を謳っている。1月に公表された新しい国際協力大綱(改訂版ODA大綱)にしても、指導理念にはそう書かれていたと思う。

でも、ここまでを振り返ってみるとわかるのは、日本政府は国際協力の文脈の中でしか「人間の安全保障」を謳っていないということである。本書は、こうした国際協力の文脈の中だけではなく、国内政策でも「人間の安全保障」の実現にもっと取り組む必要があるのではないかと思う。著者はこの点を主に東日本震災直後の被災地でのジェンダーや高齢者・障害者への配慮と、福島原発事故発生により長期の避難生活を強いられている人々への配慮という点から論じているが、今週の週刊東洋経済の特集なんかを見ていると、そういう災害時の脆弱な人々への配慮だけではなく、もっと一般論として、国内でも「人間の安全保障」は論じられるべきだと思う。

週刊東洋経済 2015年 4/11号 [雑誌]

週刊東洋経済 2015年 4/11号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2015/04/06
  • メディア: 雑誌
内容紹介
【第1特集】あなたを待ち受ける 貧困の罠
国際比較で見た「生活保護」日本の特徴は家族まかせ
ルポ1 追い込まれる弱者たち 年金だけでは暮らせない 老後破綻の恐怖
6世帯に1世帯が貧困 困窮する子育て世帯
東京・豊島区 住民の「おせっかい」が子どもを貧困から守る
辞めたくても辞められない バイトに潰される苦学生
元AV女優・日経記者が歩く 女性の貧困最前線
政策を問う 迷走を続ける貧困行政 生活費も家賃もカット 改悪続く生活保護制度
あの芸人の親は不正受給ではなかった はびこる生活保護への誤解
厚労省が物価を偽装? 揺らぐ保護費削減の根拠
新たなセーフティネット 自立支援法は機能するか
独自推計マップ 貧困のない県も! 広がる地域格差
INTERVIEW│私ならこうする! 竹中平蔵 /阿部 彩/佐野章二
ルポ2 広がる労働者の格差 増え続ける派遣・パート ワーキングプアの蟻地獄
進む親の高齢化 就職氷河期世代ひきこもりの憂鬱
ケースワーカーも不安定 悲鳴上げる非正規公務員
ワーキングプア解消の切り札? 広がる公契約条例の実態

話が多少脱線するが、週刊東洋経済がこういう特集を組むのはいいにせよ、これを「人間の安全保障」と絡めて論じられていないという点では、これを「人間の安全保障」上の問題だと思っていないのは、日本政府だけじゃなくてメディアも同じなんだろうと思うと寂しい。

日本政府が国際協力の場でいくら「人間の安全保障」を指導理念にしようと国際社会に訴えたとしても、国際と国内でやっていることに一貫性が取れていなかったら、なかなか他の国に受け入れてもらえるような説得力のある概念になっていかないような気がする。残念なことに、「人間の安全保障」は、2015年から2030年までの国際的な開発課題を体系化する「持続可能な開発目標(SDGs)」の議論の中で、その人間中心の考え方、何人たりとも取り残さないという考え方、ダウンサイドリスクへの配慮、専門分野・セクター別で考えるのではなく包括的に人々を取り巻く課題やリスクを捉えるというアプローチ等、SDGsの持つべき性格と共通するところはかなり大きいのに、昨年末に発表された国連事務総長統合報告書には、「人間の安全保障」という言葉自体に全く言及されていない。

国際協力と国内政策を切り離して、国際協力の場でしか「人間の安全保障」を使っていないと、ユニバーサルな概念として世界に受け入れてもらえないということなのだろうと思う。

そういう視点で見ると、「人間の安全保障」概念の国内政策への適用の必要性を論じた著者の視点は極めて重要だと思うものの、それではこの概念は世界でどのように受け入れられていないのかについて言及していない点には若干の物足りなさも感じる。例えば、次のような疑問が湧く―――。

◆2012年の国連総会決議で、議案を共同提出した国々は基本的に「人間の安全保障」を支持していると思うし、総会で決議されて「人間の安全保障」の今日的意義については多くの国連加盟国が支持しているにも関わらず、なんでSDGsになると言及がないのか?

◆同様に、それだけ支持する国があるのに、なんで国連の人間の安全保障信託基金への資金拠出は日本だけが突出して多くて、他の主要支持国は資金拠出すらしていないのだろうか?

◆逆に、日本は「人間の安全保障」の強力な提唱国だと自称しているのに、なんでカナダやタイ、オーストリア、チリ等、多くの国が参加している「人間の安全保障ネットワーク(HSN)」に参加していないのか?

◆なんで国連大学の環境・人間の安全保障研究所は、東京・青山の国連大学ではなく、ドイツのボンにあるのか?

◆その立地はともかくとして、なんでその研究所に日本人の研究者はいないのか?

◆まあ国連大学の研究所には拘らないにせよ、なんで「人間の安全保障」に関連した政策研究ですぐれた成果をあげた研究者が日本には少ないのか?例えばIPCCの報告書で「人間の安全保障」を論じた単独章ができたが、そこに貢献した日本人研究者っているのだろうか?

若干ないものねだりが過ぎるかもしれないが、そのうちどなたかこういう疑問にも答えてくれる著作が出てくるのを期待したいところだ。

nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0