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『グリーン・エコノミー』 [仕事の小ネタ]

グリーン・エコノミー - 脱原発と温暖化対策の経済学 (中公新書 2115)

グリーン・エコノミー - 脱原発と温暖化対策の経済学 (中公新書 2115)

  • 作者: 吉田 文和
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2011/06/24
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
震災後のいま、原発依存からの脱却、経済の復興と発展、地球温暖化対策が大きな課題となっている。「自然エネルギーは原発の代替にならない」「これ以上の省エネの余地はない」「温暖化対策は経済発展をさまたげる」等の懐疑論もあるが、制約を転じて発展に変える発想が必要である。ドイツやデンマークなど諸外国や国内先進地である北海道の事例を紹介・検証しながら、理想と現実を繋ぐロードマップを提示する。

最近、JICA研究所がドイツ経済研究所(DIE)と共催したシンポジウムに出てみた。そのシンポジウムの話は既にJICA研究所のHPに掲載されているのでそちらをご覧いただければと思うが、その中で印象に残ったのは冒頭で行われたDIEのショルツ副所長の基調講演で、ドイツが持続可能な開発にドイツ国内で取り組む国家戦略を策定しているというお話だった。同じような国家戦略が日本にあるかといったら多分ない。「持続可能な開発」の定義がはっきりしていないこともあるけれど、もっと大きいのは、この言葉を用いて国際交渉の場に出ておられる政府関係者の暗黙の前提が「途上国の」持続可能な開発であって、そこで想定されるのは、途上国向けの開発協力だからではないかと思う。ドイツの国家戦略というのは、ドイツ国内での取組みも含めた持続可能な開発への貢献なので、途上国の持続可能な開発に協力するにしても、単に援助を行うというのだけではなくて、貿易とか投資とか、補助金の廃止とか、留学生や出稼ぎ労働者の受入れとか、さらには国内での温室効果ガス排出削減とかだったりとか、考えられる選択肢は多い。そしてそれらが持続可能な開発に向けて政策的に一環しているかが問われている。ひょっとしたら僕らの消費パターンが持続可能でなかったりしないか、プラゴミのリサイクルがちゃんと行われているのか、といったことまで問われているのかもしれない。安いからといって購入した製品を、途上国で組み立てている工場で児童労働を利用していたなんて事態もあるかもしれない。

このセミナーに出る少し前から、本日紹介する本は読みはじめていた。その中でもドイツについては紹介されていて、環境政策とエネルギー政策、経済成長促進策が連携した、一貫性のある政策体系になっていると評価されていた。それに比べて我が日本は・・・と思わなくもなかったけれど、そんなに詳しくないのでこれ以上は言えない。日本で同じことをやろうとしても、省庁間の縦割りだけでなく、環境とエネルギーと成長を並立しようというのが国民的議論になっていない難しさも痛感する。

このような時事問題を扱う本を読むと毎回思うのは、本は刊行から時間が経ちすぎると扱っている内容が時代遅れになっていってしまうことだ。この本も、多分原稿執筆の最中に東日本大震災・福島原発事故が発生していて、新たな章の加筆が必要になったのではないかと想像する。それはそれで4年前を振り返るドキュメントとしては有用だと思うが、エネルギーのベストミックスに関する議論は、その当時よりは少しは進んでいるのではないかと思いたい。(確か、最近経産省が電源構成のあるべき姿に関してパブリックコメントの募集をしていて、ラジオ番組でもいろんな識者の声を聴いていたが、その識者の立場によっていろいろな考え方があるのだなと思った。)

経済と環境とエネルギーを考えるための切り口というのは数が多いため、本書の目次構成を見ると、各章間の関連性が必ずしも良くなくて、読んでいて自分が今全体の中でどこにいるのかというのが時々わからなくなった。読了までにかなり時間がかかってしまった理由は、本書の論点が多すぎるからだと思う。だから、この本は座右に置いて必要に応じて必要な個所を引用するのに使うのがよいと思う。はっきり言って通読には向かない。

個人的に今の自分の問題意識に最もヒットしたのは、グリーンエコノミーの発展度合いは1人当たり国民所得のような経済的指標で測るのではなく、生活の質をトータルで見て、幸福かどうかを測る別の尺度が必要だとして、2010年前後に盛んに論じられていた「幸福度」の計測に関する国際的議論をまとめられている点であった。あの議論も今国際場裏で行われている「持続可能な開発」を巡る国際目標の設定の議論にどうつながってきているのかはよくわからないけれど、少なくともその当時活発にされていた議論の一端を学ぶにはちょうど良い1冊だった。

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