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『パブリック』 [仕事の小ネタ]

パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ

パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ

  • 作者: ジェフ・ジャービス
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2011/11/23
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
これまでのプライバシー/パブリックの境界を越えて今、人々が自分をオープンにさらし、シェアしはじめている。それは、“パブリックであることが価値を生みだす”ことに、ますます多くの人が気づいてきたからだ。それは個人にとどまらない。企業は、透明性とコラボレーションによるイノベーションの可能性に気づき、政府や自治体は莫大な保有データを公開することで新たな価値を生みだしはじめた。ネットを介して生まれつつある“パブリック”―それは、ソーシャルメディア革命と3.11を経て見えてきた、大公開時代の新しいフロンティアだ。

ビッグデータについて勉強していると、必ず突き当たるのがプライバシーの問題である。これまでに読んだ書籍の中では、プライバシー云々を言うよりもデータ活用によりもたらされる便益が大きければビッグデータの活用は進められるべきなのではないかという意見が大勢だったような気がする。プライバシー云々での実害が具体的にあるのかというと報告されるケースは意外と少なく、プライバシー問題というのは多分に感覚的な「気持ち悪さ」というレベルのものに過ぎないのではないか等等。そうかもなという気がしないでもない。

プライバシーというのを僕達が考える機会といったら、ソーシャルメディアにどれくらい個人の特定できる情報を出すかという問題がすぐに思いつく。僕はこのブログでは家族の写真は載せないようにと妻から釘を刺されており、Facebookでもそれが徹底させられている。Facebookで家族の写真を掲載するのは、公開範囲を極めて限定して、実家の両親に孫の近況を知らせることだけを目的として掲載するケースに絞られている。そこまでやるかという気がしなくもないが、これも当の家族ひとりひとりの気持ちの問題のような気がするので、そのルールは守っているところだ。

ソーシャルメディアにおけるもう1つの機会は、僕自身の素性をどこまで明かすかという永遠の課題もある。後で上げ足取られるのはかなわないので、僕は自分の会社や業界に対する批判的な記事はこのブログでは書かないようにしている。たまに納得いかない仕事で長時間の残業を強いられたりする時にその事実を淡々と書いているケースはあるし、記事の内容を読んでいればわかる人にはわかってしまうだろうとは思う。会社に関して言えば、どこまでを情報公開するか、透明性強化の議論が業界内にある中で、我が社としてどこまでその流れに応えるのかという喫緊の課題がある。僕はどんどんやったらいいと思っているけれど、どうやるかという技術的なところがわかる人が実は社内に少ないのではないかというのが気になっている。

「パブリック」と「プライベート」というのを考えるにあたって、考えられる論点はかなり幅広い。このことが結果的には本書を読みにくいものにしているような気がする。人によってこの本から得たいと思うアイデアや情報が相当異なるため、それらを各章で網羅していくと、結局何が書いてあるのかが分かりにくくなってしまうようだ。おそらく「パブリック」と「プライベート」の境界線というのは文脈に依存するところが大きく、国によっても時代によっても異なる、特に現代はパブリックにする領域がかなり広がってきているという趨勢にある。多分そんなことを著者は言いたかったのだろう。

自分はこの本から何を知りたいのかを予め明確にして、その部分に絞って読んでいくことを勧める。では僕がどこに付箋を付けたかというと、以下の通りである。

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フェイスブックやツイッターでちょっとした秘密を打ち明けるかどうかはあなた次第だし、それはあなたが決められることだ。それではどうしたら行きすぎかどうかがわかるのだろう?何が「シェアしすぎ」なのか?それはあなたがシェアしたことを後悔している事柄だと僕は思う。つまり、「シェアしすぎ」かどうかは、それを見る人、聞く人が決めるのではない。それはシェアする側の心と言葉のなかにある。世界中に知られたくないのなら、言ったりしたりしないことだ。(p.186)

今後5年のうちに、ほとんどの産業と多くの企業は、ソーシャルエンタープライズとなるべく見直され、再構築されるだろう、とマーク・ザッカーバーグは言う。過激なまでにパブリックな企業、すなわち〈スーパー・パブリックカンパニー〉には、次のような特徴があると著者は言う。(pp.238-243)
◆すべての社員にネットというパブリックなツールを使って、顧客と直接的で開かれた関係をもつことを――つまり質問に答え、アイデアを傾聴して実行し、問題を解決し、製品を改善することを――奨励する。
◆製品とプロセスについてできる限り多くのデータを公開する。デザインの仕様、売上、修理データ、顧客フィードバック、それから使用している材料や部品の出所についても。
コラボレーションを行なう。デザイン、サポート、マーケティング、そして戦略までも彼らの〈パブリック〉に公開し、進行中の計画やベータ製品を公表する。
広告なしでやっていける。顧客に製品を売ってもらうことによって。
はっきりとした言葉で、顧客情報をどう使うかを開示し、説明する。また、データを簡単に登録、解除、修正する手段を顧客に与える。
◆すべてのデータをポータブルにする。その企業に登録したユーザーの情報――メール、買い物、好み、つながり、作品、友達、その他すべて――を彼らがどこにでも持ち出し、選べるようにする。
財務を公開する。給料でさえもさらけ出す。
オープンスタンダードを支持し、実践する。そうすることによって、既製の部分やソフトウェアを使い、他者のイノベーションの恩恵を受け、より効率的な経営ができる。
◆自分たちを、あらゆる分野の支配を目指す複合企業ではなく、エコシステムの一員だと捉える。すべての〈つながり〉、たとえライバルとのつながりでさえ、価値と効率を生むことを理解している。自分たちを資産の所有者というより、プラットフォーム、またはネットワークだと考える。◆企業統治の新たな形態を取り入れる。
◆CEOは-企業の枠を超えたリーダーになる。

〈オープンであること〉は単に悪事を暴くだけではない。それは価値を表に出し、オープンなデータを経済に欠かせない要素にする。天候データの公開は「8億ドルを超える経済価値を生む」とレッシグは言う。政府の資金援助による地球測位データの共有は、今では生活に不可欠なナビゲーションシステムやスマートフォンの位置情報等を生み出し、それがフォースクエアなどのサービスを支えている。農業データは農家の収入を左右する。データは新しい企業の創造につながる。(pp.28-35)
スーパー・パブリックカンパニーの章はこの本のキモかもしれない。僕は、少し前までネットワーク組織論の独学をしていたが、その中でもよく出てきたのは企業間連携の話で、他社と提携することで、新たなアイデアや技術が生まれる可能性が高いという話はよく目にした。本書については訳者がこんな解説を付けてくれているが、このあたりが著者が強調したかったポイントなのではないかと思える。
カリフォルニア大学バークレー校で准教授を務めるヘンリー・チェスブロウ氏が唱える「オープン・イノベーション」の概念も注目を集めている。それは、これまでの企業が優秀なエンジニアを擁し、自社のみで研究開発を行っていたことに対し、今後、自社の知的財産を他社にオープンにすることで、新たなビジネスモデルや製品を開発し、革新を起こすというものだ。(p.328)
チェスブロウの論文は、実は本書以外でも最近読んだ別の文献でも言及されており、ちょっと読んでみようかなという気持ちになりつつあるところだ。

プリンストン大学のコンピュータ・サイエンティストのグループは、2009年に発表した論文のなかで、政府機関はウェブサイトをつくるかわりに、データを標準的なフォーマットで公開し、誰もが――政府機関自身も――情報を分析したり、それをもとにウェブサイトやアプリケーションをつくったり、情報提示の方法を改善するために競ったりできるようにすべきだと主張した。第三者であれば政府の規制にとらわれず、データをより有益に利用できるだろう、と彼らは言う。彼らが政府よりもうまくできることもあるし、そうなれば政府は金と時間が節約できる。そのためには、まずデータが使える形で開発者の手に渡る必要がある。(pp.286-287)
オープンデータ化の議論の根拠となる論文だと思うので、出典を明記しておくと、
David G. Robinson, Harlan Yu, William P. Zeller, and Edward W. Felten,
"Government Data and the Invisible Hand," Yale Journal of Law & Technology 11 (2009):160

データが掘り起こされ、分析されれば、政府と市民は透明性の問題を克服して、次の一歩を踏み出すことができる。それがコラボレーションだ。賢い政府はプログラマーにデータを利用させてアプリケーションの作成を依頼する。ニューヨーク市は、街を「より透明で、身近で、責任あるものにする」ために、ハッカソン(ハッカー+マラソン。開発者の競技会イベント)を開いた。これは、たとえば飲食店の検査報告、渋滞情報、交通監視カメラ、道路案内、消費者の苦情、図書館目録、公園周辺の地図、住宅価格、重要指名手配犯のリスト、市街樹木調査などのアプリケーションの開発を競わせて、勝者に2万ドルの賞金を与えるというイベントだ。(pp.287-289)

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