SSブログ

『33年後のなんとなく、クリスタル』 [読書日記]

33年後のなんとなく、クリスタル

33年後のなんとなく、クリスタル

  • 作者: 田中 康夫
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/11/26
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
1980年代に大学生だった彼女たちは、いま50代になった。日本社会の“黄昏”を予見した空前のベストセラーから33年。「豊かな時代」を過ごした彼女たちは今、何を思い、どう生きているのか?

僕は元々『なんとなく、クリスタル』を読んだことがないので、33年後の後日談にはそれほど興味があったわけではないが、某全国紙の書評欄で取り上げられていたことと、たまたまコミセン図書室の新着本のコーナーに借りられずに陳列されていたこともあり、読んでみることにした。田中康夫さんといったら、阪神・淡路大震災の時分にママチャリに乗って被災地支援に奔走した人というイメージが強く、僕はそれ以前はハイソなすけこましというステレオタイプ的イメージを持っていてそれが『なんクリ』を読もうとしなかった大きな理由だったのだけれど、その後のご活躍、メディアでの歯に衣着せぬご発言など、密かに声援を送っていた・・・と言いたいところだけど、月刊誌『噂の真相』で連載されていた「東京ペログリ日記」をもしちゃんと読んでいたとしたら、やっぱり応援しなかっただろうとも思う。

そんな複雑な心境を抱きつつ、ここで「なんクリ族」の33年後の姿を読むことになったわけで、読み方によっては自分の中の田中康夫像がネガティブにもポジティブにもどちらにも転びかねないところだった。結果を先に言うと、やっぱりこの人のことはスルーすることにした。この人、僕とは住む世界が違いすぎる・・・。「勝手にやって」という感じ。わたくしとてもついていけません。

僕はこの人よりも7つ年下なので、そもそも同じ時代に学生をやっておらず、著者が処女作『なんとなく、クリスタル』を発表した頃は高校2年生だったことになる。ということは、先日紹介した『東京物語』の奥田英朗が一浪後に大学入学し、その大学を2年もたずに中退してしまった頃がちょうどその時期なのだが、奥田さんの20歳前後の頃の過ごし方と僕らの学生生活の過ごし方には近いものは感じるけれど、田中さんとはまったく接点など思いもつかない。次から次へと違う女性とデートし、その女性がことごとくお嬢様で、食事はフレンチだったりスペイン料理だったり懐石料理だったり、そしてワインの銘柄の知見が求められたり、デートは車と決まっていたり、カーステの音楽がAORだったり・・・。そういうのは僕の学生時代にもそれほどなかった。同年代の女子はそういうのに憧れていたかもしれないが、地方出身でアパート暮らしの学生には縁遠い世界だったのだ。

こういう人たちが30代から40代を過ごしたのがバブル期だったわけです。きっと日本の高級品に対する需要を牽引したのがこういう人たちだったのだろう。最初から持っていた人たちの世界だから、到達できるポイントも僕らとは全然違うレベルだったのだろう。そういう人たちの33年後です。到達しているポイントがそもそも違う。社会貢献、どんどんやって下さい。日本の景気をその今も旺盛な消費需要で引っ張って行って下さい。以上。

そもそも田中さんの著書自体今まで読んだことがないので、これがこの人の文体なのだと一般化することは難しいが、それでもあえて言うと、ちょっと驚かされた点が幾つかある。

第1に、登場人物のうち、実際に主人公ヤスオさん(著者ご自身)にちゃんとお名前付きで直接絡んでくる人が全部女性であること。ちゃんとした名前で登場して主人公と会話を交わす男性がほとんど登場せず、せいぜい行きつけのバーやレストランのマスターやウェイター、ヘアサロンの理髪師ぐらいの端役でしかない。ものすごく自己中心的な描き方。これくらい自分中心だと気持ちいいくらいだ。

第2に、脚注がやたらと多いこと。各ページに脚注番号が2、3カ所は必ず振られており、その注記のために数十ページも費やしている。しかも、普通の言葉に脚注番号が振られているので何のことかと思って注記を読んでみると、騙された気持ちになることもしばしば。無用な脚注がかなり多い。

第3に、全体としては妻公認で昔付き合っていた何人かの女性と2人で過ごすというシーンの連続であるわけだが、その割に会話の中で政治だの社会問題だのの堅い話題がかなりのスペースを割いて入って来る。読んでて説教されている気分にもなるが、「お前が言うなよ」と抵抗感も感じることがしばしば。奥様公認とはいえ、別の女性と「キッス」を交わすというのは信じられない。

で、結局のところ、この本は理解不能。モテ男に対するやっかみを割り引いたとしても、ストーリーとしては全然面白くないし、この本を書いて何を読者に伝えたかったのかはよくわからない。国政選挙で落選して、今は文筆活動ぐらいだからというので、「なんとなく」書いてみたというところなのだろうか。

タグ:田中康夫
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0