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再読・『東京物語』 [奥田英朗]

東京圏、転入超過11万人 一極集中が加速
《東京新聞 2015年2月6日 朝刊》
 総務省が5日公表した2014年の人口移動報告によると、東京圏で転入者が転出者を上回る「転入超過」が10万9408人に達した。人数は3年連続の増加となり、東京一極集中が加速している実態が浮き彫りになった。名古屋圏と大阪圏は2年連続で転出が転入を上回り、都道府県別でも13年から2増の40道府県が転出超過となった。総務省は「景気回復とともに、企業の本社機能が集まる東京圏に広範囲から人口が流入している」と説明している。
 政府は、昨年12月に閣議決定した人口減少対策の5カ年計画「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で、地方の人口流出に歯止めをかけ、20年までに東京圏の転出と転入を均衡させる目標を掲げているが、実現は容易ではなさそうだ。
 東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)の転入超過は13年から計1万2884人増えた。名古屋圏(岐阜、愛知、三重)は、愛知が転入超過だったが、全体では803人の転出超過になった。大阪圏(京都、大阪、兵庫、奈良)は、大阪府が10年以来の転出超過に転じ、全体で転出が転入を1万1722人上回った。
 都道府県別の転出超過の最多は北海道の8942人で、静岡の7240人、兵庫の7092人が続いた。転入超過は東京圏の4都県と宮城、愛知、福岡だった。
相変わらず、東京一極集中が続いているようだ。先週政府が発表した人口動態に関する統計によると、名古屋や大阪では転出超過になっている一方で、東京の転入超過は続いているらしい。報道では転入者の年齢層までは確認できないけれど、若者が多いのだろうということぐらいは想像がつく。間もなく北陸新幹線が金沢まで開通する。富山や金沢へはこれで東京から訪れやすくなることは間違いないけれど、観光のような一時的な移動は増えるだろうが、これがかえって北陸地方から東京圏への若者の流出を助長するのではないかと逆に心配にもなる。一時的な訪問者数が増えることで、地元に雇用が生まれ、それが北陸の若者の足を地元にとどめるような働きをすればいいんだろうけれど…。

そんな折に、再読したのが奥田英朗の『東京物語』だった。名古屋の高校生だった主人公の久雄が、大学受験には失敗したものの、高校卒業して東京で浪人生活をスタートする18歳の春から、30歳の誕生日を迎えるまでの約11年間を、5つのエピソードでつづった短編集である。

東京物語 (集英社文庫)

東京物語 (集英社文庫)

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/09
  • メディア: 文庫
内容(「MARC」データベースより)
名古屋から上京した久雄は、駆け出しのコピーライター。気難しいクライアント、生意気なデザイナー、そして恋人。様々な人々にもまれ成長する青年の姿を、80年代の東京を舞台に描く青春小説。
5年前にこの本を読んだ時のことは、このブログでも記事を書いて紹介している。奥田さんと僕は同じ岐阜県出身で、年齢も3歳しか違わないため、本書で描かれているような、多分著者自身が見て聞いて体験したようなことは、僕自身も追体験している。勿論、3歳の年齢差があるため、奥田さんが東京に出てきてすぐに見聞したようなことは、僕自身は東京でなく、故郷の岐阜での見聞している。

キャンディーズの引退コンサート(於後楽園球場)は、僕は中3の春、自宅のテレビで見ていたし、ジョン・レノン射殺事件は高2の12月に起きていて、クラスメートでショックを受けていた奴がいた。決して英語の勉強ができた奴じゃなくて、ジョンのファンだなんて全然知らず、意外感が半端なかったけど。名古屋五輪招致失敗は高3の晩夏のことだった。この本で描かれている名古屋(出身)の人々の根拠のない楽観論は当時の名古屋周辺では当たり前のように漂っていた。僕は岐阜の田舎町でこの出来事を傍観していたので、招致失敗したからといってショックを受けたりはしなかったが、この根拠なき楽観論を題材にして大学入試の小論文を書いた。英語の筆記がからっきしダメだった中で、それでも志望の大学に合格できたのは、小論文の出来が良かったからだと今でも思っている。

奥田さんが描いているような、その事件(出来事)が起きた時主人公はどんな1日を過ごしていたのか、というのでは必ずしもないが、そういう重要な事件が起きた前後に自分がどんな状況だったのかは、鮮烈に記憶には残っているものなのである。それに、当時流行っていた曲を絡め、そして当時主人公が付き合っていたと思われる女性も絡めている。小説としては手堅い構成で、この時代を知っている人にとっては受ける内容だ。

前回ブログで紹介した時、感想として、「この本を、一気に読んでしまったのはもったいなかった」というようなことを書いている。一気読みではないにせよ、この作品にはまた戻ってきてしまった。少し前に、同じ著者の『田舎でロックンロール』を読んだ。奥田さんの高校時代を描いた作品だが、読了後なんだか無性に『東京物語』が読みたくなった。繰り返しになるが、『東京物語』の主人公・久雄とは間違いなく奥田さん本人である。奥田さん、中学高校時代の学校と教師に対してはあまりいい印象がないらしく、母校から講演依頼があっても絶対に受けないと『田舎でロックンロール』で宣言しておられる。そのため、久雄の出身を名古屋にしている点など、設定は微妙に変えているが、この2作品はセットと考えていてもいいと思う。というわけで、いい機会だったので今回再読。

僕らと同世代のアラフィフティーの方で、特に地方から高校卒業と同時に東京に出て来られた読者にはお薦めする。でも、今の世代の若者でも、東京に出てきて経験することには当時とはあまり大差はないかも。ノスタルジーに浸れるお得感を割り引いたとしても、この本は十分面白いと評価する。

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