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『2025年の世界予測』 [仕事の小ネタ]

2025年の世界予測--歴史から読み解く日本人の未来

2025年の世界予測--歴史から読み解く日本人の未来

  • 作者: 中原 圭介
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2014/07/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
予測的中エコノミストが解き明かす10年後の世界。人口減少、社会保障の圧迫、産業競争力低下など、日本の未来は暗いように見えるが、本当はどうだろうか。人気エコノミストの中原圭介氏が、経済予測脳を駆使して、2025年・未来の世界を予測します。エネルギー価格や物価動向から大きく変わる世界経済で、日本経済や日本人の生活がどのようになるのかを具体的にわかりやすく予測する画期的1冊。

昨年の年初来、2030年とか、2050年とかに向けた未来予測に関する書籍をごくごくたまに読むようになった。その一環としてターゲットを2025年に置いた本を1冊読んでみることにした。元々この本は読むことを薦めるサイトでたまたまその存在を知り、試しに読んでみようかと思って購入した。でも、購入したことでいつでも読めると安心したこともあるし、他に至急で読まなければならない文献もあったりして、なんとなく半年放ったらかしにしておいた。でも、こうして半年間積読にしておいたことで、世の中が大きく変わり、著者の主張が現実味を帯びてきたこともある。

この半年の間に起きた世界経済上の大きな変化は、原油価格の下落である。


著者は元々米国を中心とするシェール革命を非常に重要と捉え、その世界経済への影響を読み解こうという本を何冊か書いて来られた方だ。著者によれば、シェール革命によって最大の原油輸入国だった米国がエネルギー輸出国に転換していく、競合相手が現れたこと、そして需要側でもエネルギー節約型の技術開発が進むことで、原油への需要は減退してゆく。原油価格は半減、50ドル割れもありえ、お陰で日本経済は恩恵を受けるという。

このあたりは、実際にそういう動きになってきたので、説得力があると思う。それに、石油の最大の消費者だった自動車が、今後ますますガソリンに代替する燃料へシフトしていく。著者によれば、2025年までにはハイブリッド車の普及率は今よりもさらに高まり、さらには水素を燃料とする燃料電池車の普及が進み、水素社会が訪れるのだという。そういえば、今年に入って1月6日、トヨタは燃料電池車関連の特許を無償開放してたよなぁ。自社が有する技術をオープン化することで、燃料電池関連の技術開発のコストを引き下げ、一気に普及を図ろうとするもので、同じトヨタがハイブリッド車関連技術を囲い込んだことによって普及がなかなか進まなかったことを考えると、燃料電池車の普及のスピードはハイブリッド車よりも圧倒的に早いかもという気もしてしまう。


トヨタ、燃料電池車関連の全特許を無償開放 普及狙い異例の対応
[東京 6日 ロイター] - トヨタ自動車 は6日、同社が単独で保有している燃料電池関連のすべての特許約5680件を無償で提供すると発表した。トヨタの特許を無料で使えるようにすることで、燃料電池車の生産や燃料となる水素のステーション整備を後押しし、燃料電池車の普及を加速させる狙いだ。
 トヨタはこれまで提携先の企業に限って有償でハイブリッド車などの技術の特許使用を認めてきたことはあったが、今回のように不特定の企業などに対して無償で特許を提供するのは初めてという。
 対象となる特許は燃料電池システムの制御に関連した約3350件や燃料電池の中核部品であるスタック関連の約1970件など。燃料電池車の開発や生産の根幹となる燃料電池関連特許の無償提供は2020年末までの期限付きとする。一方、水素供給・製造といった水素ステーション関連の特許約70件については無期限で無償提供する。
 自動車メーカーは技術流出などを警戒し、特許は有償で、あくまでも提携先に限るのが一般的といわれる。トヨタは昨年12月、自動車メーカーとして初めて燃料電池車「MIRAI(ミライ)」の一般ユーザー向け販売を開始した。
 だが、市場創造のためにはトヨタ1社だけでは難しいと判断、異例の対応に踏み切った。無償開放により、燃料電池車の規格でトヨタ方式が事実上の標準になることも期待される。

このあたりの著者の主張は、元々が著者のお得意のフィールドでもあるので、一見説得的であると思う。

ただ、理路整然としていて一見わかりやすそうな主張には落とし穴も幾つかあるような気がする。読んでいて気になったポイントを幾つか挙げてみよう。

第1に、石油精製プラントが生産縮小したらそこで同時に生産されていた水素が余るという論理。石油精製の過程で硫黄分の除去に水素が必要とされるため、製油所では水素が大量に作られている。国内の製油所は今後縮小を余儀なくされるので、製油所の水素製造設備はそのまま、あるいは増設して、大量の水素を供給することが可能になる――著者はこう予測する。でも、石油精製施設自体の生産規模を縮小するなら、同時に水素も生産規模縮小を余儀なくされるのでは? 勿論、その時に水素への需要が増加していれば、プラント自体の生産物を石油から水素に転換するという可能性はあるけれども。

第2に、燃料電池車が本当に環境負荷ゼロと言えるのか。燃料電池車は水素を燃料とし、空気中の酸素と化学反応させて動力を生み出し、排気ガスの代わりに水を排出するだけなので、環境への負荷がかからないというが、空気中の酸素を消費することには変わりがないし、それで水蒸気を多く排出していれば、気温上昇にはつながりはしないのだろうか。

第3に、政治的リスクへの言及がほとんどない点。例えば、水素社会とは別の文脈で、著者は日本の環境技術は今後の日本の勝ち組産業の1つだとして大気汚染防止技術を挙げ、火力発電所は最先端の大気汚染物質除去技術を持っているので有望だと書いている。でも、オバマ政権はシェールオイル、シェールガスへのシフトを進めたいがために今後石炭火力発電所建設に対する国際協力は行わないとして他国にもこの石炭火力ボイコットに加わるよう働きかけており、石炭火力の普及は一筋縄ではいかないようにも思える。イスラム国についてもそうだが、著者はこうした国際政治上の波乱要素にほとんど触れていない。

単に僕の読み方が不十分なだけかもしれないが、以上はちょっと気になった。それと、本書の最初の6割ぐらいは著者がお得意のエネルギー問題について述べていて、説得力もあるのだけれど、第5章になって突然、エネルギーとはまったく別のテーマに話が切り替わる。特に最終章「2025年に生き残れる人材の条件」は、あまりエビデンスに裏付けられていない、著者が一方的な意見を述べて終わっているだけのような気がする。「外国語がしゃべれなくても平気な世界がやってくる」、「グローバル化の本質は現地化していくこと」、「読書による知識の蓄えが将来の武器になる」など、小見出しのタイトルは僕達の耳には実に響きが良く、わが家の中高生の子ども達にでも聞かせてやりたいくらいだが、序盤のエネルギーに関する議論との乖離がかなり大きく、水素社会の早期実現に向けてはどんな人材が求められるのかという視点が抜けてしまっている。まるで飲み屋で先輩から聞かされる説教話のように聞こえる。

そんなわけで、本当にそうかなと首を傾げるところも多かったけれど、ひょっとしたらそうかも、と思わせて心地よくさせてくれるという意味では、とても面白い本ではある。文章もやさしいし、原発絶対反対の我が家の妻や、今後自分の進むべき道の選択を強いられる子ども達にも、是非読んでみて欲しいので、これ見よがしに居間の目につくところにこの本を放置しておこうかと思う(笑)。

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