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【予習】ピケティ『21世紀の資本論』 [仕事の小ネタ]

21世紀の資本

21世紀の資本

  • 作者: トマ・ピケティ
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2014/12/09
  • メディア: 単行本
内容紹介
r>g≪資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す≫
格差は長期的にはどのように変化してきたのか?資本の蓄積と分配は何によって決定づけられているのか? 所得格差と経済成長は、今後どうなるのか?18世紀にまでさかのぼる詳細なデータと、明晰な理論によって、これらの重要問題を解き明かす。格差をめぐる議論に大変革をもたらしつつある、世界的ベストセラー。

ピケティの『21世紀の資本論』の邦訳がいよいよ書店店頭にも並んだ。元々フランス語で書かれた原書が発表されたのは昨年のことで、その時点ではフランスではあまり話題にはならなかったらしいが、その後英訳が出版されるや米国ではたちまち経済書のベストセラーに躍り出て、邦訳も、出る半年近く前から経済週刊誌でもちょくちょく取り上げられていた。

今回の邦訳の発刊と同時に、ピケティ関連の書籍が続々発刊されており、既に週刊誌でも解説を幾つか書かれていたアゴラ研究所の池田信夫氏が『日本人のためのピケティ入門』なる解説本を出されている他、僕の学部のOBで脳学者の苫米地英人氏が『「21世紀の資本論」の問題点』なる著書を上梓予定らしい。いつ読まれたのか定かでないが、さすがは外国語学部英語学科OBというだけのことはある。ノーベル経済学賞をいつか受賞するであろう経済学者に、お門違いの脳機能学者が挑むという姿勢はある意味立派だ。

さて、この『21世紀の資本論』、我が社においても、7月頃から、社長や幹部が読め、読めと盛んに推奨するようになった。英訳本でも700ページもあるような超分厚い本を忙しい社長や役員が全て読まれたのかどうかは知らないが、戦略参謀を自称する我が社の企画部門にいる人間として、読んでおかないわけにはいかない。とはいえ、みすず書房から出版された邦訳は、1冊5500円もする高価なもので、とても自分のポケットマネーで購入するというわけにもいかない。

会社の経費で何とか1冊購入したものの、700ページもある本を徒手空拳で1ページ目から読み始めるのも少々ばかばかしい気がしたので、手っ取り早くエッセンスだけでもつかむよう、既に経済雑誌で出ていた解説から読んでみることにした。

週刊 東洋経済 2014年 7/26号 「『21世紀の資本論』が問う 中間層への警告/人手不足の正体」

週刊 東洋経済 2014年 7/26号 「『21世紀の資本論』が問う 中間層への警告/人手不足の正体」

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2014/07/22
  • メディア: 雑誌

最初に読んだのは週刊東洋経済のeビジネス新書No.76 『トマ・ピケティ「21世紀の資本論」を30分で理解する!』で、ベースは週刊東洋経済の2014年7月26日号で、その電子書籍版ということになる。タイトルで謳っている所要時間が30分で十分であるかどうかはともかくとして、僕は会社までの行きと帰りの通勤電車の中で読み切った。

この特集はなかなか充実しており、トマ・ピケティ本人への独占インタビューがある上に、前述の池田信夫氏が、「成長理論で読み解く、富める者がますます富む構造」という解説に加えて、電子版書下ろしとして、「Q&Aでわかるピケティと『21世紀の資本論』」と題した一問一答を載せている。

中でも最もコンパクトなのは、「5分で読んだ気になる!『21世紀の資本論』3つのポイント」という解説だろう。
➀資本収益率は経済成長率を上回っている
『21世紀の資本論』の核心は、「r>g」という数式で表現できる、資本収益率(r)が経済成長率(g)を常に上回る、という意味だ。わかりやすく言い換えるなら、株や不動産、債券などの投資によって獲得される利益の成長率は、労働によって得られる賃金上昇率を上回る、ということ。ピケティが多くの経済学者から高い評価を受けているのは、この数式を超長期的な分析から歴史的事実として「実証した」という点だ。資本を多く持つ富裕層は再投資によって富を雪だるま式に膨らませ、労働賃金によって生活している人の富は大して増えず、結果として格差は広がった。
②所得と富の不平等は21世紀を通じてさらに拡大していく
2100年には格差は「ヨーロッパの18世紀からベル・エポック(19世紀末から第一次世界大戦勃発までの欧米での華やかな時代)までの水準程度に上昇する」と予測。ベル・エポックの時期、格差は非常に大きく、米国では、上位10%n富裕層が国全体の富の80%を占めていた。現代はベル・エポックに近づきつつあり、中産階級は緩やかに消滅していく。
③格差を食い止めるためにはグローバルな累進課税が必要
格差拡大を食い止め、再配分を進める方策として、所得と資産の両方に累進課税をかけることを提言。特に資産への課税はH上に重要。不平等の拡大によって発生する政治的緊張は、諸国を保護貿易主義や資本統制、国家主義に導いてしまう。資本へのグローバル税のようなものが実現しない限り、国家主義的な防御反応が起きる可能性が非常に高い。一方、資本へのグローバル税は経済開放を維持しながら、グローバル経済を効果的に規制し、公正に国家間の利益を分配できる解決策である。


週刊エコノミスト 2014年 8/12・19号 [雑誌]

週刊エコノミスト 2014年 8/12・19号 [雑誌]

  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2014/08/04
  • メディア: Kindle版
資本主義をとことん考えよう (週刊エコノミストebooks)

資本主義をとことん考えよう (週刊エコノミストebooks)

  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2014/09/05
  • メディア: Kindle版

もう1冊は、週刊エコノミストの2014年8月12/19日合併号の特集「資本主義をとことん考えよう」で、これも電子版ebooksとしてダウンロードし、Kindleで読んだ。こちらの方はピケティの著書そのものを特集するというよりはこれを機に資本主義というものをじっくり考えてみようというより包括的な特集になっているので、拾い読みで十分かと思う。

この中で最も参考になるのは経済金融アナリストの吉松崇氏が書いた「ピケティ理論で知る資本主義の本質」である。前述の東洋経済の記事ともダブるが、幾つかその中から抜粋する。
本書がセンセーションを巻き起こしているのは、これが「貧富の格差」そのものに焦点を当てた本だからだ。

ピケティの本がすごいのは、格差が拡大しているという事象を、過去100年以上の統計データを使って、これが一過性の現象ではなく長期にわたるトレンドで、「富と所得の格差の拡大それ自体が資本主義市場経済に内在する」ことを論証してみせたことにある。

本書のメッセージはシンプルで、要約すれば、
➀先進国では、長期的・趨勢的に労働分配率が低下し、資本への分配率が上昇している
②資本の分配率上昇の恩恵をより大きく享受しているのは、中間層ではなく富裕層である

資本の蓄積のスピードが総所得の上昇スピードより速い(中略)長期的・趨勢的に労働分配率が低下し労働者の窮乏化が起こる

 r>gが趨勢的なトレンドである限り、富と所得の格差の拡大は避けがたい。ピケティの予測する21世紀の資本主義像は、現代の福祉社会型の西欧資本主義ではなく、19世紀の資本主義だ。資本の蓄積は経済成長を越えて更に進み、その時、所得の格差を決定づけるのは、個々人の能力ではなく、個々人が初期条件として有する資本、つまり相続で得た富である。「21世紀には、個々人がどのような知識を身に着け、どのような職業に就くかではなく、誰の子供に生まれるか、誰と結婚するかが所得を決定する」。
 このような社会では、人々は資本主義・市場経済を政治的に支える大前提である「機会の平等とメリトクラシー(能力主義)に対する信頼」を失う、とピケティは考える。これを克服するには、所得税の累進税率の引き上げと再分配の強化だけでは十分ではなく、資産に対する累進課税が必要。

―――なんだか暗くなってきますね。ご参考までに、これらに加えて、12月12日付の日本経済新聞の経済教室で、橘木俊詔氏がピケティの著書を紹介しておられるが、基本的には同じ論調。5分でピケティを読んだ気になりたいなら、日経の経済教室がいちばんコンパクトかもしれない。

結局のところ、何もしなかったら21世紀はどんどん格差が拡大していくということであり、そのために、「格差是正」とか「包摂的(インクルーシブ)な成長」といったキーワードが、国際社会の共通課題として強く認識はされているのだろう。ただ、ここまでで言われているのは主には資本収益率をいかに引き下げるかという議論が中心で、もう1つ、逆に労働分配率をいかに引き上げるかという議論への言及が必ずしも十分なされているとは思えない。その点からの含意は、結局のところは教育の質を高めようということに尽きる。東洋経済の独占インタビューで、ピケティはこう言っている。「多くの国民が高度な職業資格を取れるようにすべきで、それゆえ教育の分野に大きな投資が必要になる。また教育機関にも、幅広い世代の人間を受け入れる仕組みが必要だ」――この点は、両方の特集記事でそろってあまり深く突っ込んだ考察が行われていないように思える。

従って、僕なりに整理すれば、ピケティの著書から得られそうな示唆は「機会の平等」を保証する何らかの仕組み作りということになり、21世紀の政策的含意として、1つには相続や資産に対する課税の強化、もう1つには教育の拡充ということになる。

今回は、ピケティの著書を読む前から予習の意味で少し勉強してみたわけで、未だ著書そのものを読んでいないという中で書かせていただいた。他にも読みたい本が沢山ある中で、いつ読み終われるのかわからないが、読了したあかつきには、改めてピケティについてご紹介をさせていただきたい。
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