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『現場論』 [読書日記]

現場論: 「非凡な現場」をつくる論理と実践

現場論: 「非凡な現場」をつくる論理と実践

  • 作者: 遠藤 功
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2014/10/24
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
現場には3つのレベルがある。現場力は3つのプロセスで進化する。6のケース&15のミニ事例で、「非凡な現場」の実践例を紹介!読めば、どの現場も必ず強くなる。

自分的にはあまり心に響かなかった本なのだが、こういう人がうちの会社を診たら、どう思われるだろうかというのには関心がある。著者が述べている生産性の低い現場というのに、どうもうちの会社も該当するところがあるのではないかと思えるエピソードが幾つかある。

著者は、生産性の低い現場には「しか」が実に多いという。「私にしかできない」、「あいつにしか任せられない」という属人化した仕事の仕方、させ方にはじまり、「うちの部署の肩幅」でできること「しか」やれない、肩幅を越えることはできないといった、典型的な組織のタコツボ化を感じさせる反応。肩幅を越えることには無関心で、どうしても必要だというのなら企画部門でやればいいじゃないかという冷たい反応。聞かされるたびに虚しくなる。それで企画部門も疲弊するという悪循環。

最近、僕の職場のスタッフが急に職場に来れなくなり、担当していた仕事がどこまでできていてどこからフォローしたらいいのかが全くわからず、周囲の人間が大騒ぎしたことがあった。元々産休に入る予定であったスタッフで、それがわけあって予定よりも早まったというだけのことなのだが、引継ぎ準備が全くできておらず、未だそのスタッフしかわからないということがあまりにも多かった。そのスタッフはとても一生懸命仕事をする人で、自分がやらねばという思いも人一倍強かったのだと思う。僕が異動で今の職場に来た時も、自分の仕事が忙し過ぎてその仕事の内容を僕に説明してくれる時間を作れなかったし、退社後も頻繁にメールチェックして自宅からでも返信していたのを何度も見ている。そういうのを周囲のスタッフや管理職にも期待しているふしがあった。僕の直接の指揮下にあるスタッフではなかったので、僕としてはそうした仕事のスタイルについて、本人に対してもその上司に対しても思うところはあっても、それを直言することはなかった。早くから声をあげていなかった僕自身の姿勢にも問題があることは認める。

逆に、生産性の高い現場では、「誰でもできる」、「新人でもこなせる」というように、「でも」が多いと著者は言う。単に部署の中でのスタッフの配置のことにとどまらず、会社全体を見渡してみても、部署の所掌業務の範囲を越えた新たな領域であっても、ここまでならうちの部署でもできるとポジティブに捉えうる。部署内でのスタッフ間の業務負荷の調整も比較的スピーディーにできるし、部署間の関係に気まずさも生まれず、何かあれば一緒にやっていこうというポジティブな雰囲気も生まれるだろう。

職場、組織に「しか」ばかりが横行する中、その各々の事象は根本的なところでは繋がっていると思う。仕事の優先順位付けができていないというだけではなく、平時の優先度は高くないのに急に飛び込んでくる重要対応事項というのはたいていの場合自分の部署ではなく他の部署から舞い込んでくる、しかも、それが重要だと思っているやんごとなき筋から持ち込まれるケースが多いということだ。緊急性が高く、重要性も高い作業は、管理職の立場からは何を差し置いても先ず部下にやらせなければいけない。そうしないと自分の処遇に響くとも考えるかもしれない。なので、どうしても特定のよく知っている部下に作業を集中させちゃう。部下の方も、「これは自分にしかできない」と思ってしまう。我が社ではまたぞろ「ワーキングスタイルの改革」だとキャンペーンを始めようとしているが、本気で時短や職場の生産性向上に取り組むつもりなら、各部署にアクションプランを策定・実行させるような地方分権だけではなく、シニアマネジメントレベルのコミットメントをしっかり引き出し、変な時間に変な作業指示をしないのを徹底させないといけないのではないかと思える。

著者によれば、現場力は次の3つの能力から形成されるという。

 ➀保つ能力

 ②よりよくする能力

 ③新しいものを生み出す能力

今の世の中、③の「新しいものを生み出す能力」が問われていて、そのために現場のひとりひとりの暗黙知をいかに共有して新しいアイデア、製品開発に結集していくかが問われているのだと思うが、目の前の仕事に追われているだけでは、今の仕事を保つことと、ちょっとより良くすることぐらいしかできないのではないかと心配だ。

だから、著者のような人が我が社を診たら、結構ポイント低いだろうなと感じるのである。

本書そのものの紹介とは別のところで後ろ向きなことばかり述べてきた。本書そのもの記述については、他の経営学の重鎮が述べているような既存の理論を相当引用してきていて独自性がそんなにあるとは思えないが、権威の言っていることをうまく用いて、自分の主張の強化につなげている。野中郁次郎先生のSECI理論などはその典型例だ。だから、各々の理論をもっと深く知りたければその原典にあたるのがよろしいかと思う。一方で、本書の良さはむしろ現場のことをよく知っておられ、現場のエピソードをふんだんに盛り込んでおられるという点にある。各々の職場での生産性向上に向けたブレークスルーがどのようにして起こったのか、純粋に現場からのボトムアップによるところからだったのか、あるいはトップマネジメントの決断による部分が大きかったのか、そのあたりの説明がもうちょっとあれば、やや空虚感にも囚われている僕らの会社のワーキングスタイル改革に対しても、ひょっとしたらできるかも、という前向きな気持ちが起きてきたかもしれない。


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