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『誰が「知」を独占するのか』 [仕事の小ネタ]

誰が「知」を独占するのか-デジタルアーカイブ戦争 (集英社新書)

誰が「知」を独占するのか-デジタルアーカイブ戦争 (集英社新書)

  • 作者: 福井 健策
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/09/17
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
「アーカイブ」とは、従来図書館や博物館が担ってきた、過去の文書や映像・音楽などを収集・公開する仕組み。いわば「知のインフラ」であり、その有効活用によって社会が得られる利益は計り知れない。しかし近年、アーカイブのデジタル化に伴い、これら「情報資産」を巡る国境を越えた覇権争いが激化している。グーグルやアマゾンなどアメリカ発の企業が世界中の情報インフラを掌握しつつある一方で、お粗末極まりないのが日本の現状。本書では世界を巻き込んだ「知の覇権戦争」の最新事情を紹介し、日本独自の情報インフラ整備の必要性を説く

今月読むデジタルアーカイブに関する本の第2弾である。全国紙の書評でも何度か取り上げられていて、それなりに話題性を伴った1冊だ。冒頭はグーグルによる情報・データ管理で、僕達の生活が知らぬ間に統制されている可能性について警鐘を鳴らしており、その上で前半は日本独自のアーカイブ整備の必要性、後半はその中でも最もネックとなる、著作権・肖像権等の権利問題について詳述されている。著者のご専門は著作権なので、後半の記述が分厚いのは仕方ないけれど、日本のアーカイブ化の取組みが欧米どころか中国や韓国よりもはるかに遅れているという点をもっともっと強調して記述してもよかったような気がする。多種多様な論点を盛り込み過ぎて、全体と各論がうまく整合していない構成となっているのは少しもったいない。

アーカイブのような情報インフラへの投資こそが大切で、今後の国の経済や社会、文化のありようを左右すると強調している点は、僕がこのところ抱いている問題意識とも通じる。ここでの論点は主には公文書の保存の話だと思うが、過去に作成した文書の管理をあまりしっかり行っていないところは、お役所であろうと民間企業であろうと同じだと思う。最近お話をうかがった経営史の先生によると、ドイツに行ってダイムラーベンツの資料館を訪れると、図書館並みの床面積で膨大な文書を保管しているという。僕はトヨタの博物館には行ったことがあるが、そこにそれほどの資料が所蔵されていたとはとても思えない。社史編纂室のようなところが担当すればいい話だが、どこもそういうところにはあまり力を入れない。収益を生むような部門でもないから仕方ないといえば仕方ないが、では日本企業よりも企業利潤にうるさい欧米の企業の方が歴史を重視しているというのはどうしてなのだろうか。
アーカイブは我々の文化を豊かに彩るだけでなく、企業などの経済活動・教育研究、防災や外交交渉などあらゆる場面でのバックヤードになるからです。このバックヤードが充実しているかどうかは一国の総合的な力にとってかなり決定的な要素で、欧米をはじめ先進国がこの知的インフラの整備でしのぎを削るのもそのためでしょう。(p.121)

国家予算の中でのデジタル化事業の比率が0.001%だと聞けば唖然とします。「少子高齢化の少資源のこの国では情報化が鍵を握る」と言われる中、過去の豊富な情報資源のデジタル保存・共有に割くべき予算がお隣韓国の数分の1とは、何でしょうか。大学院出の文系ポストドクターが就職難にあえぐ一方で、全国のアーカイブは人手不足で身動きがとれないとは、何でしょうか。
(中略)重厚長大の公共工事に年間数兆円使うなら、デジタル化にその100分の1でも振り分けるべきです。それだって立派な経済活性化策、地域活性化策です。いや、おそらくはずっとコストパフォーマンスのよい活性化策です。その後のメンテナンス費も格段に低い、ちゃんと運用すれば日本中・世界中から半永久的に日本文化にアクセス可能な、環境負荷の低い活性化策です。
 国民ひとりあたりのデジタル化予算をせめて年間200円に高める。すくなくとも国家予算の0.02%、年間200億円以上を情報資源のデジタル化と活用に振り向ける。これこそが日本の政治が今、将来の世代のために行うべき投資だと、筆者は思います。(pp.234-235)

本書では、著作権・肖像権に関する論点をひと通り整理した後、アーカイブ政策について著者なりの提言を行っているので挙げておく。

1.ナショナル・デジタルアーカイブを設立し、当初2000万円のデジタル公開を実現せよ。
 提言➀ 自力でデジタル化出来ない文化施設や個人のためにデジタル化工房を各地に設置
 提言② 全国のアーカイブをネットワーク化し、独自の横断検索を実現
 提言③ 収集と投稿機能を備えたナショナル・デジタルアーカイブの設立
 提言④ 各教育機関と連携した、デジタルアーキビストの育成と研修プログラムの充実

2.オプトアウト制で、孤児作品問題をはじめ権利問題に抜本対処せよ
 提言⑤ 孤児作品や絶版作品のデジタルアーカイブ化を促進する法制度の導入
 提言⑥ 諸外国との間で、孤児著作物の相互利用協定を締結
 提言⑦ 法改正で所有権、肖像権問題に対処を

3.世界のデジタルアーカイブと接続し、オープンデータで日本文化を発信せよ
 提言⑧ 税金を投じたデジタルアーカイブではオープンデータ化を原則化し、
      基本的にパブリック・ライセンスを付与
 提言⑨ ユーロピアーナなど各国デジタルアーカイブとの相互接続の促進
 提言⑩ 無料字幕化ラボの設置

ちなみに今、その大学の先生から頼まれて、12月に某研究会で発表してほしいと言われている。以前僕自身も自分の本を書く際に、昔の資料を探して閲覧するのに苦労した苦い経験があるため、研究会に対して何か付加価値を付けるような発表というよりも、自分の経験を踏まえた問題認識の共有を意識した発表内容にしたいと思っている。その一環として参考文献に当たっているわけだが、僕の経験からも、本書の著者が日本のアーカイブ政策の問題点として挙げている、「ヒト・カネ・著作権」の3点についてはボトルネックとして感じるところが多く、自分の考えを整理する意味でも、本書を読めたことは幸運だった。

アーカイブの入門書としてはお薦めだ。

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