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『一千兆円の身代金』 [読書日記]

一千兆円の身代金

一千兆円の身代金

  • 作者: 八木 圭一
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/01/10
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
日本政府に突きつけられた驚愕の要求―。「元副総理の孫を誘拐した。財政赤字と同額の1085兆円を支払うか、さもなくば、巨額財政赤字を招いた責任を公式に謝罪し、速やかに具体的再建案を示せ」。前代未聞の要求にマスコミは騒然。警視庁は捜査一課特殊犯係を直ちに派遣し、国家の威信をかけた大捜査網を展開する。やがて捜査陣は、あるブログの存在に行き着くが…。感動と慟哭のラストが待ち受ける“憂国”誘拐サスペンス巨編!2014年第12回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。

本書は『このミス大賞』受賞時のタイトルは別のものだったらしいが、書籍化するにあたってのタイトル変更では成功していると思う。「1085兆円」という数字など身代金の金額としてはあり得ないほど巨額であり、普通の人は「え?」と先ず思うだろう。僕もそういうパターンだった。コミセン図書室の新着本コーナーでたまたま見かけ、面白いタイトルだなと思って手に取った。「このミス大賞」受賞作としては、これまでに『サウスポー・キラー』、『チーム・バチスタの栄光』を読んでいるが、いずれも大賞受賞作というので期待に違わぬ習作だった。今回の楽しみに読み始めた。

またぞろ「政治とカネ」の問題がクローズアップされてきた昨今である。こういう作品が『このミス大賞』を受賞して若い人たちの注目を浴びること自体は良いことだと思う。でも、作品の出来としてはどうなんだろうか。著者の問題意識をそのまま作品にしたような内容で、それはそれでいいんだけど、対抗の構図を「警察とその関係者」対「犯人とその周辺の関係者」に絞り込んでいて、せっかくの身代金要求がどこまで政府の中で取り上げられたのかは間接話法になっていてなかなか伝わってこない。読んでいて痒いところに手が届かないもどかしさを感じた。元副総理に鉄槌が下ったわけでもないし、政府内でどれくらい真剣に財政再建策が話し合われたのかどうかもわからない。

公的債務の後年度負担について、わかっている若者が考えを巡らしたり、若者同士で議論したりしているシーンがやたらと多くて、ちょっとくどいなという気がする。断わっておくが、こういう思索を若者が巡らすこと自体は悪いことではない。でも、不満があるなら人に行動を焚き付ける以前に自分で行動したらどうかと思える。そうでなければただの愚痴にしか聞こえない。「選挙に行ってよ中川遥さん!」とも思う。

小説についての感想を書き連ねると、その作品を薦める場合はともかく、貶めるようなことはつらつらとは書きづらい。警察の犯罪捜査を描くミステリー作品として読む分には面白く、結末の意外性もあるのでよいが、それが政治社会問題に絡んでくるものである場合、どの程度のメッセージ性を作品に込めるべきかはさじ加減が結構難しい。ただ、繰り返しになるけれど、こういう作品が若者が読む本の選択の基準にしていそうな「このミス大賞」を受賞したということ自体はたいへん良いことだ。できるだけ多くの若い人たちがこの作品を読んで、そして考えてみてほしい。


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