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『実践ソーシャルイノベーション』 [仕事の小ネタ]

実践ソーシャルイノベーション - 知を価値に変えたコミュニティ・企業・NPO

実践ソーシャルイノベーション - 知を価値に変えたコミュニティ・企業・NPO

  • 作者: 野中郁次郎・広瀬文乃・平田透
  • 出版社/メーカー: 千倉書房
  • 発売日: 2014/06/04
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
知識経営の観点から地域社会の活性化を考える。

最初にお断りしておきますが、この本は今年になって読んだ本ではありません。URLをご覧いただければわかる通り、読了したのは10月です。それがなんでご紹介できずに今に至ったかというと、この本、職場でまわし読みしていて、僕の順番が終わった後、次の同僚にすぐに貸してしまいました。最近ようやく戻って来たので、もう一度読みたかった箇所だけササッと読み直し、その上でブログの紹介記事を書いています。

日本発の経営理論ともいえる野中郁次郎先生の「知識創造理論」。元々は企業組織の知識創造を「SECI(セキ)モデル」というので概念化しようという試みであったが、これを企業だけではなく、コミュニティやNPOなどに応用しようと試みられたのが本書のキモと言える。まちづくりや村づくり、地域の問題解決の活動等で起こるイノベーションのことを「ソーシャル・イノベーション(社会変革)」と呼び、知識視点からこのイノベーションを起こせるコミュニティをどう創っていくのかが論じられている。

本の中では7つの事例が取り上げられている。

 1.霞ケ浦の再生事業―アサザプロジェクト
 2.葉っぱビジネスとワーク・イン・レジデンス―徳島県上勝町・神山町
 3.過疎と少子・高齢化の地域改革―島根県隠岐郡海士町
 4.市民協働のまちづくり―東京都三鷹市
 5.企業理念を実践に移す活動―エーザイ株式会社
 6.アートサイト直島―株式会社ベネッセホールディングス・福武財団
 7.くもん学習療法センター―株式会社日本公文教育研究会

これらの事例を横串で刺して眺めてみると、ソーシャル・イノベーションの要件として言えることは大きくは次の3つだと著者は述べている。

(1)衆知を創発する知識創造のプロセス―暗黙知と形式知の相互変換ができていること。
(2)暗黙知と形式知の相互変換を起こし、これを実践に基づく知としてまとめていけるリーダーがいること。
(3)暗黙知・形式知・実践知のサイクル(ダイナミック・トライアド)が持続的に回転していること。

と、書くのは簡単。構成はわかりやすいが、文章は難しい。自分がどうしたら実践知リーダーになれるか、どうしたら実践知リーダーが育つ環境を作れるのかという問題意識で読み始めると、あまり答えが見出せたとは思えない。これも、リーダーになろうとするひとりひとりの意識の問題なんだろうけど。

僕の住んでいる街も取り上げられていたりして、それなりに興味も持って読み始めたのだけれど、本で書かれているようなすごいことが起こっている実感がそこに住んでいてもほとんどなくて、針小棒大に描かれているところも感じる。

かねてより公言している通り、僕が今住んでいるのは東京都三鷹市である。三鷹市は全国にさきがけて上下水道完備を実現させたり(1973年)、同じく全国にさきがけて「コミュニティ・センター(コミセン)」を開設したり(1974年)といった、全国的に見ても先駆的取組みが多い自治体であったことは知られている。実際、僕なんぞのような都心に通勤している会社員であっても、図書室やプール、体育館等を備えているコミセンは割と頻繁に使っている。

最近、僕の昔の職場の上司が独立して、全国の自治体の住みやすさ、魅力度を診断する「コミュニティカルテ」の作成支援を行うコンサルティングサービスをしておられるのを知ったが、このコミュニティカルテも、三鷹市では既に1974年に導入されている。住民が、各コミュニティ内を歩いて見て回り、道路・交通・福祉・文化・環境などについて生活者視点から診断を行い、良い点や悪い点を書き留めていくという活動である。

そうした、早くから住民参加の土壌が形成されていた三鷹市で、1988年に組織されたのが市の自主勉強会「超都市化問題研究会」で、市役所の職員のほか、市内の若手事業者、市内にあるICUやその他研究機関の研究者など、300人もの参加者があったらしい。また、1992年には、三鷹市とICUの公式協働研究プロジェクトとして、「三鷹まちづくり研究所(まち研)」が発足し、超都市化問題研究会の議論を現実の施策に落とし込む作業を担ったのだという。さらには、市の基本計画の実施にあたっては、より多くの市民の意見や要望が取り入れられるようワークショップも度々開催された。こうした環境の上に立って、1998年の第三次基本構想・基本計画の策定においては、新たな市民参加の方法として、「みたか市民プラン21会議」が考案された。公募に応募した多数の市民から選ばれたメンバーが計画策定作業に参加するというもので、議論を重ねた結果、出来上がった「みたか市民プラン21」を2000年に市に提出した。

その後は、市民参加や市民協働の仕組みの体系化が進められ、2006年からは年1回ペースで「まちづくりディスカッション」が開かれ、市と三鷹青年会議所(JC)の共催で、JC、市民協働センター運営委員、三鷹市SOHO倶楽部、市民21会議のメンバー、市職員からなる22人の実行委員会が立ち上げられ、初めての無作為抽出による市民参加を募った。

以上概略を述べてみた。僕が三鷹市民になったのは2003年からで、それ以後市民参加にはそれなりに関心も持って見てきたが、僕の知っているシニアの市民の方々が皆さん横のつながりが強いなという印象を持っていた。「まち研」や「市民21会議」という言葉はそういう人々の口から耳にしたことがあり、何のことだかわからなかったけれど、本書を読んでそういうことだったのかと初めて得心した次第。ただ、この人たちのネットワークはそれなりに強固なので、僕らのような外で働いていて普段なかなか市内での活動に参加できない人間にとっては恐れ多くて入って行きづらい気もしていた。そういう意識の高い市民がシニアになって、若い世代の人々の意見を聞かない「頑固ジジイ」に成り果てたというケースも身近にある。シニアのエリート市民が幅を利かせているような状況では、若い世代の市民参加はなかなか得にくい。

加えて、僕が転入してきて以降に起こっている「まちづくりディスカッション」であるが、市民を無作為抽出で60人選ぶといったって、三鷹市の総人口は現在17万人台であり、これに当たる確率なんてたかが知れている。サンプル数的に全体の傾向を示せるほど有意な結果が導き出せるのかどうかはわからないが、参加してみたいなという気持ちはあったとしても、実際に参加できるかどうかはわからないし、また参加できて市民としての意識が高まったとしても、そのモチベーションを次につなげていけるような仕組みがあまりないような気がする。

書かれているほどすごいことなのかという点では少し疑問を感じるが、自分の住んでいる自治体の歩を概観できたという点においては、いい読み物であったと思う。

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