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『地方消滅』 [仕事の小ネタ]

地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)

地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)

  • 作者: 増田 寛也
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/08/22
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
このままでは896の自治体が消滅しかねない―。減少を続ける若年女性人口の予測から導き出された衝撃のデータである。若者が子育て環境の悪い東京圏へ移動し続けた結果、日本は人口減少社会に突入した。多くの地方では、すでに高齢者すら減り始め、大都市では高齢者が激増してゆく。豊富なデータをもとに日本の未来図を描き出し、地方に人々がとどまり、希望どおりに子どもを持てる社会へ変わるための戦略を考える。藻谷浩介氏、小泉進次郎氏らとの対談を収録。

半年ほど前、本書の著者が座長を務める民間研究機関「日本創成会議」の人口減少問題分科会が「消滅自治体リスト」なるものを公表し、大きな反響を呼んだのを覚えておられる方は多いだろう。

2013年の日本の総人口は1億2,730万人だが、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によると、このままだと2048年に1億人を割り60年には約3割減の8,674万人になるという。同分科会では地方から大都市への人口流入が今後も継続する前提で試算をし直したところ、福島県を除き調査対象とした約1,800の市区町村のうち、若年女性が2040年までに半数以下に減ってしまう都市は896と約半数にのぼり、社人研推計の373(全体の約2割)を大きく上回ったという。著者はこれを「消滅可能性都市」とし、このうち推計で人口1万人を割る523自治体についてはより消滅の可能性が高いと結論づけた。

僕も社人研の推計に基づいて将来の地方と大都市の姿を想像することが多かったが、首都圏が巨大なバキュームクリーナーのように地方の若者を吸い尽くしていったら、社人研の予測よりもより深刻な「地方消滅」が現実のものになるのではないかと背筋が凍りつくような思いがした。

こうした日本創世会議のレポートを市販用書籍にまとめたのが本日の1冊ということになる。文章はわかりやすく、読みやすい問題提起の書となっている。多くの人に、よく読んでみて欲しい。

人口問題の捉え方は、大都市と地方中核都市、その他地方都市で大きく違うという。地方都市では既に高齢化率上昇のペースは鈍ってきており、むしろ人口減少、若年人口の流出、経済活力の低下が深刻な懸案事項とされている。逆に首都圏では、僕らの世代も含めてこれまでに多くの若者を吸収してきたが、今後はそうした人々がいよいよ高齢者にさしかかりつつあり、若年層の未婚率、合計特殊出生率の低迷による少子化も相まって、超高齢社会に突入していく。著者は特に首都圏に対しては手厳しく、「出生率低下により日本の再生産構造を破壊する元凶」になってしまい、「地方の若者を吸い込むだけの「ブラックホール」」になっていると指摘する。東京は、世界有数の国際都市として、地方中核都市と補完的な関係を構築することを指向すべきだという。

一方で、それじゃあ首都圏のバキューム機能を抑制し、日本が何を目指すべきかと言うと、それは、山間部も含めたすべての地域に人口減抑制のエネルギーをつぎ込むのではないく、地方中核都市に資源を集中させて、そこを最後の砦として再生を図る、すなわち、わざわざ東京に出て行く必要のない若者を地方に踏み止まらせることを目指すべきだという。富山市のような地方中核都市で周辺地域の若者を踏み止まらせ、大都市圏に行かせないように仕向けるのだということだろう。

この本、僕は2週間前の富山への出張の往路で読んだが、富山市はコンパクトシティ政策でよく頑張っているのは認めるけれど、市内目抜き通りはシャッターが下りた店舗が多かったし、19時を回ると人通りが急減してしまう(下写真)。これは、日中しかまち歩きをしないお年寄りの占める割合が多く、逆に若者が少ないことを如実に物語っているということができないか。

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《これが、富山市一の繁華街、総曲輪通り商店街の午後6時過ぎの様子なのです》

富山市でこんな具合なら、県内他都市も推して知るべしだろう。

富山に出張させてもらっている間に、僕は富山市が主催した国際会議を傍聴させていただいた。富山市のコンパクトシティ政策を巡り、民間企業や鉄道事業体、大学研究者や市民団体等、様々な立場の代表者の方が発言され、政策のメリットを発言されていたけれど、総じて会場にいらした方がお年寄りが多かった中で、唯一注目を集めたのは、市内の中学1年生の女子生徒さんが、市内の若者の代表として、富山市がこんな街であったらもっと便利になると初々しい声で発言されていたことだった。でも僕は思った。こういう、英語が飛び交うような国際会議の場で物おじせず堂々と自分の意見を語れるような中学1年生は市内でもずば抜けて優秀な生徒さんであり、そういう子は地元の高校を卒業しても、地元に残らず、東京の有名校に進学してしまうんだろうなぁ、などと…。

北陸新幹線が来年3月には富山まで開通するそうで、ただ今富山駅前は改修工事が急ピッチで進められている。今なら特急を乗り継いでも4時間かかる東京・富山間が、わずか2時間半に短縮され、富山が近くなると盛んに宣伝されているが、事態は逆で、むしろ富山から首都圏への人口移動が増えるのではないか。

市内でまち歩きをしていると、地元の大学に通う学生さんたちも、まちおこしのためにひと役買おうと努力されている様子も窺える(下写真)。それでもですね、わずか2泊3日の短期間の滞在だったこともあるだろうが、富山市に若者を惹きつけるような魅力的な何かがあるとは思えなかったし、その部分の議論は、先に述べた国際会議でもあまり明確には議論されていなかった。

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本書に関しては、メガ都市東京への若年人口流入阻止のように、東京と地方との関係性の見直しに言及している点はとても重要だと思う。もはや地方都市の問題は、各都市のレベルだけで考えていればいいような問題ではないと思う。玉虫色の解決策などそうそうないであろうことは、本書を読んでいても具体的なソリューションへの踏み込みがほとんどないところからも明らかであろう。

話は脱線するが、最近、子どもの声がうるさいという苦情が近所の住民から寄せられることが多くなり、若い夫婦が子どもを作ろうという意欲を減退させてしまうという事態が起きているという新聞報道を見た。自分の放つ加齢臭や他人の話に耳を貸さない独りよがりな自分の態度を棚に上げて、そんなこと言ってる奴は、そうした子ども達が将来負担させられる年金の給付を辞退すべきだとすら僕は単純に思ってしまうが、本当にそうした若い夫婦が子どもをもうけない決定をしてしまったら、年齢構成で見た日本の地域社会の多様性は失われていってしまうだろう。若年人口が減り過ぎて高齢者だけが残るという年齢バランスの崩れ、地方が消滅して東京だけが極点社会として残るという国土構造のバランスの崩れ、この2つが問題なのだと著者は主張している。

PRESIDENT (プレジデント) 2014年 10/13号 [雑誌]

PRESIDENT (プレジデント) 2014年 10/13号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2014/09/22
  • メディア: 雑誌

富山市のコンパクトシティ政策については、隔週刊の雑誌「PRESIDENT(プレジデント)」でも取り上げられている。その政策導入による成果についても、具体的な数字を用いて触れていて、わかりやすい記事だったが、その分、もう少し紙面を割いてくれてもよかったかもという物足りなさはあった。富山市だけを特出ししているが、他の都市についても紹介してくれてもよかったのではないか。特集記事の方は、あらかた予想はしていた内容だったけれども、いざ実際にこうして指摘をされるとショックだな。

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