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『巨大災害・リスクと経済』 [仕事の小ネタ]

巨大災害・リスクと経済 (シリーズ現代経済研究)

巨大災害・リスクと経済 (シリーズ現代経済研究)

  • 編者: 澤田康幸
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2014/01/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
天災・人災をいかに克服し強靭な社会を創るか。地震・感染症などの自然災害だけでなく、原発事故など技術的災害、世界レベルの経済危機、紛争・テロ・戦争といった人的災害など、私たちの身の回りには様々な巨大リスクがついて回る。それら厄災をどう回避し、被害を最小限にとどめ、いかにダメージから早く立ち直るかを、経済学の知見から幅広く読み解く。

台風18号が本州接近中である。昨日(土曜日)は、末子の小学校の運動会で、閉会まで辛うじて天候は持ってくれたが、もし昨日開催されなかった場合は今日もダメで、そうなるとどうなっていたんだろうと気になる。末子も小5になり、高学年の組体操や応援団に参加するようになった。これらは小学校の運動会の華なので、雨天順延が二度三度と続き、平日開催になってしまったら僕らは見れないし、中止になってしまったらせっかく練習してきた子供達の努力もかなわなくなってしまう。ほんと、昨日開催できて良かった。

さて、ここ数ヵ月、とりわけ先週末から今週末にかけて、「災害」というものを考える機会がとみに多かった。先週末といえば、9月27日(土)に行楽客で賑わう木曽御嶽山で起きた噴火災害。発生から1週間が経ち、死亡が確認された犠牲者の数は50人を超えた。そして、今週末の台風18号。8月末に起きた広島市郊外の土石流災害も未だ記憶に新しい。また、東京電力福島第一発電所の吉田元所長の「調書」が公開され、地震・津波被災直後の原子力発電所の緊迫した状況が改めて市民の目にさらされたのも最近のことだ。

僕らが「災害」というと、自ずと自然災害に目が行く。地震・津波や、台風・土砂崩れなどの風水害、干ばつあたりがこれには含まれる。加えてよく「人災」という表現が使われる原発事故や薬害、公害あたりまでは、なんとなく「災害」というカテゴリーに含まれるのかなという気がする。

ところが、本書によると「災害」の定義はもっと広い。先ほど述べた「自然災害」には、さらにエボラ出血熱やデング熱のような感染症も含まれるし、これに加えて、産業事故(原発を含む)や輸送事故(航空機事故や道路交通事故等)のような「技術的災害」、さらには、金融、財政危機、通貨危機といった「経済危機」、テロ事件、内戦・紛争、戦争等の「暴力的紛争・戦争」というのも、「災害」に含まれるのだという。

このため、本書は、全体の枠組を示して各章の概要説明を行う第1部に対し、第2部では自然災害、感染症を取り上げ、第3部では技術的災害としての原発事故、金融財政危機、暴力的紛争等が各章で取り上げられている。僕らが「災害」という場合の「災害」の範囲と、本書の「災害」の範囲が違うため、第2部にある感染症の章(第5章)あたりから後は、僕のような不勉強の読者は、なんで取り上げられているのかわからず戸惑ったりすることもあるかもしれない。序章、第1章の枠組みのところをきっちり読んでおき、あとは読者各々の興味に合わせて拾い読みするのでも宜しいかと思う。

従って、ブログでも主に第1章の「グローバル社会と巨大災害・リスク」(澤田康幸著)のご紹介を中心とする。澤田によれば、自然災害は2000年以降、技術的災害は1980年代半ば以降、発生頻度が急増しているという。こうした災害の増加傾向は、被害に対する有効な対処策の必要性を浮き彫りにし、短期的には自然災害や紛争による負の影響を軽減する政策が不可欠であり、同時に、経済危機に対しては、事後的な経済復興のための長期にわたる再建計画の立案・実行等が必要だと述べている。

また、大災害は大きな厚生費用を生み出し、それに対する市場メカニズム、非市場的制度は完全には機能しない。しかし、自然災害については信用市場・保険市場へのアクセス、資産の取り崩し、所得移転、人的災害については奢侈的消費の削減と労働供給の増加が、不完全ながらも有効なリスク対処として機能している。そして、リスクへの対処強化の観点から、事前の「リスクコントロール」や「リスクファイナンス」が不可欠であり、各災害に合わせた備えを周到に構築する必要があると著者は述べる。その際は、「市場メカニズム」、政府の「公的資源配分メカニズム」に加え、地域限定的な公共財の供給、セーフティネットの構築促進を支える「コミュニティ・メカニズム」が重要で、複合して発生し得る様々な大災害へ備えるため、これら3つのメカニズムの補完関係を強化し、大災害のリスクを世界全体でプールするような備えの仕組みが構築される必要があると述べている。

こうした全体を見渡す視点から、各章とも、市場メカニズムと政府の市場補完メカニズムの機能の可能性と限界をよく分析し、現在は整備されていないけれども整備されればリスクをコントロールし、災害発生後のリカバリーを早く力強いものにできるであろう仕組みについての考察が行われている。

さすがに著名な研究者が名を連ねているだけあって、各章とも先行研究のレビューが豊富にある点は非常に有用。

本書については、先月後半ぐらいから、職場の関係者に勧められて一気に読んだ。元々発売直後には新聞でも書評欄でよく取り上げられていたため、僕も3月に購入したが、ずっと積読状態で放置していた。それが皮肉にも職場での仕事の関係で必要に駆られてどうしても読まなければならなくなったもの。おかげで、幾つかの章を読んでいて、自分が書いていたレポートのヒントをもらうことができた。

このレポートも、先週中に上司のOKが出たので、この週末のうちに何カ所かの微修正を加え、週明けには社長に提出することになりそう。このレポート、準備開始が8月上旬で、夏休みにも相当数の文献を読み、さらにいろいろな方からいただいたコメント、情報提供に基づき、さらに9月中下旬にも追加の文献を読み込んで原稿の修正作業を行った。ようやくここまで来れたとちょっと感激だ。

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