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『先進国・韓国の憂鬱』 [読書日記]

先進国・韓国の憂鬱 (中公新書 2262)

先進国・韓国の憂鬱 (中公新書 2262)

  • 作者: 大西 裕
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/04/24
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
自国製品が世界を席巻し、経済的に大きく躍進した韓国。しかし、急激な発展によって他の先進国以上に多くの課題を抱え込んだ。少子高齢化、貧困問題、社会保障制度の未整備…。韓国が直面する問題に対して、金大中、盧武鉉、李明博ら革新、保守それぞれの歴代政権は、いかなる結果をもたらしたのか。そして朴槿恵の舵取りによって、この国はどこに向かうのか。指導者と政策を通し、隣国の姿を浮き彫りにする。

今、アジア大会で盛り上がっているお隣の国・韓国。縁あって僕はここ2年ぐらいの間に3回訪れる機会があった。竹島問題や従軍慰安婦問題でこじれにこじれている日韓関係だが、政治家のレベルで冷え切ってしまっているからといって、民間人のレベルまで政治家に合わせるのもなんだと思うし、僕が接してきた韓国の若者達を見ていると、大韓民国という国を背負ってどーたらこーたらというのはほとんどなくて、ごく普通の若者たちだという印象だった。一方で、ソウルの街路を歩いていてとても気になったのは、ホームレスの高齢者を多く見かけたことだ。韓国は日本以上に少子化が進んでいて、子供の教育にはすごいお金をかけるが、そうして我が子が自分の元を巣立っていってしまった後、残された親は歳をとった状態でどうなっていってしまうのだろうか、ちょっと他人事とは思えない心配をしてしまった。

少子化と高齢化への対策を考えていく上で、日本と韓国、そして中国は、もっと各々の経験や教訓を共有し、何をすべきかを一緒に考えていくような交流をもっと進めるべきだと僕は思う。韓国も中国も、この20年ほどの間に、人口動態上のリスクを考慮して、様々な施策を講じている(筈である)。でも、きちんと自分でフォローしていないから、いつ頃どのような施策が講じられたか、その背景は何で、どのような政策形成プロセスを踏んだのか、導入された結果はどうだったのか、そこから得られる教訓は何か、といった疑問に対して、すぐに答えられるようなネタを僕は持っていない。

韓国の社会保障制度改革の推移についてこの際一度通しで知っておきたいと思い、本書については購入して読んでみることにした。

著者によると、本書は、途上国を卒業し、先進国になった韓国が、先進国であるがゆえの問題に直面し、苦悩している様子を描き出すのに取り組んでいる。その切り口として、1つは政府などの公的部門の領域を縮小させ、民間部門の役割を増大させる新自由主義的改革の進展が描かれる。象徴的なのは韓国が各国と交渉を積極的に進めた自由貿易協定(FTA)で、日本が足踏みする中で、韓国が米国やEUとのFTA交渉を進めてきたのがなぜなのか、それがなぜ可能であったのかが述べられている。

もう1つは、その新自由主義的な改革を推進したのが、1998年から10年続いた、金大中、盧武鉉という進歩的な政権だったという点。進歩派は保守派と異なり、国民の間に格差が広がることを懸念し、政府の介入によって市場機能の是正を図ろうとするのが通例で、弱者の痛みを和らげ、公平で人々が繁栄を分かち合う社会の実現を望む筈だが、韓国の場合、その進歩派政権が、逆に弱肉強食の世界を招きkねない新自由主義的改革を推進した。そうした改革がなで可能であったのか、それが述べられている。

その答えを、金大中、盧武鉉、李明博の三代にわたる政権の経済政策・社会保障政策の展開を検討する中で見出そうというのが著者の狙いである。

金大中、盧武鉉という進歩派の2大統領の施策に関する記述には3章を割いているが、李明博大統領については意外と記述が手薄な印象だ。与党内のライバルだった朴槿恵との争いの中で、元々人気が薄かったということはあるのかもしれないし、社会保障政策、通商政策という2つの切り口でしか捉えていないとパッとしないというのもあったのかもしれない。ただ、李明博大統領の下でOECDのDAC(開発援助委員会)に加入したし(2009年)、G20サミットのホスト国にもなったし(2010年)、対外的にはかなり頑張ったという印象が僕には強い。それに、韓国が自国の経済や社会の開発の経験を共通のフォーマットでまとめて、他の途上国とも共有できるコンテンツにするという取組みを2004年頃から始めており、知識経済化を主導した李政権の下でその取組みは加速し、現時点で110項目ものコンテンツが出来上がっている。しかも、そのうちで日本からの協力で進められた開発であれば、ちゃんと日本に対する敬意も払う記述があり、なんでもかんでも韓国オリジナルを主張しているわけでもない。竹島問題を再燃させるきっかけを作ったという点は割り引くが、それでも僕は、李大統領はよくやった人だと思う。

著者は社会保障の専門ではなく政治学者なので、社会保障がそれほど詳述されているわけではないが、ここ15年ほどの韓国の政治史を学ぶには十分すぎるほど十分で、韓国と仕事で接点があるような人なら、取りあえずは1冊手元に置いておかれるとよいのではないかと思う。また、政治経済学系の論文ってこんな感じで書くんだなというのがよくわかった。但し、切り口としては社会保障政策と通商政策の2面から、進歩派と保守派のせめぎ合いというところで歴代の政権が決まっていっているというのが述べられている。対日政策、竹島問題等には殆どふれていないので注意が必要だ。

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