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『世界「比較貧困学」入門』 [仕事の小ネタ]

世界「比較貧困学」入門 (PHP新書)

世界「比較貧困学」入門 (PHP新書)

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/04/16
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
世界の最底辺を取材してきた著者は、途上国の貧困を「絶対貧困」、先進国の貧困を「相対貧困」と定義し、住居、労働、結婚、食事といった生活の隅々で両者の実態を比較する。日本全体で約2000万人、6人に1人が相対貧困であるという事実。世界とくらべて、日本の貧困にはどのような特徴があるのか。スラムに住む子どもたちが笑顔で生き、かたや充実した社会保障に守られながら希望をもてない人たちがいる。豊かさの真実を知るための必読書。

自分の控えている読書記録を見ると、本書を読了したのは6月27日、ブログで記事を書こうと思って先に「ハコ」を作ったのは8月18日、そして、実際に紹介するのはなんと11月1日である。4ヵ月もの放置プレイ、正直著者に対しても、この本自体にたいしても申し訳ない。勿論、こんないい本を発刊から半年以上皆さまに紹介しなかったこともお詫び申し上げます。

日本では、小泉純一郎首相が竹中平蔵氏をブレーンに据えて「構造改革」を推進した頃から「格差」という言葉が頻繁に聞かれるようになった気がするが、この傾向は日本だけのことではなく、2000年以降、高い経済成長率を記録し、貧困削減を目指した「ミレニアム開発目標(MDGs)」の2015年の達成に目途をつけた多くの開発途上国でも「格差」の拡大が課題とされるようになってきている。全国平均としては指標は目標水準をクリアしているけれど、実際には標準偏差も相当開いていて、リッチな人はどんどんリッチになり、貧しい人は貧しいままで置いてきぼりを喰っているというのが実態だろう。MDGsは2015年で達成年限を迎えるが、現在国連の場では次の開発目標をどのように決めるのかが議論されている。漏れ聞こえてきているその内容は、「何人なりとも取り残さない(Leave no one behind)」という原則に基づくのだそうだ。すなわち、それは格差の問題に取り組むのだということだろう。

MDGsの時は、極度な貧困の撲滅という目標に対して、「絶対貧困」の状態にある人の人口を半減させるという指標が想定されていたと聞く。勿論、置いてきぼりを喰った人々が絶対的貧困状態にある場合は、その状態から脱出することが専決で、最優先で取り組まれるべき項目だろう。それに加えて、2016年以降の開発目標では、「相対貧困」の解消という新たな指標が設けられる見込みだ。

本書で紹介されている両者の定義は以下の通りとなっている。

「絶対貧困」:1日1.25ドル以下での暮らしを強いられている状態。

「相対貧困」:等価可処分所得(1世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割った数値)が全人口の中央値の半分未満である世帯員の状態。

日本のような先進国では物価が高いため絶対貧困状態に置かれている人はほとんどいない。だから日本には貧困は存在しないことになる。でも、それは僕らの肌感覚と合わない。多分、多くの読者の方もそうお感じになるだろう。

相対貧困を用いると、日本の場合は単身所得が約150万円以下である人々が相対貧困状態にあるということになる。この数は日本全体で約2000万人にも上り、国民の約16%、6人に1人が相対貧困状態に置かれているのだ。だから、日本は世界でも有数の貧困国だと言われている。

そこで本書である。本書の特徴は、この絶対貧困と相対貧困の2つの概念を用いて、開発途上国で言われているところの貧困と、日本国内の貧困との比較を試みているところにある。著者は既に『絶対貧困』という著書もあり、途上国における最底辺で暮らす人々の暮らしをその中でともに生活してみて、その実態を僕たちに紹介する非常に質の高いルポをこれまで書いてこられている。その著者が、最近は日本国内の貧困にも目を向け、その実態を調べるために国内での取材を相当こなすようになって来られている。今回の本は、その成果も盛り込み、貧困は決して途上国だけの問題ではなく、日本自身の問題でもあるのだというのを強調されようとしたのだと僕は理解した。

現場を歩いてそこに住む人の暮らしを自身も経験して書いているだけに、非常に説得力がある。絶対貧困と相対貧困の比較から、途上国と日本における貧困の捉え方を示し、日本はどうなんだと問うている。ホント、読んでいるとどっちの状況が幸せなんだかわからなくなる。

こうした比較を行なうことで、読者の関心を日本国内の貧困の問題に向けることは大変意義があるものだ。グローバルな目標だと標榜していながら、MDGsは基本的には途上国の開発目標でしかなく、僕らはそれは途上国の経済社会開発の状況、人々の置かれた状況を見る物差しとしてしか捉えてこなかった。しかし、2016年以降を規定する新しい開発目標は、「持続可能な開発」を冠に据えており、先進国であろうが途上国であろうが、全ての国があまねく達成に向けて取り組まなければならない目標になる。「持続可能な開発」というと、僕らはついつい環境の持続可能性のことを想像してしまうが、それだけではない。拡大した格差が放置された状態が続けば、平和で安定した社会というのが維持できないだろうし、経済も持続的な成長は記録できないだろう。

繰り返しになるが、これは日本自身も国内での取組みとして目をそらしてはいけなくなる課題になってくると思う。本書は、それに向けての格好の入門書だといえる。

ただ、最後にちょっとだけ批判めいたことも書いておくとすれば、途上国の例に関しては、ケニアからバングラデシュに話が飛んだりして、読んでいて頭を切り替えるのに苦労した箇所がいくつかあった。著者は自身の分析結果や解釈の仕方を一般化させようとして、アジアでもアフリカでもこうだと言おうとしたのだと思うが、本当にこの一般化は正確なのかどうかがわからない。途上国にもいろいろあるような気もするのだが、貧困の現場を歩いた時間を考えれば僕など足元にも及ばないわけで、これ以上言うことができない。

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