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寸評:今週読んだ本(2014年8月中旬①) [仕事の小ネタ]

ただ今お盆休みを実家で過ごしている。5泊6日という比較的長い滞在で、去年手術した父の元気な姿も確認はできたし、再来年大学受験を迎える我が家の長男の選択肢ともなる地方の国公立大学というのの下見もできた。あいにく天候の方はずっと悪くて、激しい雨が断続的に降り、太陽が顔を覗かせる時間が極めて短く、ちょいとジョギングなんてわけにはなかなかいかないのが難点だが、その分家族サービスにはささやかながら貢献はしている。

前に研究部門に在籍していた頃、長期休暇は滞っていた論文執筆を進める絶好の機会だと上司からさりげなく言われてプレッシャーをかけられたことがある。振り返ってみてもこの部門に在籍していた頃がいちばん落ち着かない夏休みや正月休みを取っていたと思う。

今回は久しぶりに研究部門から離れて取る夏休みだ。でも、実は、その研究部門に在籍していた頃の「亡霊」をいまだに引きずっている。研究部門を離れる際にやり残していた仕事が2つあって、それをある程度片付けるのに今回の夏休みを使いたいと考えていたのだ。1つは社会ネットワークに関連した論文の執筆で、この秋に論文を書き上げるために、今まで積読にしてあった文献を多少読んでおきたいと考えていたのだ。もう1つは逆に他の人の書いた論文へのコメントで、2つの論文に対してコメントを依頼されている。こうしたコメント作業は秋から別の人に引き継ぐ目処が立っており、今回は最後のご奉公ということになる。今の部署での仕事が忙しくて、なかなか手が付けられなかったこの数カ月だった。

そうやって今度の夏休みをどうするか7月末頃までは考えてあったのだが、実際の休暇入りの1週間前になって急に飛び込んできた仕事があった。僕が先週バンコクに出張している間に、留守番していたうちのスタッフに、僕の上司からレポート作成の依頼があったのが1件。そのスタッフは困惑しながらも僕の出張中にある程度作業は進めてくれていて、あとは僕が仕上げの作業を行うという段階にあったが、それを上司に見せて出来上がりイメージを確認したところどうも不十分だったようで、上司と話し合った結果、もう少し時間を与えるからもっと網羅的なレポートの構成にして欲しいとのさらなる注文が出た。そのためには追加で読んでおいた方がいい文献もある。(もう1つ突発的に入った仕事があるが、これについては別途紹介する。)

そんなわけで、僕は泣く泣く優先順位を変更し、レポート作成のために必要な文献を数点、帰省の際の僕の荷物の中に含めることにした。13日(水)に休暇に入って既に4日が経過したが、テーマが決まっている中でそれに該当する記述を文献の中から探してきてそこを深読みするという作業なので、1冊1冊をじっくり読み込むのとはわけが違う。このため、各々の本を個別の記事で紹介するのではなく、取りあえず現時点までに読了したものを3点、まとめて挙げておく。

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なぜ貧しい国はなくならないのか 正しい開発戦略を考える

なぜ貧しい国はなくならないのか 正しい開発戦略を考える

  • 作者: 大塚 啓二郎
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2014/03/20
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
世界経済の難問がついに解けた。途上国が離陸できないのは処方箋が間違っているからだ!シカゴ流の経済理論と豊富な現場体験に基づいて明かす脱貧困の経済戦略。

僕の抱えているレポートのテーマに最も合致していそうな本で、しかも最近出された本なので、仮にテーマにドンピシャの記述が含まれていなかったとしても、これまでの開発経済学の思想の移り変わりを振り返るにはいい本だろうと想像して読みかかった。

開発経済学の本としては比較的平易な文章で書かれていて読みやすいし、著者の論点に対しても納得感はかなりある。ジェフリー・サックスの主張が現代版ビッグプッシュだとすれば、著者の主張はアルバート・ハーシュマンが1960年代初頭に発表していた「経済発展の戦略」の現代版で、限られた資源をどのようなシークエンスでどこに投入していったらいいかという戦略を持つことの必要性を強調しているものと理解した。外国の知識や経験を学ぶことの重要性を論じている点でも現在の開発思想の潮流とも合致しているように思う。

こうした本がこの時期に世に出た理由の1つは、現在見直しが進められている政府開発援助大綱(ODA大綱)への知的貢献ということが相当意識されていたのではないかと思う。

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援助の潮流がわかる本―今、援助で何が焦点となっているのか (国際協力叢書)

援助の潮流がわかる本―今、援助で何が焦点となっているのか (国際協力叢書)

  • 作者: 国際協力機構国際協力総合研修所
  • 出版社/メーカー: 国際協力出版会
  • 発売日: 2003/12/25
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
援助実施者の視点から、昨今の援助を取り巻く状況や援助戦略・アプローチを簡潔にまとめる。JICA国際協力総合研修所の調査資料を出版。用語解説や豊富な事例から「開発をめぐる援助」が理解でき、明確な視座を導く。

この本は、2003年末に発刊と同時に一度読んだことがあり、その後何度か部分的には参考にさせてもらうために読んだこともあったが、今回は特定テーマに関する言及を探すために、結局最初から最後までひと通り目を通し直すことになった。この本が出た時にはやはり政府開発援助の関係者の間では相当に反響が大きかったという記憶がある。よくまとめられた1冊で、1990年代どころか、1970年代頃にまでも遡って開発思想や援助アプローチの変遷が描かれていて、今読み直しても相当に参考になる本だと改めて実感した。

ただ、今回10年ぶりに読み直してみて、「持続可能な開発」への踏み込み方が不十分で、未だこの本が書かれた当時は環境の持続性というものには注目されていなかったのがよくわかる。また、当然ながら最近よく耳にするようになった「レジリエンス(強靭性)」といった言葉への注目も当時は未だ少なかったようである。この本が書かれた2003年は、緒方貞子氏がJICAの理事長に就任した直後であり、この本には「人間の安全保障」への言及は少ない。従って、脆弱な人々が直面する「ダウンサイドリスク」へもほとんど光が当たっていない。また、南南協力についても言及はゼロである。

せっかくのいい本なのだから、これまで10年の歩みを踏まえた第二版を出たら嬉しいと思う。(但し、出版社は事業仕訳によって事業解散に追い込まれたので、別の出版社を探してくる必要はあるけれど。)

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開発経済学概論

開発経済学概論

  • 作者: ジェラルド・マーヴィン マイヤー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/09/27
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
開発経済学研究の泰斗の手になる、開発思想の進化を平易に概観した、学生・研究者・実務家向けのテキスト。開発理論の背後にある思想を掘り出し、思想と理論がもたらした戦略と政策を、経験的事実にもとづいて検証する。

この本も、僕が探しているような答えがある程度載っていそうな期待をしていた割には意外とそうでもなかった。この本の原書が世に出たのは2004年、日本語訳が出たのは2006年のことである。僕は2007年夏にこの本を購入した。博士課程に進もうかと考えた時に、最新の開発経済学の本が1冊手元に欲しかったからだが、結局積読のまま放置していた。

今回こうして訳あって飛ばし読みしてみたが、僕が探していた「成長の質的側面」への言及はこの本が書かれた2004年時点でも少ないことがわかった。気候変動や水・エネルギー・食糧安全保障のネクサス等、環境の持続性や持続可能な開発への配慮の必要性が高まっていくのは2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)以降のことだから、環境経済学の知見が開発経済学に入ってくるのが本書発刊より後のことであったとしても、何らおかしくはない。

ただ、自分が大学で開発経済学の講座を担当するなら文献購読の題材としては使ってみたい本である。そんな日が本当に訪れるのかどうかはわからないが、こうした本があるということだけでも現時点で確認できたことは、収穫だと割り切っておこう。

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