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『グローバル市民社会と援助効果』 [仕事の小ネタ]

グローバル市民社会と援助効果: CSO/NGOのアドボカシーと規範づくり

グローバル市民社会と援助効果: CSO/NGOのアドボカシーと規範づくり

  • 作者: 高柳 彰夫
  • 出版社/メーカー: 法律文化社
  • 発売日: 2014/07/04
  • メディア: 単行本
内容紹介
「成長による貧困削減規範」から「人権規範」への転換をめざすCSO(市民社会組織)について、独自の役割を包括的に検証。

何冊かベストセラー小説の紹介が続いているわけですが、だいたい小説と並行して別の専門書を読んでいることが多い。ちょっと前であれば2週間かけて『土の文明史』を読んでいたわけで、先週の出張にも、小説だけでなく本書を携行していた。出張の目的とも関連したテーマが扱われているので、目の前で展開していた議論を復習するのには大変役に立った。

この本を進めて下さったのは、先月下旬に名古屋で出たセミナー(下写真)の講師のO先生だった。O先生、ものすごく高速のマシンガントークで話についていくのが大変だったけれど、「詳しくは高柳先生が最近出した本で!」と言って、知り合いの著書の宣伝も忘れなかった。東京に戻ってさっそく入手したが、その後今回のバンコク出張が急に決まったので、それに携行することにした。

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「効果的な援助」というテーマについては書かれた本が多々あるが、「援助効果」というテーマで国際場裏で行なわれてきた議論について、ここ10年ほどの国際会議とその成果文書をフォローし、しかもその成果文書の作成プロセスについて関わった人が書いた日本語の本というのは非常に少ない。ましてや著者は政府を代表して交渉にあたっていた人ではなく、日本の市民社会、というか、国際協力NGOの業界の代表として会議に出ていた人らしい。日本のNGOが世界中のNGOが揃う場で積極発言を繰り広げる姿は、一部の特定のテーマに関する会議を除けば非常に珍しい。ややもすると政府代表団でも自由な発言が求められる場ではあまり発言しないことが多いのに、そもそも日本のNGOの場合はそういう場に人を送り込んでいること自体が珍しいのではないか。

だから、こうした「援助効果」に関する本が、政府開発援助(ODA)の関係者からではなく、国際協力NGOの関係者の手によって書かれたというところには、驚きを禁じ得ない。当然ながらその記述は市民社会の側から見た援助の効果向上に関する議論にやや偏っているが、援助の効果向上に関するここ10年ほどの潮流を概略理解するには十分な内容の1冊だ。そして、市民社会がそれまで国を中心に繰り広げられてきた援助効果の議論にどのように加わっていったのか、本書を読むととてもよく理解できる。

市民社会側の論点が何で、それが政府側の主張との間でどのような争点をもたらしていたのかが興味深い。
「経済成長を通じた貧困削減」に対する「人権重視」の開発アプローチ、「国家主導のオーナーシップ」に対する「民主的オーナーシップ」等、最近NGOの間から聞かれる様々な言説の背景を理解するにはとてもいい内容だ。僕自身の肌感覚として、最近のNGOは「ライツベース・アプローチ(人権重視のアプローチ、RBA)」を以前と比べて非常に強く主張するようになってきたように感じていたところだったが、その背景の一端が本書を読んでわかった気がする。

他方で、交渉過程をここまで詳述されると若干中だるみ感も感じざるを得ず、実際のところ一部分は飛ばし読みした。あとがきを読むと元々本書を構成する各章は別の媒体にそれぞれ個別に掲載された著書の論文を1冊にまとめたものらしく、その点では各章間に多少の重複があるのは致し方ないところだろう。(逆に各章間で何ら関連性のない論文集よりはよほどましだと思う。)

また、著者はこうして日本の国際協力NGOの代表として送り込まれているが、その割には日本のNGOがどのような関与をしたのかについての言及は少なく、物足りなさも多少感じた。本書で登場するグローバル市民社会の代表であるCSO(市民社会組織)の多くが欧米系だし、南のCSOも登場することはするが、アフリカ系が強くてアジア系のCSOの存在感はあまり強くないのかなという印象を受けた。(そこは、僕が今回バンコクに行って見たアジアのCSO/NGOの代表の積極姿勢とはあまりに大きなギャップを感じたところだ。)

また、おそらくこうした動向に関心を持つ日本のCSOといったら国際協力に従事しているNGOが多いのだろうとは思うが、勿論それほど色濃く日本のNGOが議論をリードするようなところはあまり見られなかったのかもしれないけれど、そうした中で「人権重視」が叫ばれている状況を、環境系のNGOはどう見ているんだろうかという疑問も湧いてきた。先月のセミナーで登壇されていたO先生は、開発系のNGOと環境系のNGOの交流が少ないことは認めておられたけれど、それは日本に限ったことではないのかもしれない。僕は未だ不勉強なので「人権と環境」というテーマ設定で物を言うのはおこがましいとは思うが、本書を読んでいると、開発系のNGOと環境系のNGOとの間のギャップは、欧米でも存在しているのではないかという漠然とした印象を受けた。

それとも関連するが、ここで言う「市民社会」には、民間企業も含まれていないといけないのではないかと思うものの、CSOが「援助効果」という言葉ではなく「開発効果」という言葉の使用を提唱しているという割に、民間企業も開発には貢献できるという点についての配慮があまりなされないまま、この10年は過ぎてきたのかなという印象はどうしても受けてしまった。民間企業というとすぐに「経済成長」と結びついて「人権重視」とは異なる規範だというので彼我の二分論に終わってしまいがちだが、これから環境と経済と社会のバランスのとれた開発というのが重要視されるようになってくると、企業の持つ技術力というのが、持続可能な開発に役立つ余地も相当に大きいと思う。本書はあくまでも「援助効果」というレンズを通じて政府と市民社会の関係を見ているので仕方がないが、もしこれが現在進んでいる「持続可能な開発」というレンズを通してみると、民間企業への言及はもっと増やさないといけないのではないかと思う。

日本の場合、国際協力をやっているNGOだけが市民社会の代表として出ていく構図が本当に適切なのかは、「持続可能な開発」を考えるに当たっては若干疑問だなと思う。「持続可能な開発」は彼らが開発途上国で取り組んでいる開発協力にだけ適用されるものではなく、僕らが日本国内で営んでいる生産活動や消費活動、ライフスタイルそのもののあり方にも適用される。そうすると、国際協力ではなく、もっぱら日本国内を対象にして、環境教育や消費者運動等に取り組んでいる市民社会組織(CSO)もステークホルダーであり、そこに関わっておられる人々の意見もグローバル市民社会の世論形成には反映されるようになっていく必要があると思うが、現状は必ずしもそうなってはいない。

グローバル市民社会が「人権重視」の開発アプローチの主流化を求めている一方で、それを重視したら中国やインドなどの新興援助国は「援助に遵守条件(コンディショナリティ)を付けるな」と主張しているのとは真っ向対立する。本書は2011年秋に釜山で開催された「効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ(GPEDC)」閣僚級会合とその成果文書である「釜山パートナーシップ宣言」までしかカバーしていないが、その後この枠組みは先進国主導だとして中国やインド、ブラジル等がなかなか参加せず、有効性の確保に腐心している。新興国の発展経験自体が「経済成長を通じた貧困削減」というアプローチによるもので、必ずしも人権重視とは言えない。市民社会が人権重視を叫び、それを国連あたりで支持する動きが強まれば、新興国がますます枠組みに入りにくくなるというジレンマがさらに強まっていくのではないかという気がするのだが…。

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