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『ブラジルの環境都市を創った日本人』 [仕事の小ネタ]

ブラジルの環境都市を創った日本人: 中村ひとし物語

ブラジルの環境都市を創った日本人: 中村ひとし物語

  • 作者: 服部 圭郎
  • 出版社/メーカー: 未来社
  • 発売日: 2014/03/10
  • メディア: 単行本
内容紹介
「クリチバはイトシのおかげでできた街」
ブラジルが世界に誇る環境都市クリチバ。「ごみ買い」プログラム、公共施設の設計・整備……クリチバにおける多くの自然公園整備、環境政策の背景で手腕を振るったのは日系一世・中村ひとしであった。ブラジル人から絶大な信頼を得て、日本的感性を活かした都市づくりを進めたひとし。「イトシ、なんとかせい」「イトシ、あとはしっかりやっておけ」「イトシ、それはやりすぎだ」。彼がブラジルでなしとげた仕事の全貌と、家族・友人の愛に支えられたその半生をつづる。
サッカーW杯ブラジル大会は、ドイツの優勝ということで先週末幕を閉じた。日本代表については残念な結果だったけれど、世界のサッカーを堪能すると、「ジャパン」ももっとやれることが多いのではないかとどうしても思えてしまう。自国の代表には頑張って欲しいけれど、まだまだ先は長いのではないかと思う。

さて、今回のW杯のグループリーグ予選開催地の1つに、パラナ州のクリチバという町がある。スペイン代表のキャンプ地ともなっていた町である。「クリチバ」という名前は僕にとっては学生時代から右脳にインプットされている。通っていた大学にはポルトガル語学科というのがあり、サークルの先輩、同期、後輩の中にもこの学部出身の人が何人かいたが、ここの学科生はブラジル留学が半ば制度化されていて、クリチバで1年過ごしたという人がサークルの関係者にも2人ほどいた。

「クリチバ」の名前を次に耳にしたのはつい最近のことである。クリチバは環境と居住、経済との調和が非常に進んだ町で、その都市計画のノウハウを他の開発途上国、さらには日本の都市とも共有できるのではと考えている人がいるのだと聞いた。

この本を読んでみようと思ったのは、そうしたクリチバの都市開発に日本人が関わっているというのを知ったからである。著者によれば、クリチバの環境都市化を主導したのは、3回にわたって市長を務めたジャイメ・レルネルだと一般には思われているが、そうしたビジョンを示したのは確かにレルネル市長かもしれないが、彼のビジョンを実際にアクションに移した実働部隊のトップは、大学卒業してブラジルに渡った日本人・中村ひとしであり、中村の功績に十分な光が当たっていないのはおかしいということらしい。

中村ひとし氏の功績がどれくらい凄いのかは本書で十分に描かれている。中村氏の功績に正当な光を当てたいという著者の熱意はひしひしと伝わってくる。そういう凄い日本人がいたというのを僕らは誇りに思いたいし、実際に中村氏は日本人のブラジル移住者としてはほぼ最後の世代にあたるけれど、ブラジル日系人社会の中では、この国の公的セクターに食い込んで優れた業績を残してきた第一人者ではあるらしい。妬みもあるようだけど。

この本自体は僕は非常に有用だと思う。海外における日本人の隠れた功績にまっとうな光を当てることは重要なことだし、僕らはどんな国に仕事であれ旅行であれ渡航する場合には、その国での日本人の働きぶりについてある程度は知っておくべきだと思っている。そうした全体的にはポジティブな評価だというのを前提にしながら、あえて少しだけ苦言を呈しておきたい。

先ず、著者が言う「環境都市」の定義が読み進めるうちによくわからなくなった。どうも、著者の頭の中では「環境都市」というのは、車よりも人の通行が優先された都市交通計画が行き届いており、住民1人当たりの公園面積や森林面積が多いということらしい。だから、あえて突っ込みを入れるとしたら、車よりも人の通行を優先させるようなバス専用レーンの創設などの都市交通政策を導入したのはやっぱり市長であり、中村氏は公園局長や環境局長を歴任しているので、どうしても公園の整備の話が多くなってしまっている。中村氏の功績をひとつひとつ挙げていけば、結局のところは公園整備事業ばかりがやたらと列挙されるということに陥りやすい。勿論、ゴミを買い物クーポンやバス利用クーポンと交換するような一種の「ゴミ買い取り」制度は確かにイノベーティブであり、それは都市景観の美化につながり、犯罪率の低下にも貢献しているらしい。であったとしても、改めて強調しておきたいのは、クリチバを環境都市に育て上げたのは中村一人の功績ではなく、レルネル市長と中村氏のペアが成し遂げてきたものであるということだ。

中村氏の貢献の事例は個別に列挙されているが、正直、もう少し体系化して欲しいという気もした。あの公園も中村が設計、この公園も中村、と列挙されても、読んでいてうんざり感が出てきて、「だから何?(So what?)」と言いたくなってしまう。そうした個別の事例から、中村氏の公園設計のアプローチを一般化させて図にでもまとめて本文に挿入しておいてもらえると、もっと理解がしやすかったかもという気がする。

それに、レルネル&中村コンビを持ち上げすぎじゃないかとも正直思う。レルネルは市長を3回務めた後、パラナ州の知事選に出馬し、当選している。そして、その3回とも、レルネルは中村を抜擢している。それほどの信頼関係が両者の間にあることはよくわかる。でも、市長の時も、州知事の時も、レルネルが退任した後は彼と中村の「天敵」とも言える人物がレルネルの後を継ぎ、レルネルの立ち上げた事業を否定するような政策を選択し、そのために中村がポストに居づらくなって、辞任するというのを繰り返してきたのがわかる。著者は一方的にこの後継首長のことを批判的に書いているけれど、仮にも後継首長も選挙で選ばれているのだから、常に悪政を行ってきたわけではなく、有権者からは評価されていた部分もあったのではないかと思う。逆に、レルネルが2期連続で首長をやっていないのも(ひょっとしたら二選禁止というような制度になっているのかもしれないが)、市民の支持が本物でもなかったからではないかという気もする。一方的に「天敵」の施政が劣っているとは言い切れないのではないか。

著者は本書の中では一貫して敵と味方を色分けする描き方をしている。実は僕の働いている会社も本書には出てくるのだが、ここも読みようによっては我が社に対しては批判的なニュアンスがこもっているように思えた。だからこんな厳しいことを述べているというわけではないが、いずれにしても、全体を通じてレルネル・中村コンビに対して支持的ではない人々を全て敵視するような描き方にはかなりの抵抗感があった。

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