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『太陽の棘(とげ)』 [読書日記]

太陽の棘(とげ)

太陽の棘(とげ)

  • 作者: 原田 マハ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/04/21
  • メディア: 単行本
内容紹介
太平洋戦争で地上戦が行われ、荒土と化した沖縄。首里城の北に存在した「ニシムイ美術村」そこでは、のちに沖縄画壇を代表することになる画家たちが、肖像画や風景画などを売って生計を立てながら、同時に独自の創作活動をしていた。その若手画家たちと、交流を深めていく、若き米軍軍医の目を通して描かれる、美しき芸術と友情の日々。史実をもとに描かれた沖縄とアメリカをつなぐ、海を越えた二枚の肖像画を巡る感動の物語。
恥ずかしながら僕はまだ沖縄という土地に足を踏み入れたことがないので、沖縄の日差しの鋭さについては想像しかできないが、本書の場合、ニシムイの画家たちの放つ強烈なまなざしを「太陽の棘」と見立てているんだろう。

『楽園のカンヴァス』が文庫化されたからだろうか、最近、原田マハ作品というのが書店店頭に目立つ。既刊本の文庫化に加え、こうして新刊本が出た絶好のタイミングだからということなのだろう。キュレーターご出身の原田さんが美術を取り上げた作品の素晴らしさは『楽園のカンヴァス』で堪能済みだが、もう1つ、原田作品で好きだったのは『カフーを待ちわびて』で、沖縄ご出身というわけでもないのに、書かれた文章が沖縄の情景をとてもうまく表現しているような気がした。『太陽の棘』は、こうした美術と沖縄の結節点として、戦中戦後を通じて実在した沖縄画家のコミュニティと駐留米軍の精神科医との交流を描いた作品だ。

戦前戦後に米国本土に滞在していた日本人・日系人が置かれた立場、当時米軍に占領されていた沖縄の置かれた立場(戦中は日本本土の楯となって本土防衛のための犠牲を強いられ、米軍の攻撃も熾烈だったため、沖縄の人々は本土の人々に対しても米軍に対しても複雑な感情を抱いていた)、そして、苦しい状況に置かれていても画材を捨てることなく肖像画や風景画を描き続けた画家たちのコミュニティ、そうした諸々の事実に光を当てつつ、これにフィクションを絡めてうまくストーリーは描かれている。特に、僕は従軍医とはいえ占領軍の側から日本の人々にどう接していたのかを描いた読み物自体が初めてだったので、非常に勉強になった。

ただ、結末の迎え方があっけなかったようにも感じた。当時の状況を考えればいかにもありがちな顛末だが、こうしてあっけなくも本国に「強制」送還されたエドとニシムイの画家たちが、その後全く交流しなかったのかどうかがよくわからない。米国領とされていた当時ならともかく、日本に返還されて以降であれば、沖縄県民と米国民間人の交流は容易になったのではないかと思う。

それ以前に、文章でいくら沖縄の画家の放つ強烈な視線とその作品群を、ゴーギャンやマティスの作品を想起させるがそれとは違うというような表現で描かれても、僕らの持つのは結局ゴーギャンやマティスの作品のイメージでしかないため、どこがどう違うのかがなかなか想像できない。このあたりは、読者の美術に関する造詣の深さによって、この小説が楽しめるかどうかが変わってくるのではないかという気がした。

さて、この作品を一気に読み切れた先週末は、久しぶりに仕事を持ち帰らず、仕事のことは完全に忘れて過ごせた。土曜日は剣道の試合に出場するため片道1時間かけて東京武道館まで出かけ、日曜日は運転免許証の書き換えで府中の試験場で長蛇の列に身を置いてひたすら待った。勿論、ほぼ週末の日課として定着している、早朝のファミレスでの「早勉」はこの日も敢行し(場所は久々のマックだったが)、その場でも本書を読み進めた。一気読みできたのは小説だったからということもあるが、それくらい読ませる作品だったということもあると思う。お薦めしたい。

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