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『実践アーカイブ・マネジメント』 [仕事の小ネタ]

実践 アーカイブ・マネジメント 自治体・企業・学園の実務

実践 アーカイブ・マネジメント 自治体・企業・学園の実務

  • 作者: 朝日 崇
  • 出版社/メーカー: 出版文化社
  • 発売日: 2011/09/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
資料の保存と管理の最新ノウハウを網羅。未来へつなぐ記憶・文書・記録の残し方・活かし方とは?アーカイブズ学の基礎から今すぐ役立つ実践まで、分かりやすく解説。
5月頃から、ちょろちょろとアーカイブについてこのブログでも取り上げるようになってきた。その一環として、比較的わかりやすい実践編の本にもあたってみることにした。

自分が歳をとってきていることもあるが、僕は今の職場で「記録を残しておくこと」の重要性を若いスタッフに度々強調している。いろいろな場所で我が社の事業は展開されるが、そこで生成される文書は保存期間が決まっており、たいていの文書は5年から10年ぐらいで廃棄されてしまう。中には重要な書類も含まれているが、その重要性をわかっている事業の当事者は5年もすると人事異動で代替わりしてしまっている。そこで文書整理キャンペーンだと本社から発破をかけられ、決められた期間中に古い文書の処分とかをやるとなると、整理を行なう当事者のスタッフ達はその文書の軽重が判断できないから、細かく見ていると時間がないから全部捨てちゃおうという安易な結論に至る。何を隠そう、僕自身もそうやって文書をファイルごと廃棄処分にした経験がある。今となっては苦い思い出だ。

自戒の念も含めて言うと、少なくとも僕が働いてきた会社や組織の周辺では、「記録を残しておくこと」の重要性は必ずしも理解されていたとは言い難い。でも、保存期限が過ぎた文書ファイルの中身をチェックした上で、組織にとって重要性が高いと思われる文書はファイルから取り出して、期限を過ぎていても保管しておける仕組みが必要だということは、言えばたいていの人から「そうだ」と賛同が得られる。地方や海外の事業所では保管スペースが限られているので古い文書はある程度捨てなければいけないことはわかっているのだが、杓子定規的に一律で廃棄処分にしてしまうと、貴重な事業の情報が失われてしまうのではないかという不安は誰もが感じているもののようだ。

現用文書が保存期限を迎えた際に、非現用文書としてその後も保管しておくべきと思われるのはせいぜい全体の4~5%ぐらいのものらしいので、スペースの問題は短期的にはそれほど問題にはならないだろう。むしろ問題は、そうした文書の山から、後世に残すべき貴重な文書を峻別できるマンパワーだろう。なにせその軽重を判断できるスタッフが既にそこにはいないのだから。一般論として軽重判断を下せるスタッフはそれなりに経験を積んだ中堅ないしベテランの配置が必要なのだろうけれど、そういう人ほど今の職場では大変な思いをしているわけだし。

ただ、保管すべきは文書だけではない。これは実際に僕が過去の我が社のある事業の記録をまとめて1冊の本に仕上げる際に痛感したのだが、その事業で生成していたであろう四半期毎の報告書とか、現地の関係者を集めてほぼ定期的に開催されていた会議の議事録とかがきちんと管理されておらず、また事業で作成した様々なマニュアル、テキスト類も、セットで保管されていなくて原稿執筆する時に大変苦労した。それをある程度補完してくれたのが、当時その事業に関係した諸先輩方が個人的に残しておられた日記や、日本のご家族にあてた手紙、大量に撮影してアルバム保管しておられた写真等だった。僕は原稿執筆前にこうした先輩方のご自宅を訪ねて2、3時間のインタビューを行ったが、そこで聞かされたオラルヒストリーも非常に参考になった。そういうインタビューの詳録、あるいはインタビューそのものを撮影ないし録音して、映像・音声アーカイブとして保管することもあり得たと思う。

そういう諸々の文書、作成資料、映像・画像、新聞・雑誌記事といった、自社の事業に関連する様々な情報が集められ、それでアーカイブとなるのである。僕が書いた本は結局のところアーカイブ用に集めた情報をストーリーとして編集したに過ぎない。しかも、事業関連データの収集は最初から本の原稿を書くのに必要最小限のものしか集めておらず、そもそもこれをアーカイブと言うのは恥ずかしい。ただ、本では使わないだろうと決めていた事業の諸側面についての関連データまで集めて包括的なところまでやろうとすると、僕1人の力ではどうにもならなかった。このあたりは会社全体としての課題でもあろう。

まえがきが非常に長くなってしまったが、本書はそうしたマンパワーの配置に関してヒントをくれるものでは必ずしもないが、現用文書から非現用文書に移管させる際の実務について、ある程度実践的に解説されていて参考になることが多かった。また、「シーケンスを書き込む編集物、それの土台を支えるアーカイブ」という関係性の整理(p.192)も、僕自身の経験を踏まえると理解できるところであった。著者によると、日本は社史・年史の編纂を非常に重視している国で、ある企業に行って資料を見せて欲しいと頼んでみると、アーカイブに保管されている一次資料ではなく、社史のような二次資料が出てくることが多いのだという。思い当たるふしがないわけではない。蒐集されてあった一次資料をベースにして本を書いていくのではなく、本を書くことが先にあって、それに基づいて一次資料を集めに取り掛かるという、主従が逆転したようなことをやっている。

だから、僕が本を書いたことなんてたかが知れている。むしろ、その事業に関するできる限りの資料をアーカイブとして保管できる道筋をちゃんと作っておくことが大事だったのではないかと僕自身も反省している。

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