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『富岡製糸場と絹産業遺産群』 [シルク・コットン]


遅ればせながら、1週間前の21日(土)、「富岡製糸場と絹産業遺産群」がユネスコ世界文化遺産に正式に決まった。関係者の皆さんの長年の努力がようやく実を結んだ格好で、本当におめでたいことです。関係者の皆さまのお喜びもひとしおでしょう。少し前に自分が本を書く際に富岡製糸場のこともかなり調べたことがあるので、こうして近代日本の発展を牽引した蚕糸業に再び注目が集まるのは嬉しいことである。

世界遺産認定がほぼ確実になっていた中、富岡製糸場にスポットを当てた本がチラホラ出始めている。僕も1冊ぐらいはと思い、富岡製糸場総合研究センターの所長さんの書かれた本を購入していた。しばらくは積読状態で放置しておいたが、今週海外出張した際にこの新書を携行し、現地でひと仕事終えた後で読み始め、一晩で読み終えた。

富岡製糸場と絹産業遺産群 (ベスト新書)

富岡製糸場と絹産業遺産群 (ベスト新書)

  • 作者: 今井 幹夫
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2014/03/08
  • メディア: 新書
内容紹介
富士山に続いて本年、ユネスコ世界遺産登録をめざす群馬県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」。明治5年創業以来、日本の近代化を支えた伝説の模範工場の歴史と真価が写真や絵画、数々の史料でいま甦る。カラーグラビア64頁+本文160頁。奇跡の産業遺産がここにある!

カラー口絵がふんだんに使われているので、富岡製糸場の見学前の事前学習にはちょうどいいと思う。忙しくて簡単に行けない人にとっても、この口絵は非常に参考になるものだろうと思うし、富岡で見学客相手にガイドをする人の教本にもなるだろう。

ただ、メインディッシュの富岡製糸場の詳細な解説はともかく、その他の絹産業遺産群の扱いは取ってつけたような感じだ。富岡製糸場が出来たことが日本の近代化の出発点だったというわけでは必ずしもない。既に江戸時代後期には群馬県やお隣の埼玉県の深谷周辺では蚕種製造農家がかなり多かったし、先進的な養蚕農家が結構多くて、試行錯誤を繰り返して品質向上を達成してきただけではなく、その技術を文章にまとめ、他の農家でも参照できるようにしていた。こんなことが民間で行われているなんて、今の途上国でもなかなか考えられないことだ。

新聞などでの取り上げられ方も、基本は富岡製糸場が中心なので、他の群馬県内3か所の認定世界遺産との扱い方のバランスという意味では、本書の場合も大きな違いはない。ただ、この3か所の意義やその歴史については、本書を読んでもなかなか伝わってこないのだ。例えば、伊勢崎市境島村にある田島弥平旧宅は、その意義については本書でも述べられているが、今どう管理されているのか、誰かが住んでいるのか、境島村ではガイドはいるのか、どうコンタクトすればいいのか等、わからないことが多い。

また、富岡で学んだ製糸工女さんたちがその後国に戻ってどう活躍したのかを、せめて岡谷あたりの話とつなげて書いてほしかったとも思う。じゃないと日本の近代化に果たした蚕糸業の役割を包括的に捉えたことにはなりにくいような気がする。横浜については辛うじて描かれており、幕末近くまで漁村でしかなかった横浜が国際港湾都市としてなぜ発展していったのか、そのきっかけについても知ることはできるが、それ以上のことはない。

蚕種や生糸を輸出できたことが日本の近代化に大きく貢献したわけだが、その中で横浜では何がどう行われていたのかをうかがい知れる文献もないし、横浜のシルク資料館を見学してもやっぱりよくわからない。富岡に行けばすべてがわかるというわけでもないだろうし、これだけいろいろなところに分散していて全てを訪ねるわけにもいかないだろうから、せめて富岡には、富岡や群馬県内の狭い視野での展示に終わることなく、日本の近代化の経験をわかりやすく整理した博物館になっていって欲しいと思う。

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