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『森林異変』 [読書日記]

森林異変-日本の林業に未来はあるか (平凡社新書)

森林異変-日本の林業に未来はあるか (平凡社新書)

  • 作者: 田中 淳夫
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2011/04/16
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
21世紀に入り、日本の森は一大転換期にある。国産材の需要が高まる中、現場には大型機械が導入され、100ヘクタール以上の大規模な伐採も行われている。しかし造林がなされず、荒地となった林地も少なくない。さらに林業従事者の減少と高齢化に歯止めがかからず、これで打ち止めにするための伐採も散見される。国際森林年を契機として、山の人も街の人も、日本の森の未来をじっくりと考えてみよう。
ここ数カ月、仕事上の僕の頭を常に悩ませているのが「持続可能な開発」という言葉である。この言葉にはいろいろな側面がある、環境の保全であったり、環境に過重な負荷をかけない経済成長のことであったり、災害や経済危機が起きてもそれを乗り越えてさらに発展していけるしなやかな強靭性のことであったり、それらを意識づける教育のことであったりもする。そうしたものをひっくるめて、「持続可能な開発」と名の付くものは全部自分に関わってくる状態だから、元々造詣のない僕のような人間にはとてつもなく大きなテーマに思えて仕方がない。

自分の能力などたかが知れており、1人で立ち向かえるテーマだとはとうてい思えない。自分が元々持っていた専門性からみて濃淡があるのは致し方ないにせよ、あまり知らないことであってもそこを補強していく努力は求められているのではないかと思える。

本書を読むことにしたのは、僕があまり日本の森林のことをわかっていないからである。「持続可能な開発」と言われると、僕が真っ先に想像するのは自然環境の保全であるが、中でも森林の保全に関しては、実は僕はわかっているようでわかってないところがかなりあるのではないかと思う。だから、ある本を読めばその論調に引っ張られて本の受け売りでしか物事を語れない。物事には表と裏があるのだという前提で、裏のことまで勝たれずに上っ面だけで物事をしゃべっているようなふわふわしたものを森林に関しては感じてきた。

以前、このブログで藻谷浩介著『里山資本主義』について紹介したことがあった。中国地方で、地元製材所で排出される木材の切屑を使った小規模火力発電によって、エネルギーの外部依存度を下げる取組みを進めている地域があり、さらにはその切屑をペレットに加工して、地域の他の事業所や公共施設、住宅にペレットボイラーを普及させてそこで利用してもらうところまで地方自治体も巻き込んで取組みを発展させているという取組みがあることを知った。こういう地域での資源循環はいわば外部からの資源に頼らない部分最適の考え方なのかと思うが、その一方で、地元製材所もそこでの木材加工の需要がなければいけないわけで、その地域だけでなく、もう少し広いエリアで見た場合に、製材への需要がどれくらいあるのかにも左右されると思う。特に、人口が減少傾向にある日本では、今後木材市場はどんどん縮小していくのではないかと思う。その場合、製材所を含めた日本の林業全体がどうなっていくのか、もう少しマクロ的な視点からも見てみる必要があるのかなと思っていた。

そうしたところに出てきたのが本書。『里山資本主義』よりは売れていないが、読者の間では評価の高い、日本の林業を考える上での入門的書籍だと言われている。僕が本書を知ったのも、新聞の書評を通じてである。

著者によると、現在、日本の森林は壊滅的な状態にあるという。森林保全への意識の高まりから容易に輸入が薦められなくなっている海外材に比べ、国産材需要は2000年代半ば以降急に高まっているが、伐採を手がける業者は効率性重視の観点では大型の重機を山に入れてなるべく労力をかけずに伐採し、しかも重機を遊ばせておかないよう、ある程度の大規模に伐採を行っていく必要があるという。そうしないと採算が取れないのだ。しかも、伐採後の植林と造林には費用もかかるので、伐採業者はそこまではやらないし、山林の地主は都市に住む不在地主であったり、近所に住んでいても高齢化が進んでいて維持管理のために山にも入れず、長期にわたって山林を維持管理していこうというインセンティブ自体がない。結果として、大規模な伐採は行われたままはげ山として放置される。あるいは間伐などの管理が放棄されたために、木が茂りすぎ荒れ放題となる森林も多い。伐採だけでは森は荒れる一方で、最悪の場合は災害にもつながる。

1本の木を出荷するまでには、数十年の歳月がかかるのに、人間は目先の利益を求めるあまり、森を荒らしてしまっているというのだ。読んでいると、日本の森林の未来には暗澹たる思いがしてしまう。日本の森、そして林業界と国産木材業界に今、何が起きているのかを知るには良書だといえる。多分これが現実なのだろう。

最近公開されていた映画で、雰囲気味わってみて下さい。伐採と造林は若い人にとっても大変な仕事で、日本全体が高齢化に向かっていく中では、映画のような部分最適はあったとしても、全体最適の解を見出すことは容易ではないかもしれない。


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