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『黒田官兵衛 作られた軍師像』 [読書日記]

黒田官兵衛 作られた軍師像 (講談社現代新書)

黒田官兵衛 作られた軍師像 (講談社現代新書)

  • 作者: 渡邊 大門
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/09/18
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
類稀なる交渉術を駆使し、中国計略から北条氏討伐の小田原合戦に至るまで豊臣秀吉の天下統一の大事業を扶けた稀代の智将。「備中高松城水攻め」「中国大返し」の真実とは?本当に天下獲りを目指したのか?信頼できる史料のみをもとに、その出自から「名軍師」「二流の人」などに至るまで後世に創作された様々な俗説を徹底検証し、巷間に流布された従来の軍師像を超えて、自らの才覚のみで道を切り開いた新しいタイプの武将として新たな黒田官兵衛像を描く。
NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』も、放映開始から3ヵ月が経過し、いよいよ羽柴秀吉の中国攻めというところまで話が迫ってきた。これからは信長に反旗を翻した荒木村重による官兵衛幽閉という、黒田官兵衛の生涯の中でも序盤のクライマックスに突入していく。官兵衛が織田信長や羽柴秀吉と交流するようになるのが30代のことであり、演じている岡田准一の実年齢と合っているからか、見ていてもとても面白い。久し振りに放映開始からちゃんと見ている大河ドラマである。

以前も述べた通り、NHK大河ドラマは歴史書や歴史小説のマーケティングに一役買っている。主人公の生涯を描いた書籍だけでなく、主人公と同時代を生きたライバルや別の人物の生涯をドラマの主人公と絡めて描いた書籍なども書店で特設コーナーが作られ、平積みされる。そういうのを買った方は大勢いらっしゃるのではないだろうか。

本書もそんな1冊である。黒田官兵衛と息子・長政の生涯をひと通り描き、それにさりげなく著者の主張を絡めて、コンパクトな新書になっている。著者は元々は戦国時代の中国地方の歴史、とりわけ播磨の赤松氏の研究者として知られている。

研究者のモラルが取りざたされている昨今、歴史学の研究でもブラックボックスとなっている出来事とそれに絡んだ人々の思惑といったものを実証するのもかなり難しい。歴史人物の行動や業績、評価等は、多くは後世に書かれた歴史書やその家に代々伝わる文書等の二次資料に基づいているが、これらは編纂者や執筆者の思惑によりかなりデフォルメされて描かれており、ある程度割り引いて読む必要がある。著者はそうしたリスクを十分理解し、真相に迫るために、できる限り同時代に書かれた日記や交わされた手紙などの一次資料に当たるという手法を取っている。研究者としてあるべき姿であり、非常に好感を持ちながら読み進めた。

黒田官兵衛の「軍師」としてのイメージは、その後の黒田家によって作られていったのだという主張は、結局第5章で展開されているだけなのだが、その前の章を読んでいても、官兵衛・長政父子は相当に複雑な動きをして意図を悟られない工夫を凝らしていたようだし、「軍師」とまではいかなくても、戦上手、駆け引き上手であったことは間違いないのではないかと思う。

おそらく最初に仕えた小寺家との関係は、一次資料でもわからないことが多かったようで、そうしたところに解釈を入れてドラマに仕立てていける面白さが小説や映画・ドラマにはあるのだと思う。研究者である著者としては、そうした想像では描けないので、文献から実証できないようなことにはあまり紙面を割いていない。大河ドラマの描かれ方と本書における同時期の官兵衛を巡る出来事とでは、前者の方がずっと詳しく、後者は控えめの記述に留めている。ゆえに若干の物足りなさは感じざるをえなかった。

著者は学者として一次資料の少なさを嘆いておられるが、この時期にこの本を出された出版側の意図からすると、こういう構成であって構わないし、読者からすればもっと知りたいと思うのは第4章までに出てきた父子の動きであった。

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コメント 3

脱包茎した金次郎

軍師軍師官兵衛、これはなかなかに面白いですね。
いよいよ次回は、荒木村重が謀反ということで
官兵衛が幽閉されてしまうのですか
そうだとしたら、とても辛いです。
予告編で
「人間というものは、かくも恐ろしいことを考えるものか」
あの台詞はなんなのですか
暗殺でもするのですか?
歴史的事実からすると、官兵衛は暗殺されていないですよね。
ということは、何か
誰かが暗殺しようとするが、
それを荒木が救うということになるのですか。
荒木村重は、官兵衛を幽閉する憎き奴だとばかり
つい先日までは思っていたのですが、
いやいや
もっと悪い奴が世の中にはいたということでしょうか。

by 脱包茎した金次郎 (2014-05-09 17:10) 

Sanchai

ネタ晴らしをしてしまうと、予告編のそのセリフは、主家の小寺家に向けられたものだと思います。
by Sanchai (2014-05-10 08:56) 

脱包茎した金次郎

すごいですね。
日曜日にあなたの予想が的中していました。
主家の小寺が、黒田を殺せと
これには驚きです。
それに対して、荒木村重という男はやはり普通の人間ということでしょうか。
小寺の発言を、想定外という感じでした。
ただし、黒田官兵衛は想定外だったとしても
ブレることはありませんでしたね。
それだけ非凡ということでしょうか。
by 脱包茎した金次郎 (2014-05-12 17:38) 

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