『約束』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)先々週末、授業がある娘を除いた家族4人で、珍しくファミレスでのランチに出かけた。小4の次男はともかく、高1の長男はこういう形で一緒に行動することが少なくなってきているので、4人で出かけるというのは結構珍しいことだ。そして、こういう場で料理を注文してからの待ち時間をつぶすため、皆が思い思いの私物を持ち込む。僕は新聞、次男はコロコロコミック、妻はファミレスに置いてある週刊誌をラックから持ってくることが多い。以前の長男だったら、ゲーム機を持ってきていたが、この時は鈴木光司の『らせん』の文庫本を持ってきていた。何故だか知らないが、最近ホラー小説をよく読んでいるようだ。学校で図書委員をやっているらしい。
親友を突然うしなった男の子、不登校を続ける少年と廃品回収車の老人、モトクロスの練習に打ち込む少年を遠くから見守る一人の女性、仕事を抱えながら女手ひとつで育てた息子を襲った思いがけない病…。苦しみから立ちあがり、うつむいていた顔をあげて、まっすぐに歩きだす人々の姿を色鮮やかに切りとった、絶対泣ける短篇集。
ホラー小説なんて珍しいものを持ってきていた長男を見て、おのずと本の話題になった。そして、普段小説など全く読まない妻が、石田衣良の『約束』には、近所のダイビングスクールが舞台の1つとして出てくるのだと教えてくれた。ネタの出所は次男の小学校の担任のA先生。国語が専門だそうで、国語の授業では生徒に小説を書かせたりもしているし、教室には「A文庫」という小さな児童書コレクションが置いてある。次男が重松清に関心を持ったのは、A文庫に『くちぶえ番長』が置いてあったからだ。そのA文庫に最近新たに加わったのが、本日紹介する『約束』なのである。
複数の作家によるオムニバス短編集の収録作品を除けば、初めてといってもいい石田衣良作品だったが、期待以上に良かった。「泣かせる作風」といわれる重松清の作品を読んでもほとんど泣くことはない自分であるが、この本に関してはどの作品を読んでいても目頭を熱くなった。中には大人の男と女が肌を合わせるシーンもあったりしてこの本が小4の学級文庫に入っているのはどうかとは思うけれど、中高生以上であれば、一度は読んでみて欲しいと薦める。
近所のダイビングスクールが登場するのは、『青いエグジット』。交通事故で片足を失って引きこもりがひどくなってしまった息子が、スキューバダイビングを始めることで親にも心を開き始めるというお話である。どこまで本当なのかはわからないが、そもそも片足の受講生を受け入れるダイビングスクールが少ないらしく、20件以上探してようやく見つかったのがこのスクールだという設定だ。本当ならこのスクールは大きな宣伝にもなると思う。何せ市長が政府の障害者特別委員会のメンバーである自治体にあるスクールだ。こういうところのバリアフリーには取り組んでいて然るべきだ。(視覚障がい者が入会するのに付添人の入会まで求めるフィットネススタジオも市内には存在するらしいが…。)ことこの作品に関しては、小学四年生に読ませても平気だろう。
収録されている作品は7編―――。
「約束」:親友を突然うしなった男の子のお話
「青いエグジット」:交通事故で片足を失った二十歳過ぎの引きこもりの息子の再起の話
「天国のベル」:夫を失い、仕事を抱えながら女手ひとつで育てた息子を襲った思いがけない病の話
「冬のライダー」:モトクロスの練習に打ち込む少年を遠くから見守る1人の女性の話
「夕日へ続く道」:不登校を続ける少年と、息子との連絡が途絶えがちな廃品回収車の老人の交流の話
「ひとり桜」:独身の中年カメラマンが、故郷の一本桜の前で出会った、夫を病気で亡くした若い女性の話
「ハートストーン」:息子と父親が同時に病の床に臥すという逆境に立ち向かう女性の話
どれも「喪失からの再起」というのがキーワードになっているような気がする。
石田衣良、もっと読んでみようと思う。
数年前に、石田さんの「sex」という作品を読んだことがあります。
割と身近にいると思われる、完璧ではない人たちが、
ひたむきに生きている様子が伝わってきて、感情移入しやすいですね。
by うしこ (2014-03-15 07:15)