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『雄気堂々』(上・下) [読書日記]

雄気堂々〈上〉 (新潮文庫)

雄気堂々〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: 城山 三郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1976/06/01
  • メディア: 文庫
雄気堂々 (下) (新潮文庫)

雄気堂々 (下) (新潮文庫)

  • 作者: 城山 三郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1976/06/01
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
《上巻》近代日本最大の経済人渋沢栄一のダイナミックな人間形成の劇を、幕末維新の激動の中に描く雄大な伝記文学。武州血洗島の一農夫に生れた栄一は、尊王攘夷の運動に身を投じて異人居留地の横浜焼打ちを企てるが、中止に終った後、思いがけない機縁から、打倒の相手であった一橋家につかえ、一橋慶喜の弟の随員としてフランスに行き、その地で大政奉還を迎えることになる。
《下巻》フランスから帰国した栄一は、明治新政府の招きで大蔵省に入り、国づくりの熱っぽい雰囲気の中で活躍するが、やがて藩閥の対立から野に下り、かねてからの夢であった合体組織(株式会社)を日本に根づかせるべく歩みはじめる…。一農夫の出身であり、いずれの藩閥にも属さなかったにもかかわらず、いかにして維新の元勲と肩をならべる最高指導者となっていったかをたどる。

この本、初版は1976年に書かれているんですね。渋沢栄一の伝記や功績は別の形で読んだことが何度かあるが、小説というのは初めて。武州・血洗島時代の渋沢の生活が、多分相当部分がフィクションだろうが、描かれていてよかった。百姓農家の生まれだが、幕末の尊王攘夷の空気は当時の日本の農村部にもかなり浸透していたようで、自分たちにも何かできるのではないか、何をすべきかを、農作業を終えた夜の集まりで話し合っている若者が結構いたようだ。そして、たくさん子供がいた世帯では、長男が家を守りつつも兄弟の誰かに資金を投入して広い世界を渡り歩かせるという習慣があったらしい。(宮本常一の本でも出てきた「世間師」とよく似ている気がする。「世間師」は西日本に見られたようだが、それに近いものが幕末の関八州でも見られたということだろうか。)

よく、渋沢栄一は若い頃蚕種を売り歩いていたと言われるが、そのあたりの描写はあまりない。千代との婚礼のシーンから物語は始まっているので、それよりも若かった頃はそういうこともやっていたのかもしれない。それと、村でのハンセン病患者の扱われ方も描かれている。多分日常的にあり得た話なのだろうと思うが、本当に渋沢の母親が本書の描かれているような開明的な人だったのかどうかはわからないが(多分フィクションだろう)、この話がその後の渋沢の人格形成にどのような影響を与えたのかはまったくわからず、そもそも描く必要があったのかどうかがよくわからない。

以上が上巻を読んでの感想である。

続いて下巻を紹介すると、見方によっては紛争終結後の復興期における政府のあり方とその中での民間セクターの育成という、今の途上国にも通じる示唆が、日本の明治初期にはあったというのが非常によくわかった。明治政府で起きたことは、今の途上国とよく似ていると思う。何もないところから国の骨格を作っていく作業は、今世紀に入ってからアフガニスタンや南スーダンで試みられてきたが、それに近いことを明治政府はやっており、渋沢は大蔵省の主税官として、まさに政府の中核に身を置いてそのプロセスに関わっている。

そこで、江藤新平や大久保利通、大隈重信らとの衝突に嫌気して、結局10年ほどの宮仕えの後退官してしまう。政府の中での主導権争いというのも、何となく今の途上国では普通に見られるような気がする。そして、退官した渋沢は、肝いりで設立された第一国立銀行に移籍して産業育成に尽力していく。紛争終結後の復興過程で、民間セクター育成に力を注いだ渋沢のような人が今の途上国に現れるのかどうかもミソだろう。今の途上国にどれくらい株式会社組織が育ってるのかどうかわからないが、民間の企業家がどんどん育っていくような環境作りが必要なのではないかというのは、日本の経験からも言えることではないだろうか。

蚕種や生糸の輸出に絡む事件は昔調べたことがあり、復習になった。この週末、横浜にあるシルク博物館で開催されるイベントに行くことを計画しているが、偶然ながらその予習になる本だった。

妻・千代が亡くなったところで物語は終わる。結局のところ、妻との婚礼から死別までが描かれていたわけだが、後半かなり端折ったという印象だ。伝記としてはかなり詳述されているが、小説としてはベタですね。

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