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『関わりあう職場のマネジメント』 [仕事の小ネタ]

2週連続で東京都内も大雪の影響を受けた。僕はたまたま14日(金)に有給休暇を取ってやりたいことがあったのだが、金曜朝から降り出した雪のせいでやろうと思っていたこともできず、翌15日(土)も午前いっぱいかかった自宅周辺の雪かきで腰がパンパンになってしまい、交通機関もマヒしていたので、この日午後に予定していた行事への出席も見合わせることになった。腰が痛いから床暖をつけたリビングの床に仰向けになって腰を伸ばし、夕方にも車を車庫から表通りに出せるようにと雪かき第二弾をやった。

こんな状態だったので、結局のところ当初計画していたことはほとんど手につかず、まあ空いている時間を使えばそれでもそこそこ進められるだろうと思っていた読書も、思ったほど進んでいないのが現状です。本日ご紹介の本も、できれば14日中に読み終わって土日は別の調べ物に移りたかったのだけれど、それもうまくいかず、結局読み切るのに土曜日いっぱいを費やす結果になった。

ということで、本日ご紹介の1冊は、昨年、日経経済図書・文化賞を受賞した経営学の本である。

関わりあう職場のマネジメント

関わりあう職場のマネジメント

  • 作者: 鈴木 竜太
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2013/02/22
  • メディア: 単行本
内容紹介
「人々が関わりあいながら仕事を進めることが多い職場は, お互いに助けあうこと,組織のルールややるべきことをきっちりこなすこと, 自律的に創意工夫すること,の促進につながる。」 ―――この「関わりあう職場」を創り上げることで, 職場や現場が,そして組織が強くなる。 そのためのマネジメントの視点を提言する。 職場や組織のマネジメントを考えるすべての人に贈る,必読の書!

ひとことで言ってしまえば、「内容紹介」の中で書かれているカッコ書きが全てである。著者はヤマノイ酢という会社で社員個々人に行なったインタビューの中からこの作業仮説を導き出し、これを複数の他社でのアンケート調査で得たデータにより実証しているのである。個人(ミクロ)と組織(マクロ)の間に「職場」というメゾレベルを設け、このレベルでの構成員同士の関わり合いが多い職場では、構成員個々人は他の構成員を自然と「支援」するようになるし、加えて自分自身の仕事もきっちりと「勤勉」にこなすし、さらには自分自身で創意工夫をこらしていくようにもなるというのだ。こうした著者の主張は、普段職場レベルで働いている僕達からすれば納得感があるものだ。

経営学系の模範的博士論文を読んでいるような印象だった。大方の読者は第5章から第7章を飛ばして読まれるだろうが、経営学系の論文ってこうやって書くんだという意味では非常に参考になる1冊である。ただ、会社組織レベルではなく職場のようなメゾレベルでの構成員間の関わり合いをもっと増やせという示唆はわかりやすいけれど、具体的にそれをどうやったらいいのかという、実践的な示唆を与えてくれる本ではない。

野中郁次郎先生や伊丹敬之先生が学習する組織における「場」の重要性を主張しておられるのと比べると、実践的なレベルでのノウハウに関する示唆は弱いような印象を受ける。例えば、オフィスが幾つかの「島」から構成されるようなレイアウトと、個室やパーティションによる半個室から形成されるレイアウトとで、どちらの方が「支援」「勤勉」「創意工夫」を引き出すのに有効なのか、といった疑問に対する回答は、本書は用意してくれていない。

単純に考えれば、個室中心の欧米のような職場のレイアウトだと、そういうものが生まれにくいと予想される。他の人が何をやっているかが見えないから、助け合いなど起こりにくいし、自分が何をやっているのか他から見にくいレイアウトになっていれば、地道に仕事に専念するような勤勉さを持続することも難しそうだ。でも、欧米人の方がいろいろ斬新なアイデアを仕事に持ち込んで、自分がいかに有能であるかをアピールしそうだ。著者は、「関わり合い」をオフィスの中で起きるものとして捉えているようだが、欧米の組織では、そうした「関わり合い」はオフィス空間の中ではなく、プチカフェのような息抜き空間やランチタイムのような場も合わせて、トータルで捉えなければ理解しにくいのかもしれない。

また、同じ日本企業の中でも、「関わり合い」の多い職場とそうでない職場との違いって何なんだろうかというのも、本書を読んでいてもよく見えてこなかった。率先してそういうものを進めるリーダーがいれば関わり合いというのは人為的にでも生まれてくるものなのか、それとも仕事の性格によって規定されてしまうのか、会社組織自体の大きさによっても違いがあるのか、あるいは売上高と社員数のバランスによってはどうなのか。特に、社員が単一のスケールに則って待遇が決められている会社の職場と、正社員と非正規社員、派遣社員、嘱託社員、アルバイト等の多様な形態で採用されている人々から構成される職場とでは、たとえ同じような性格の仕事であっても「関わり合い」の生まれ方はかなり違っているのではないかと想像する。

さらに、自分も経験があるが、職場の仕事の絶対量が多すぎると、助け合うような余裕はだんだん失くしていってしまうような気がする。著者は構成員間の関わり合いの多い職場では「支援」も「勤勉」も「創意工夫」も生まれやすいというが、それによって労働時間はどう影響受けているのかには言及していない。他人を助けることによって自分の時間を取られてしまい、結局自分の労働時間も長くなってしまうという可能性だって否定はできない。

ただ、著者は「関わり合い」の多さが度を過ぎると、逆に弊害も生じることは認めてはいる。自分が何もやらなければ他人が助けてくれると思っている不届き者が出てくる可能性は当然ある。でも、だからといって具体的にそれをどう制御するかまでは書かれていない。

僕は昔、職場にいた「タダ乗り」野郎をどうすることもできなかったり、逆に助け合ったことで自分の残業時間が長くなって体のリズムを崩したりといった苦い経験をした。そういうものに対して、本書は解答らしきものを与えてくれたわけではない。あくまでも、「研究とはこうやってするものだ」という模範解答を示してくれている専門書なのだと思って割り切って読んでみていただきたい。

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