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『戦後史の正体』 [仕事の小ネタ]

ケリー米国務長官が韓国を訪問し、朴槿恵大統領、尹炳世外相と会談。会談後の記者会見でケリー長官は、4月末のオバマ米大統領のアジア歴訪に向け日韓が歴史問題を克服し関係改善するよう韓国に促したことを明らかにしたとのこと。また、北朝鮮の挑発を抑止するため「日米韓3カ国の緊密な協力が重要だ」と述べたという。「日韓が過去にとらわれず前に進むことが米国の国益にもかなう」とも。

これに対し、尹外相は、日韓関係改善には日本の努力が必要との考えを示すとともに、先月のハノイでの日朝接触の動きについても「(米韓への)事前協議なしに行われていたとすれば好ましくない」と発言、日朝の動きに警戒感を示したという。

また、先に発表されているオバマ大統領の4月の訪日時に、日本滞在日程を1日短縮して訪韓することも発表された。韓国内には、オバマ大統領がこのタイミングで韓国を訪問しなければ、歴史認識問題で「米国は韓国より日本を支持している」と映るとの懸念があったのだそうだ。

そういうタイミングで、またぞろ孫崎享氏の著書を読んでいたわけです。

僕が自民党・安倍政権を支持しているか支持していないかという立場はこの場では明確にはしないけれど、昨年末の安倍首相の靖国神社参拝以降、米国から発せられている様々なメッセージは、日本側が国家安全保障戦略等で「日米同盟」を強調している割には、米国側はそれに懐疑的なのではないかと思う。FRBイエレン新議長の発言からはじまった株安と円高、TPP交渉での米側の強硬姿勢、そしてオバマ訪韓の決まり方と、いずれも「安倍さん、いい加減にしろ」というメッセージであるように読めないこともない。

安定政権だと見られている安倍政権も、米国がその気になったらひっくり返されるのではないかと思ってしまう。以前ご紹介した孫崎さんの著書への感想でも書いた通り、安倍首相の退陣の仕方には注目している。

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)

  • 作者: 孫崎 享
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2012/07/24
  • メディア: 単行本
内容紹介
日本の戦後史は、アメリカからの圧力を前提に考察しなければ、その本質が見えてこない。元外務省・国際情報局長という日本のインテリジェンス(諜報)部門のトップで、「日本の外務省が生んだ唯一の国家戦略家」と呼ばれる著者が、これまでのタブーを破り、日米関係と戦後70年の真実について語る。

孫崎さんの著書は、今月に入って2冊目になるので、繰り返しになる部分もあるけれども敢えて論点を紹介しておくと、日本の歴代の政権は、対米自主派と米国追従派の2派にきれいに色分けされること、対米自主派の政治家がその主張を具体的な行動に移そうとすると、米国が自国の国益にのっとり様々なチャンネルを通じて圧力をかけること、米国の逆鱗に触れる大きな政策イシューは「在日米軍基地問題」と「中国との関係改善」であること、などが述べられている。

これを、終戦直後の鈴木貫太郎政権から鳩山由紀夫首相に至るまでの歴代政権の誕生の仕方と首相退陣の仕方を振り返りながら検証している。終戦直後から1970年代ぐらいまでは対米自主派の首相が結構いたようだが、それ以降は米国追従派の政権の方が長く続いている印象で、そのために田中角栄さんあたりまでは結構詳述されているが、宇野宗助さん、海部俊樹さん、細川護煕さん、羽田孜さんあたりからは首相経験者に対する言及が殆どない。

著者が強調しているのは、米国が日本の国益を考えてくれているわけではないということで、米国の対日政策は、あくまで米国の国益のためにあり、それが日本の国益と常に一致しているわけではない。従って、米国追従派であっても、潮目を見誤ると痛い目に遭っている。

米国の対日政策は、米国側の事情で大きく変わる。戦後のGHQの日本占領政策は、日本が再び強国にならないよう徹底的に痛めつける方針が当初は取られていたが、ソ連との冷戦が本格化すると、逆に日本を極東の防衛ラインとして経済強化を図る方向に180度転換した。また、1990年以降のソ連崩壊により米国の国家安全保障上の最大の脅威がクリアになった後、米国が最大の脅威とみなしたのが実は経済大国化した日本だったため、それ以降は日本の国力を抑え込む方向での様々な要求を日本に対して行なうようになってきているという。冷戦期であれば、とにかく米国の言うことを聞いていれば大丈夫だということがあったが、そのような時代は既に20年前に終わっており、今は日本の国益を真剣に考え、譲れないところはちゃんと主張し、米国の理解を得ることが必要なのだと著者は主張する。

ここで述べた「在日米軍基地問題」と「中国との関係改善」という2つのタブーを鑑みると、安倍首相の政策は米国にとってはまあまあの及第点だということになるのかもしれないが、日中関係については米国の想定以上に悪化させ過ぎているし、本書では日韓関係についてはあまり重視して書かれていないのでよくわからないが、おそらく米国側の想定以上に悪化させているところがあるのは否めないだろう。

残念ながら、孫崎さんの著書を続けざまに読むと、同じことが書かれている印象。ただ、どちらの方が包括的かつ「一家に一冊」的な蔵書として価値が高いかといえば、明らかに本書の方であろう。こちらの方を先に読むべきだったと後悔している。米国追従派の首相が何人もいて、しかもその時々の国内情勢もあって短命に終わる政権が続いた後半部分をかなり端折っている気はしたが、逆に僕も生まれていないか小さくて記憶も乏しい終戦直後から60年安保、沖縄返還、田中角栄とロッキード事件あたりまでの話は本書で詳述されており、非常に勉強になった。

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