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『世界を変えるデザイン』 [仕事の小ネタ]

世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある

世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある

  • 作者: シンシア スミス
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2009/10/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
本当に必要とされる仕事がしたい。利用者の喜ぶ顔が見たい。夢を追うデザイナーや建築家、エンジニアや起業家たちの、アイデアと良心から生まれたデザイン・イノベーション実例集。
原書『Design for the Other 90%(残りの90%のためのデザイン)』で刊行されたのは2007年、もうかれこれ10年近くも前だから、本の中で紹介されている事例はちょっと古くなってきているのではないかと思われる。最近、「ソーシャル・デザイン」という言葉がよく使われるようになり、社会を良くする、問題解決を図るのにデザインが果たす役割が注目されている。そのきっかけになったような本なのだろう。

ピラミッドの最下層に位置する貧困層を対象にビジネス的アプローチで問題解決を図ろうとするBOPビジネスが注目されはじめたのは2004年頃だったと記憶しているが、そうしたビジネスの事例を見ていると、そのビジネスモデルを最初に考えた人の構想力と、コストダウンに向けたあくなき挑戦スピリットに感銘するところが大きかった。そういう構想を考えられる人が企業の中にいればいいが、そうでない場合も多い。そこでさらに注目されるのがコーディネーターで、受益者やユーザーとなるグループの問題意識やニーズを吸い上げてうまくまとめあげ、逆に供給サイドの大勢のアクターとのネットワークを活用してソリューションを組み立てていく。そうしたコーディネーションと豊かな構想力、デザイン力といったものが多分問われるんだろうなと思う。

これをデザイナーの視点から述べると、世界のデザイナーの95%は、世界の10%を占めるに過ぎない、最も豊かな顧客向けの製品とサービスの開発に全力を注いできた。ところが、これでは世界の大多数の人々に大きなインパクトを与える仕事とはならない。BOPビジネスの発想と同様、デザイナーの世界においても、貧困層の顧客向けのデザインという大きな活躍の場が開けているのにそれに取り組まないのでは、デザイン業界は社会的責任を果たしているとは言い難い。だから、「残りの90%のためのデザイン」なのだとか。

有名な事例もいっぱい出てくる。元々僕の興味はインドで行なわれている事例なのだが、実は本書ではインド色はさほど強いわけではない。取り上げられているのも、ジャイプール・フット(義足)、IDE
(点滴灌漑システム)、SELCO(ソーラー発電システム)くらいで、しかも有名な事例ばかりだ。SELCOのハリッシュ・ハンデCEOなど、多分本書で紹介されたことも影響したのか、2007年12月にインドで「Social Entrepreneur of the Year(年間最優秀社会企業家賞)」を受賞し、その後昨年日本でも発刊された『Jugaad Innovation』(邦題『イノベーションは新興国に学べ』)の中でも詳しく紹介されている。

表紙に100ドルラップトップを持ってきている時点で、ちょっと古さは感じる。100ドルラップトップは2004年頃から既に話題にはなっていたが、結局2007年の本書発刊時点でも、ラップトップを100ドルにまでコストダウンさせるだけの需要の確保ができておらず、構想進行中の状態に過ぎなかったようだ。ただ、その開発までのストーリーが紹介されているという点では有用な本であることには疑いはない。

それにしても、別にインドには限らないが、本書で取り上げられるようなこういう途上国での取り組みの数々が、日本の援助機関やNGOの活動となかなか繋がって来ないのは悲しい気がする。例えば、SELCOの事業エリアは南インドのカルナタカ州で、僕はこの州の南部で活動していた日本のNGOやODA事業を幾つか知っているが、2010年時点でこれを導入していたところはなかった。ソーラーシステムが安いというのであれば実際に事業地で使ってみて、その使い勝手を確認してみるとか、やってみたらいいのにと思ってしまった。

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