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『謎の独立国家ソマリランド』 [読書日記]

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

  • 作者: 高野 秀行
  • 出版社/メーカー: 本の雑誌社
  • 発売日: 2013/02/19
  • メディア: 単行本
内容紹介
第35回(2013年)講談社ノンフィクション賞受賞!
BOOK OF THE YEAR2013 今年最高の本 第1位(dacapo)
本屋さん大賞ノンフィクション部門 第1位(週刊文春)
西欧民主主義敗れたり! ! 著者渾身の歴史的<刮目>大作 終わりなき内戦が続き、無数の武装勢力や海賊が跋扈する「崩壊国家」ソマリア。その中に、独自に武装解除し十数年も平和に暮らしている独立国があるという。果たしてそんな国が存在しえるのか? 事実を確かめるため、著者は誰も試みたことのない方法で世界一危険なエリアに飛び込んだ──。世界をゆるがす、衝撃のルポルタージュ、ここに登場!
半年以上待ったあげく、ようやく市内の図書館で借りることができた。借出期間は2週間、後ろが順番待ちの別の利用者でつかえているため、借出期間延長は認められていない。この期間、仕事の方で大変に忙しかったので、読書に充てられたのはわずかな時間でしかなかったが、500頁にもわたる大部なルポ、5日がかりでなんとか読み切った。

ソマリランドについては以前読んだ松本仁一著『カラシニコフ』でも少し書かれていた。ソマリアといったら1990年代前半、米国クリントン大統領がテロリスト撲滅のために米軍を侵攻させたが逆に現地の民兵組織に返り討ちに遭い、派遣された兵士が殺害された上に悲惨な仕打ちにも遭ったため、米国にとってもトラウマにもなったいわくつきの紛争国家だが、そんな中でソマリア中央政府に逆らって独立を宣言し、市中で機関銃を携帯した兵士などほとんど見かけることもない、平和な国づくりを果たしたソマリランドに、松本氏は一縷の希望を見出したと述べておられたと記憶している。民族や宗派の違いで国内紛争がやたらと頻発するアフリカで、ソマリランドのケースは非常に珍しい。それがどうやって実現していったのかを見ることは、他のアフリカ諸国の平和構築のあり方にも1つのグッドプラクティスを提供してくれるものだろう。


また、ソマリアといえば「アフリカの角」と呼ばれていて、アラビア海から紅海に入る入口にあたるアデン湾を挟み、対岸のイエメンと対峙している国だが、日本にとってはアデン湾に出没する海賊問題で悪名が高い。ソマリアの海賊の拠点となっているのがプントランドで、独立を宣言しているソマリランドとは違い、プントランドはソマリアという国の枠組みの中での自治国という道を取ろうとしている。このプントランド政府の収入源がすごい。著者によれば、自国を拠点とする海賊が拉致した外国人について、海賊が外国政府と行なう身代金交渉を途中から仲介し、海賊がせしめた身代金から手数料を受け取っているのだという。身代金仲介料が貴重な外貨収入源というのは驚きだ。ただ、海賊グループに言わせると、国際社会で問題となっているような大規模な海賊活動はその拠点が対岸のイエメンにあるのだとか。


もう1つ、ソマリアに関する予備知識としては、ソマリアの携帯電話がアフリカ一つながりやすいというのもエコノミスト誌の記事で知っていた。ソマリアでは政府は全くあてにならないが、各氏族(部族というよりも、源氏や平氏といった氏族でかたまっているという状態なのだとか)が、自身のエスニックグループ内での連絡手段を確保しておくために通信会社の運営だけはしっかりやらせているかららしい。また、ことソマリランドに関して言えば、外貨を獲得する貴重な手段が海外で生活しているソマリ人の同族からの外国送金であるため、海外同胞との連絡がちゃんととれる手段を確保しておく必要があるらしい。

ソマリアに関する僕の予備知識といったらその程度でしかないが、なにせ危ない国だということで、日本でもフィールド調査に出かけられるようなアフリカ研究者というのは少なく、文献が少ない。ましてや、噂のソマリランドになるともっと少なく、『カラシニコフ』ぐらいしかないというのが現状だ。そんなところに登場したのが辺境探検家の高野秀行氏。ソマリランドがどんな国なのかを知りたくて、先ずはソマリランドに出かけた。

誰も武器を持たずにいられ、争いのない「ラピュタ」のようなところを想像していた高野さん、行ってみたらとんでもなかった。確かに武器も持たずにいられて安全は安全だが、喋りも行動も超速のソマリ人に最初は圧倒される。元々ソマリランドも氏族間の争いがあったところらしいが、氏族の長老が話し合いでルールを決め、問題解決が図られてきたらしい。

では同じソマリ人の国なのに、プントランドや首都モガディシオはどうなのか。結局高野さんはソマリランド探検だけでは満足せず、ソマリランドを客観的に見るために、二度目の旅でプントランド、モガディシオ入りする。いずれも危ない旅であったことは間違いないが、そこで見えてきたことは…。




ソマリアといえば飢餓というイメージが強い。やたら痩せこけていておなかだけがぷっくり膨れた子供や、食べ物が少なく、武装集団からも追いまくられて、明日への希望も見いだせずに無表情でいる女性の写真などがすぐに連想される。実際に、飢餓にさいなまれている人々はいることはいるのだろう。ところが、高野さんが訪ねたケニアのソマリア難民キャンプや、モガディシオのアル・シャバーブ支配地域の人々は、そんなに痩せ細った子供もおらず、女性はカメラの前で普通に笑っていたという。難民キャンプの人々も、植えているというよりも、外国に住む同族からの送金で、それなりに暮らしていけるような状況だったらしい。

そういうのを聞くと、僕らの頭の中に刷り込まれた飢えた子供を抱えた女性のイメージって、意外と国連機関や国際NGOが寄付金を募るためにあえてプロパガンダとして使っている写真や映像によるものであるのかもしれない。実際に高野さんはそうした指摘をして、現場で見て聞いて確かめることの重要性を説いている。

ソマリア・ソマリランドについて1冊まるまる書かれた本を読むのは初めてで、なぜそうなのかの著者なりの分析が非常に勉強になった。特に、「部族」とか「民族」といった言葉で表現されやすいアフリカの民族問題を、「氏族」という言葉で置き換え、ちょうど日本で見る源平の争いや鎌倉幕府の将軍家を取り巻く執権や御家人の家系、戦国時代の武将の家などに例えてソマリ人の氏族の勢力争いを描いた手法は、僕ら素人には非常にわかりやすい説明になっている気がする。

著者独特の語り口のために、これを専門書とは呼ぶことはできないけれど、相当な情報が詰まっている。

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