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『3Dプリンターで世界はどう変わるのか』 [仕事の小ネタ]


今年の年明け、火星への片道旅行の候補者絞り込みの話が話題になった。2024年から衛星打ち上げ開始予定とのことだが、何もないところでスペースコロニーを形成するんだから、コロニー建設のための建材をどうやって調達するのか、疑問に思った人も多いのではないだろうか。地球から全部持っていけるのならそれに越したことはないが、地球上での重力を考えたら建材を搭載したロケット打ち上げには相当なコストがかかりそうだし、それに使用する燃料も馬鹿にならないだろう。

打ち上げのコストをできるだけ抑制しようと思ったら、地球から持っていく建材の点数はなるべく少なく抑え、火星上で現地調達できるものは火星で加工するなりして建設に用いるのが理想的だろう。今から10年もすれば、そういった技術もかなり確立されていくのではないだろうか。今脚光を浴びている3Dプリンターの性能がもっともっと上がり、使用できる材料がもっとバラエティに富むものになれば、月や火星で材料を現地調達し、その材料を加工して建材にし、組み立てるという一連の流れを全て月面や火星上で完結する仕組みが出来上がる。夢のような話だ。

そこで、本日ご紹介するのは、3Dプリンターの可能性に関する入門編的書籍である。

3Dプリンターで世界はどう変わるのか (宝島社新書)

3Dプリンターで世界はどう変わるのか (宝島社新書)

  • 作者: 水野 操
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2013/10/10
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
いまや連日メディアで報道される注目の技術・3Dプリンター。数千万円もの企業用から、10万円台のモデルも出現、個人にまで普及をみせ始めている。患者それぞれに合わせた臓器すら出力可能になると予測され、世間では「魔法の箱」とまで謳われるようになった。しかし、その「魔法」のカラクリと実態を理解する者はあまり多くないのではないだろうか。本書では、3Dプリンターの仕組みはもちろん、これまでの進化のプロセスや、現状のメリット・デメリット、今後可能になるかもしれない技術までをわかりやすく解説。世界が注目する技術の「過去」「現在」「未来」のすべてをひもとく一冊である。
3Dプリンターで何ができるか、その可能性と目下の限界、課題など、いくつかの論点を整理されているコンパクトな1冊である。3Dプリンターなら何でもできるという万能説をとらず、安いプリンターが登場しているからといって安易に買わないように戒めているところには、その道の専門家としての良心も感じる。編集側の作業が芳しくなかったのか、全体的に誤植が目立つが、それを割り引いても読んでみる価値はある本だと僕は思う。

幾つか印象に残る記述をここに列挙しておこう。

3Dプリンターを積極的に使っていこうと考えるのであれば、単純にフリーの3Dデータをダウンロードして出力してみるのも良いですが、まずは3Dデータに対するリテラシーを身につけることが、活用の早道です。(p.132)

3Dプリンターで造形する場合には、3Dプリンターが偉いのではなくて、3Dデータが偉いのです。(p.131)

3Dプリンターでものを作るためには、何でも良いのですが、作るためのモチベーションが実は必要なのです。また、日頃から何かを作っているのか、ということも重要なポイントです。(p.144)
安易に3Dプリンターに飛びつくなと言っている。購入する以前にそれを使って自分が何をやりたいのかを考えておかないと、年1回年賀状印刷のために「プリントごっこ」を購入し、その後宝の持ち腐れになってしまうような事態に陥るのだろう。冷静な目が必要だ。著者も、3Dデータを用いたモデリングのスキルを身に付けよと主張している。

次のポイントは、繰り返しになるが使える素材の問題だ。

3Dプリンターを使用するための材料が限られているところにもってきて、さらに使用する機会に応じて用いる材料に縛りがあるのが現状です。(p.136)

現時点では、3Dプリンターを利用するユーザーが使用する材料の量は、ほかの加工方法で使用する材料の量と比較するとかなり少ないため、特に大手素材メーカーが参入するには市場が小さすぎるのです。(p.186)
積層方式で使える素材が限定的だというのも現時点での制約だと思われる。よく言われる例えが、『スタートレック』シリーズで出てくる、コーヒーや食べ物をその場で作り出してしまう装置なのだが、実際のところ、積層方式で使われる素材は今のところ2種類しかないらしい。1つ目の論点とも絡むが、3Dプリンターでできるモノの幅は広く、ユーザーの希望に応じていろいろなものが製作可能だが、そのひとつひとつが個々の小さなニーズに応えるもので、大口の需要が確保できるようなものではない。大量生産は難しいから、新たな素材の利活用の可能性をもっと掘り下げていこうという素材メーカーのインセンティブはなかなか働かないということなのだろう。

だからといって、その将来性に疑問を呈するつもりはない。ペットボトルとか、砂漠の砂とかが素材として使えるようになったら(砂漠の砂については、既にそうした実験は行なわれている)、すごいことになるだろうなと個人的には思う。

この年末年始、3Dプリンターを実際に持っている弟とその可能性について話をした時、「まだまだ」と言っていたのが印象的だった。それを理解するために読んでみることにしたもので、弟の言っていた論点は非常によくわかった。ただ、その将来性には目を見張るものがあり、せめて工学系を目指しているうちの長男には3Dデータへのリテラシーは十分に持って欲しいと感じる。

本書でも紹介されている渋谷のFabCafe、一度見学に連れて行ってやりたいなと思った。
http://tokyo.fabcafe.com/
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