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『集合知とは何か』 [読書日記]

集合知とは何か - ネット時代の「知」のゆくえ (中公新書)

集合知とは何か - ネット時代の「知」のゆくえ (中公新書)

  • 作者: 西垣 通
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2013/02/22
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
インターネットの普及以来、アカデミズムの中核を成してきた専門知が凋落する中で、集合知が注目を集めている。このネット上に出現した多数のアマチュアによる知の集積は、いかなる可能性をもち、社会をどのように変えようとしているのか。基礎情報学を中軸に据え、哲学からサイバネティクス、脳科学まで脱領域的に横断しつつ、21世紀の知のあり方を問い、情報社会の近未来をダイナミックに展望する。
随分前に『「みんなの意見」は案外正しい』という本を読もうとして、挫折したことがある。「集合知」という言葉を聞くと、この本を思い出す。そして、実際に本書の中でも、この本のことはわりと詳しく引用されている。

今の世の中、政府お抱えの有識者の先生方が専門的見地からおっしゃっていることが本当に正しいのかどうか、懐疑的な見方がされることも多い。特に。3.11東日本震災と福島原発の事故の際、専門家が大丈夫だと言っていた防波堤を乗り越えて津波は襲ってきたし、放射線量と健康被害との関係も、結局安全なのか安全でないのかが曖昧な言い方をして、かえって混乱を招いたのも専門家のご意見のお陰であった。本当のところ何が正しいのかは僕たちひとりひとりが調べて判断を下さねばならない。そして、そのための情報収集を、インターネットは容易にしている。

ネット上で展開されるアマチュアの知識や情報は、結局足し合わせてみると真実にかなり近い―――『「みんなの意見」は案外正しい』では、そのような意見が展開されていたらしい。

さて、本日ご紹介する本の著者も、「いわゆる専門家が権威をもってつくりあげる専門知を、一般の人々が有り難がって無批判に信じられた時代は、もはや終わりつつある」(p.191)と述べている。

 福島第一原発事故が1つのきっかけとなり、関連専門家の事故発生直後の言動が、専門知への不信感を倍増させたことはくり返すまでもない。この罪はたいへん重いのである。だが、それ以前に、学問研究への無制限な市場原理の導入と過度の専門分化によって、研究者の視野が恐ろしくせまくなり、短期的成果にとらわれるという傾向が一般的につよまっていた。これはいわば、伝統的な研究教育の場における制度疲労に他ならない。
 その一方で、新たな知のかたちも芽ばえつつある。高等教育が普及し、ウェブ2.0が導入されて以来、ネットを通じて誰でも自分の主張を公表し、自由に意見を交換できるようになってきた。今後、縦割りの専門知とはちがったかたちで、非専門家を含む一般の人々による、横断的な知の形成の場が徐々にひらけていくことは間違いない。ソーシャルメディアの急速な発展とともに、エリートによる知の独占はますます困難になっていくだろう。(p.191-192)

ただ、著者はそこからネット集合知の万能性に対して疑問も呈している。正解がなく、人々の意見や価値観が対立している問題については、拙速に集合に集合知を採用するのは禁物だとして、ネット投票を利用して直接民主主義的な決定を下してもそれが人々を真に満足させる保証はないとしている。ネット集合知は万能の知ではない。その前提条件を吟味して、上手な活用法を模索していかなくてはならないと結論する。

ただ、そこから先の著者の議論は、難解すぎて僕には理解できなかった。

結局のところ、第1章と第6章を読んでおけば、著者が何を言いたかったのかはある程度はわかると思う。本書を読むにあたって期待していたものと中身はかなり違っていたが、第5章にあった日立の「ビジネス顕微鏡」研究は、他書でも紹介されていたので、社会組織のコミュニケーションの実態把握の取組みとしては結構注目されているものなのだなというのがわかった。

たとえば企業組織におけるコミュニケーションの実態は、その構成メンバーにさえ、なかなかわかりにくいものだ。社会集団のダイナミックスは、表層の論理的・形式的な情報交信だけに着目していてもとらえられない。人間の生命的な認知活動の特色に根ざし、その半ば閉じた観察記述能力を拡大し、強化するようなITの活用法が望まれるのである。(p.210)

兎にも角にも読み終わってホッとした。機会があれば、下の本も読んでみようかな。まあ、新年仕事始めから残業続きで、休日でも読んでいるのが仕事関係の文献資料ばかりという状況では、いつ読めるのかはわからないが(苦笑)


「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)

「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)

  • 作者: ジェームズ・スロウィッキー
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/11/25
  • メディア: 文庫



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