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『MAKERS(メイカーズ)』 [仕事の小ネタ]

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

  • 作者: クリス・アンダーソン
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2012/10/23
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
『ワイアード』US版編集長で世界的ベストセラー『フリー』『ロングテール』の著者クリス・アンダーソンが、新産業革命の最前線へと読者を誘う。今日の起業家は、オープンソースのデザインと3Dプリンタを使って製造業をデスクトップ上で展開している。カスタム製造とDIYによる製品デザインや開発を武器に、ガレージでもの作りに励む何百万人という「メイカーズ」世代が、製造業の復活を後押しする。ウェブのイノベーション・モデルをリアルなもの作りに持ち込むことで、グローバル経済の次の大きな波を起こすのだ。世界規模で進行する「メイカームーブメント」を決定づける一冊。
残念ながら、僕は本書の紹介等で触れられているほどこの著者のことはよく知らず、その著書を過去に読んだことはないのだが、本書に限っても充分面白さはわかる、お薦めの1冊である。世界のもの作りの潮流を読みやすい描き方で書いている。

訳者が巻末解説で述べているように、ほんのひと昔前まで、コンピューターやプリンターは産業機械と見なされ、デスクトップとは対極にあった。デスクトップとコンピューターが結び付くことで、人々の生活は大きく変わった。そして、それがインターネットにつながったことで、革命的な変化が訪れたと言われている。しかし、世の中はさらに先へと変化を続けている。デスクトップと工作機械が結び付くと、それまで大企業のものだった製造の手段を個人でも持つことができるようになってくるのである。大量製造(マニュファクチャー)から個人製造(パーソナル・ファブリケーション)への大きな変化だ。

個人が自分のデスクトップ上で自分の作ってみたいものをほぼ何でも作れる時代の到来である。しかも、その製作に必要な発想や設計図も、インターネット上でオープンにされており、これまたデスクトップのPC 上でアクセスできるし、自分のアイデアも共有できる。スカイプで直接会話して相談や助言をしたり、分業や共同製作を行ったりもできるようになってきたのである。

僕が本書を手に取った動機は、世界的な広がりを見せはじめている「ファブラボ」の勃興について、もっと知りたかったからである。本書はファブラボのことばかりか広くもの作り全般をテーマに取り上げているので、ファブラボに踏み込む前に読む入門書と位置付けるとよいだろう。

 ファブラボは、特別な工房だ。ニール・ガーシェンフェルド教授が運営するMIT センター・フォー・ビッツ・アンド・アトムズ―――ガーシェンフェルド教授の人気講座「(ほぼ)なんでも作る方法」から生まれた研究所―――によって10年ほど前に開発されたモデルが、そのきっかけとなった。それぞれのファブラボには(本書の執筆中、17カ国に53のファブラボがある)、基本的なデジタル工作ツールが少なくとも一式は備えられている。レーザーカッター、カッティングプロッター、家具用の大型CNC旋盤、回路基板用の小型CNC装置、基本的な電子機器、そして時には3Dプリンタもある。中には伝統的な工作機械、たとえば金属旋盤やボール盤が設置されたラボもあるが、たいていは小規模な試作品作り(プロトタイピング)のためのツールが中心だ。
 ファブラボ・マンチェスターは、金曜と土曜は無料でだれにも開放されている。僕の滞在中の金曜には、いつものように地元の大学生が建築物や家具の模型作りに励み、芸術作品やデザイン学校の課題製作のために、休みなくレーザーカッターが使われ、機械音が穏やかに響いていた。無料利用日にここで行われたプロジェクトは、全員がシェアできるようオンラインで公開することになっている。それ以外の日には、会員は施設利用料を支払い、プロジェクトを共有せず自分だけのものにしておくこともできる。(p.63)
本書全体を通じても、ファブラボにはっきりと言及しているのはここしかないが、この短い記述の中で、ファブラボの運営のされ方について、僕の知りたいと思っていたことが書かれていた。「会員」とか「施設利用料」というのがキーワードになると思うが、ある程度頻繁に来れるユーザーが人数的にそこそこ確保できるようにするには、人口趙密な都市部、利用する必要性が高い学生が多く住むエリアでこそ、持続可能なファブラボ運営には向いていると言えるのではないか。逆に、人口が少ない地方部でのファブラボ展開には課題も多そうだ。

この動きが突き進んでいくその先には、我が家の自室やガレージなどで、自分が必要としているものは何でも作れてしまう世界である。著者は本書の中で「もの作りの民主化」という言葉を使っている。また、ネットがこれだけ我々の生活に入り込んでいる今も、結局のところは情報ではなくもの作りなのだと強調する。

 国力を維持しようと思えば、製造の拠点を持たなければならない。今日でもアメリカ経済の四分の一は、ものを作ることで成り立っている。それに流通と小売りの売り上げを加えれば、経済全体のおよそ75パーセントにもなる。サービス経済は好調だといっても、製造業が消えれば、国民全員が銀行員か、マクドナルドのアルバイトか、旅行会社の添乗員にならなければいけない。マスコミはソフトウェアと情報産業ばかりに注目するが、そこから生まれる雇用は人口のほんの数パーセントにすぎない。
 僕たちが「オンラインの世界に生きている」と言う人もいるが、日常の出費や生活となると、それは誤りだ。僕らはモノに囲まれたリアルワールドに生きていて、食べ物や服、車や家が欠かせない。人間の脳だけが身体から切り離されてタンクの中で生きるようなSF的未来が訪れない限り、それは続く。ビットの世界は刺激的だが、経済のほとんどはアトムでできている。(p.35)

「工場」という言葉の意味は変わりつつある。ウェブがビットのイノベーションを民主化したように、3Dプリンタやレーザーカッターといった、新しい種類の「ラピッド・プロトタイピング(迅速な試作品作り)の技術が、アトムのイノベーションを民主化しつつある。(p.22)

 僕らはみんな作り手(メイカーズ)だ。人間は生まれながらのメイカーズで(お絵かきや積み木やレゴや手作りおもちゃに夢中になる子供を見るといい)、もの作りへの愛情は、多くの人々の趣味や情熱の中に生きている。それは、工房やガレージやおたくの部屋の中だけのことではない。料理が大好きな人は、キッチン「メイカー」で、オーブンがその工房だ((家庭料理はなによりのごちそうじゃないか?)。植物が好きな人は、ガーデン「メイカー」だ。編み物、裁縫、スクラップブック作り、ビーズ編み、クロスステッチ―――どれも、もの作り(メイキング)だ。
 こうした創作活動を通して、数百万の人々が自分のアイデアと夢と情熱を表現している。しかも、ほとんどの場合は自宅にいながらにして可能だし、それは都合のいいことだ。だが、ウェブ時代のもっとも根本的な変化のひとつは、オンラインでの共有がデフォルトとして定着したことだ。なにかを作るときには、ビデオ撮影する。撮影したら、投稿する。投稿したら、友達に宣伝する。オンラインで共有されたプロジェクトは、他者のひらめきとなり、コラボレーションのきっかけとなる。一人ひとりの作り手(メイカーズ)が世界中でつながったとき、ムーブメントが生まれる。それまでひとりで作業していた数百万のDIY実践者が、突然みんなで協力し合うようになるのだ。
 こうして、共有されたアイデアは、さらに大きなアイデアに成長する。共有されたプロジェクトは、グループ全員のプロジェクトとなり、ひとりの人間が見るどんな夢よりも大きなものになる。そうしたプロジェクトは、製品や、ムーブメントや、産業の萌芽にすらなりえる。たとえイノベーションを起こそうと思わなくても、「パブリックな空間でもの作りを行う」だけで、イノベーションのきっかけになるかもしれない。それがアイデアの特性だ。アイデアは、シェアされると拡散する。(pp.20-21)

 今日の「メイカー」的な小企業とな、どんなものだろう?(中略)コンピュータで操作できるカッティングプロッタを使って、マックブック用のおしゃれなステッカーを作ったり、クラシックカー用の特別な交換部品を販売したりしている。産業革命時代の職人たちと同じように、たいていは大工場で作らないものを作っている―――数百万人というマスマーケットではなく、数千人のニッチ市場に目を向けているのだ。アイデアがおのずとさまざまな場所に分散されているように、作り手もあちこちに散らばっている。土地の安い場所に生産を集中して巨大なサプライチェーン網を持つハブアンドスポーク方式とは正反対だ。
 「メイカー」たちは、少なくともはじめのうちは、自宅のガレージや工房で、たいていの場合は家族の手を借りて、作業を行っている。彼らは少量生産の味を生かし、手作り感や職人の質を大事にしている。デスクトップの工作機械だけを使って、数百から数千個に限って生産するのだ。
 これが、メイカームーブメントの核になるもう1つの原則だ。200年以上前のジェニー紡績機と同じように、新製品をデザインし、作り出すテクノロジーは、いまやだれにでも手の届くもになった。大規模な工場に投資する必要もなければ、アイデアを形にするために大量の労働力を集める必要もない。新製品の生産は、もはや限られた者たちだけのものでなく、みんなに開かれた機会になったのだ。(p.68)

この「もの作りの民主化」を大幅に進めるきっかけとなったのは、3Dプリンターの普及であると著者は見ているようだ。100万円を下回るような機種が出てきて、僕らにとっても徐々に身近な存在となりつつある3Dプリンターだが、最近読んでいる何冊かの本の中で、これはとてつもない可能性を秘めた機械だと思えるようになった。

 フォーブス誌の発行人、リッチ・カールガードは、3D印刷は「2015年から2025年のあいだに世界を変えるテクノロジーになるかもしれない」と言う。

  3D印刷は、もの作りの経済を、大量生産から、3Dプリンタを使った小さなデザインショップによる
 職人モデルへと回帰させる可能性を秘めている。言い換えると、もの作り、リアルなものつくりが、
 資本集約型の産業から、芸術とソフトウエアのようなものへと移行するかもしれないということだ。
 そして、この流れは、創造性に優れたアメリカに味方するに違いない。(p.114)

最近、YouTubeでこんな映像を目にした。3D印刷技術を応用して、砂漠の砂を太陽光で溶かして花瓶やガラス細工を製作するという実験が、エジプトで行なわれたのを紹介したものだ。砂漠の砂なんてその地域に行けば無尽蔵に存在するものだが、それを資源に変えてしまう画期的な取組みで、正直かなり感銘を受けた。


こんなことができてしまうなら、パーソナルなファブリケーションの技術があれば剣道の竹刀や防具だって作れてしまう可能性があるわけで、ひょっとしたら竹刀や防具がなかなか現地調達できないのがボトルネックとなってなかなか外国でも普及しない剣道も、もっと多くの人が世界中で稽古できるようになっていってしまうのかもしれない。

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