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『なぜ3人いると噂が広まるのか』 [仕事の小ネタ]

なぜ3人いると噂が広まるのか (日経プレミアシリーズ)

なぜ3人いると噂が広まるのか (日経プレミアシリーズ)

  • 作者: 増田 直紀
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2012/03/08
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
職場の人間関係、仕事の能率化、クチコミ、無縁社会、院内感染の防止、金融危機、環境問題、スポーツ選手のランキングなど、様々な事例からネットワークの効用を明らかに。優先順位の付け方、つながりを強くする三角形など、人生を充実させ、社会を読み解くヒントが満載。
10月にご紹介した『私たちはどうつながっているのか』(中公新書)に続き、増田直紀先生の著書をもう1冊紹介する。今さら言うのもなんだけれど、もし順番に読むのなら、日経から出ているこの本を先に読まれることをお薦めしたい。「スケールフリー・ネットワーク」についてのわけのわからぬ記述がなく、「6次の隔たり」と「三角形」に議論を集中させている分、こちらの方が読みやすかった。但し、この間に人事異動があって異動元の職場の机まわりを整理して後任への引継ぎを済ませる作業をやり、新部署では想像以上の多忙で毎日何かしらの対応に追われ、たかが新書であっても全然読み進められなかった。

本書は、人間関係のネットワークを中心にネットワークの考え方を知り、その操作の方法を手に入れれば、他人とのつながりの数や質をうまく管理し、仕事の成功や日常生活の幸せにつなげられる、組織を率いる人は、組織内の人間関係ネットワークをうまく改変すれば生産性を上げられるかもしれないという問題意識から書かれている。多分、日経という出版社自身がそうした問題意識を持っていたのだろう。

著者によれば、ネットワークというのはその形も規模もさまざまだが、その性質にはいくつかの共通点があるという。著者はこれを「ネットワークの三種の神器」と呼ぶ。それすなわち、➀「6次の隔たり」(自分と赤の他人とは、平均すると間に5人挟んで6人目で繋がる)、②「三角形」(3人が繋がっている対人関係は、隠れた力がある)、③「スケールフリー」(人の友人の数は人ごとに異なり、しかもその偏り具合がとても極端である)(pp.25-27)の3つである。但し、繰り返しになるが本書では「スケールフリー」は扱わない。

以前も書いたが、僕がこのような本を読もうとした理由は、ネットワーク科学が僕たちの職場の組織マネジメントにどうにか活用できないかと考えていたからである。人間関係のネットワークは多分に個人レベルのものなのだが、それをマネジメントの側からネットワーク構築に仕向けられるような環境づくりがどのようにできるか、個人レベルでの能力開発努力には限界もあるので、それを飲み込んだ上で、それでも組織全体のパフォーマンスをできるだけ良くするために、マネージャーは何ができるのかを考えてみたかったからだ。

従って、ネットワークの研究者の積み上げてきた研究成果に対して、そこから何が言えるのか、何が活用できるのか、どのように活用して行動に生かしていったらいいのか、といったことに関心があった。

しかし、そうした期待に対し、著者は研究者がそうした期待に十分応えきれていないとも述べている。
日本発でネットワークを本当に応用できたビジネス事例は、2011年時点では残念ながら少ない。海外、特にアメリカに大きな遅れをとっている。
 例えば、組織内の人間関係をネットワークとして描いたりするサービスは日本にも存在し、大企業が関与していることもある。ただ、大きな成功事例はまだ聞かない。その原因は、ネットワークを図に描いたり、誰がハブだとか、何々中心性が高いのは誰だ、という標準的な解析を加えたりして顧客に提示した後に、「で、それで?」と顧客から言われてしまうからではないだろうか。すなわち、ネットワーク図や中心性を収益に結び付けるという視点が不十分なのである。(中略)
 日本のサービス、あるいは学術的なネットワーク研究は、その先が欠けている傾向があるようだ。ハブや中心性の高い人を同定できたとしても、その人に働きかけることが本当に会社の利益につながるかどうかを実証した上で、製品化しなければならない。(pp.146-147)

なお、ここで言っている「中心性」の議論はともかくとして、本書で著者が既刊本と比べてとりわけ強調しているのは、「人が別の2人の人とつながることによってできる人間関係の三角形の潜在能力」である。例えば自分がAさんとBさんという2人の友人がいる場合、このAさんとBさんがお互いに友人関係にある方が、2人が赤の他人で全く面識がない場合と比べて、より心の安定をもたらす三角形になっているとする。

 社会学には、人脈を広げる橋渡し型の人間関係が良いか、密度を高める結束型の人間関係が良いか、という対立構図がある。結束型は、リンクや三角形の密度が高いことを良しとする。(中略)ぎゃうに、「弱い紐帯の強さ」理論では、三角形や密なつながりは保守性や硬直性を意味し、橋渡し型のネットワークの方が良いとされる。ロナルド・バートという社会学者の構造的空隙という理論も、橋渡し型の代表としてしばしば紹介される。結束の弱い部分に飛び込むと利益があるという。難しい理論だが、ビジネスでの実証事例もある。デクワスは、橋渡し型と結束型の間ぐらいを推薦機能に用いている。推薦の話に限らず、人は、新しさと安堵の釣り合いがとれた中間地点に心地よさを感じるのかもしれない。(pp.160-161)
著者はこう述べた上で、著者の強調する「三角形の恩恵」は、結果的には結束型の人間関係を支持するものになっているという断りをしている。

三角形があると、その中をぐるぐるといいことの連鎖が回りやすい。2人ががっちりと握手するのが最も強いが、三角形はそれに次ぐ。三角形がネットワークにたくさんあれば、助け合いを行う社会が促進され、しかも、2人の握手の場合よりも協力が遠くまで広がることを期待できる。
 関節互恵以外の意味でも、三角形は協力維持装置として働く。三角形はグループの基本素材ということで、何かの仲間内を表すのだった。仲間内でお互いに助け合う体制を築いておくと、外から自分勝手な人たちの荒波が押し寄せてきても、のみ込まれずに協力のスクラムを保つことができる。(p.172)
著者はさらに、三角形の持つパワーの事例として、人間関係の中に三角形があればあるほど自殺の危険性が減ることも指摘している(p.178-179)。

 自分次第、がんばれば何とかなる、という精神論は具体性を欠く。しかし、ページランクなどの中心性や6次の隔たりの場合と比べると三角形は努力でなんとかなる、という主張には理論的根拠がある。
 三角形は局所的な量である。局所的とは、自分の物事が、ネットワークで遠くにいる人の物事に影響されないことである。遠くにいる人が三角形をいくつもっていようと、自分がもつ三角形の数には影響しない。対岸の火事だ。自分の三角形度合いを具体的に知るには、自分の友人が誰であり、自分の友人同士がつながっているかどうか、だけを知れば事足りる。(後略)
 局所的な量は操作しやすい。自分周りの三角形を増やすことは、自分とせいぜい自分の隣人に働きかけることで実行できる。自分と自分のすぐ周りに目を光らせておけば、自分の運命を変えられる。本書が三角形を主な題材とした影の理由はそこにある。局所的な量で一番操作しやすいのが友人数であり、2番目が三角形だといえるからだ。(pp.216-217)

では、三角形を増やす具体的な方法は何だろうか。著者によれば、3人の人間関係を増やす方法は大きくは2つあるという。

1つは、既存の人間関係のつなぎ直しで三角形を形成すること。本書では、著者はこれを「3人関係を閉じること」だと言い、つまり、先ほどのAさん、Bさんの事例で言えば、もしお互いに知り合いでないのなら、いっそのこと紹介して、3人の友人関係を築いてしまうことである。

2つ目の方法は、新しいコミュニティに自ら飛び込むということ。社内の仲良し組、地域共同体、活発な趣味サークルなど、新しいコミュニティに飛び込んで、そこを新たな居場所にする行動である。コミュニティに属する人々は既に内部でよく結びついているから、勇気を持ってそこに飛び込めば三角形を新たに増やすことがすぐにできるだろと著者は言う。

三角形の作り方をまとめよう、第1に、自分の友人同士を紹介する。第2に、自分が友人から誰かに紹介されるようにする。第3に、共通の友人がいれば、何となく話しているだけでも友人になりやすい。第4に、新しいコミュニティに飛び込む。三角形を作ると、少なくとも2人の世界になる。お礼の心も忘れないようにしたい。(p.233)


これをマネージャーはどう活用できるのか―――。これが僕の関心事だったわけだが、それらしい記述が1箇所ある。
例えば、社員のネットワークの中で、密につながっている集団を取り出すことができる。このような人たちは、密に会話をしていて、コミュニティを成し、三角形にも富むだろう。こういったコミュニティは、会社側が決めた課や班といった公式な集団とは異なる区切られ方をしていることが多い。また、本人たちは、自分たちがコミュニティになっていることを上司に指摘されたりネットワークが映されている画面を見たりしない限りは、意識していないかもしれない。
 上司は、このような非公式なグループを新たにチームとして編成して、新しいチームで企画にとりかかってもらう。(pp.204-205)
夏にTBSテレビで放送されて大ヒットしたドラマ『半沢直樹』でも、主人公半沢が窮地に陥っていてもそれを助ける同期バブル入行組の渡真利と近藤がいて、それが半沢のパワーにもなっていたと思うし、心の病に侵されかけた近藤も、半沢・渡真利のサポートで踏み止まった。このトリオは、部署を越えた三角形の恩恵を、多分意図してなかったのだろうけれども如実に表していたように思う。

そういえば、今月末、こんな映画も上映されるらしいです。つい最近まで、「ビッグコミック・オリジナル」で連載していた漫画『あさひるばん』ですが、これも高校球児3人組が中年にさしかかった時期のお話になっています。


*映画『あさひるばん』公式HPはこちら。
 http://asahiruban.jp/
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