SSブログ

『アフリカ紛争国スーダンの復興にかける』 [読書日記]

アフリカ紛争国スーダンの復興にかける 復興支援1500日の記録

アフリカ紛争国スーダンの復興にかける 復興支援1500日の記録

  • 作者: 宍戸 健一
  • 出版社/メーカー: 佐伯印刷
  • 発売日: 2013/10/15
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
アフリカ東部に位置するスーダンは、アラブとアフリカ文化が交わり、多様な民族が混在してきた。それゆえに、アフリカ最長といわれた南北紛争をはじめ、長期にわたる幾多の内戦が繰り広げられてきた。2000年代に入って実現した南北紛争の終結を受け、JICAは、スーダンへの復興支援に動きはじめる。「すべての人が平和を実感するのに、われわれは何ができるのか?」荒廃した紛争地域の再建に一人の駐在員が降り立つ。
以前、著書『わが盲想』を紹介した際に、「いずれ我が町の市民向け国際理解講座にお招きしたい」と僕が言っていたムハメド・オマール・アブディンさんとようやく連絡が取れ、講師のお話をお引き受けいただけることになった。来年2月頃のことになるだろう。この企画案を国際交流協会の定例部会に諮ったところ、多くの委員から賛同を得て、企画案の承認をもらった。承認後、一部の口の悪いシニア委員から、「Sanchai君、自信持って言うけど、客入らないよ」と嬉しそうに言われた。内心相当にムカつくひと言だったが、そうやって人の提案にはケチをつけるくせに自分では汗をかこうともしないシニアの嫌味は無視して、僕は「自分が発案した以上、集客努力も自分自身で行います」と言って、企画案を押し通した。あらゆるチャンネルを駆使して、できるだけ多くの人に聴いてもらって、あのクソ委員の鼻をあかしてやりたい。

その一方で、アブディンさんの祖国であるスーダンについても少し勉強しておこうと思い、最近発売されたスーダンの復興に関する本を読んでみることにした。著者は2005年の南北スーダンの暫定和平合意後、事務所を再開したJICA(国際協力機構)の初代所長としてハルツームに赴任し、約1500日にわたって現地で活動された方で、以前このブログでも紹介した池上彰著『世界を救う7人の日本人』で、7人のうちの1人として取り上げられた方でもある。池上彰さんの取材に対しては、何が課題で何に取り組む必要があるのかを語っておられるが、実際に著者がスーダンでどのように活動されたのかを本にまとめられたのが本日ご紹介の1冊である。

《池上彰さんの現地取材を受ける著者》
2011年7月に南スーダンがスーダンから独立した。その後も南北間の小競り合いは繰り広げられているが、それ以外にも、スーダンには、ダルフール地方での紛争や、東部のエリトリアとの国境地方の難民問題や、暫定統治地域での紛争など、その国内にも幾つかの紛争の火種を抱えている。その各々について和平合意は取りあえずは締結され、現在は復興プロセスに入っているが、この過程で特定の部族だけを利するような政策がとられたりすると、その不公平感が双方の不信感を増幅させる。例えば、南北和平が成立した後、欧米諸国や国際援助機関の支援の多くは、紛争で痛めつけられた南スーダンに集中し、北部スーダン側の不満は積もっていったと見られている。

著者をはじめとしたJICAの人々が意識したのは、こうした不公平感を生み出さないための地域的なバランスなのだという。だから、ハルツームにある北部スーダンの政府とも関係を築き、行なうべき支援は行ない、その上で申し入れるべきことは申し入れるという姿勢を示した。これによって、JICAは南スーダンだけではなく、北部スーダンの政府からの信頼も勝ち得ていくのである。著者は本書の中で、「すべてのスーダン人にとっての平和」という言葉を度々用いている。復興の恩恵を受けられずに不満を募らせるような人を作らないということだろう。

それに、和平が成立して、できるだけ早く変化をもたらし、紛争に明け暮れるよりも平和である方がいいというのを国民に実感してもらうことが必要となる。そのためには、至急でインフラ整備などを進めて生活が便利になるとか、働き口が見つかって兎にも角にも生活が安定するとか、そういったことが必要になるだろう。和平合意からの約7年間にわたり、JICAがスーダンで取り組んできたことは、1つは道路や橋梁、水道などのインフラの緊急整備であり、2つ目は安心して暮らしができるような保健医療制度の礎となる人材の育成であり、3つ目には食い扶持を確保できるようになるための職業訓練や農家の生計向上の支援であった。

でも、紛争が治まったばかりの政府機関では、援助機関に対して支援の要請を行なうにも、自分たちで開発計画を立てて、必要予算額をはじき、そのうちいくらを外国からの支援でまかないたいと考えればいいのか、整理ができていないし、幾つもある復興開発ニーズの間で、優先順位付けもなかなか難しい。早く変化を国民に実感させたくとも、政府がこうした復興開発事業の準備の段階でもたついていては、なかなか外国の援助機関に対する支援要請にもつながらず、結果として変化が訪れるのが遅くなってしまう。

そうした事態に陥らないよう、政府に対して積極的な働きかけをしていたのが、現地のJICAの駐在員の人々だったのだなというのが本書を読んでいてよくわかった。省庁間で書類を回して援助実現に必要な書類を紛失されるリスクを回避するために自ら書類を持ち回ったりもしたらしいし、政府機関の関係者との話し合いの上で、その結果を文章に起こす作業を請け負ったりもしている。こうして迅速に支援実施につなげていくのに、著者をはじめとした駐在員の人々が大変なご苦労をされたに違いない。

実際に支援事業が立ち上がると、日本人の技術専門家やコンサルタントなど、いろいろな外部の関係者が現地入りして、各々の事業について専門的見地からアドバイスをしたり、事業実施の監理監督をされたりする。そこでの主役は協力の現場の人々になり、JICAの駐在員の人々はどちらかというと裏方に回って事業実施の環境整備をお手伝いすることになる。スーダンでも、著者が駐在している間にそうして立ち上がって現地で活動された専門家やコンサルタント、建設会社の関係者の方が多くいらっしゃったようだ。でも、事業が立ち上がるまでは、むしろ駐在員の方々の方が主役だと言える。この本のシリーズは今までにも何冊か読んだが、現地に駐在していたJICAの職員の方がここまで前面に出て活動をされたお話というのは類を見ない。

平和構築・復興支援と言われる段階での初期の主役は、現地で人々に平和の良さを一刻も早く実感してもらうために奔走する、JICAの現地駐在員の方々なのだ。それが非常によく伝わってくる本だった。

nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0