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『絆』(江上剛) [読書日記]

絆 (講談社文庫)

絆 (講談社文庫)

  • 作者: 江上 剛
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/08/12
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
「康平、銀行には勝てんよ。金を返すまではね」。丹波から身一つで出てきた森沢康平は愛知で染色業を営む矢井田と出会い、かつて「ガチャ万」と言われた繊維業界で働くことになる。昭和から平成、日本経済が大きく動いたとき、同郷の幼なじみ、大手銀行に勤める治夫と再会し―。走り続けた男たちの物語。
銀行を舞台にした小説といったら今が旬の池井戸潤だと思うが、同じく元銀行員出身で銀行を描いた経済小説を得意とする作家がいることを知った。第一勧業銀行(現みずほ銀行)出身の江上剛である。

先週末、僕は10年ぶりの本格的市民マラソン出場のために、山梨まで日帰り旅行に出かけた。マラソン大会の話はいずれ書くとして、その時に行きと帰りの列車の中やレース開始前の手持無沙汰と時に気軽に読める本をということで、図書館で小説を借りて持っていくことにした。そこで初めて江上作品を手に取ったのである。

巨大銀行のえげつないやり口を、融資を受ける中小企業の立場から描いた小説だが、その始まりは1950年代の丹波地方である。造り酒屋の次男坊である治夫と、母の手1つで育てられている康平がいる。世帯収入の格差が大きい2人は、まるで主人と奴隷のような関係だった。自分の父親が誰かもわからず、妾の子と揶揄されてきた康平だったが、やがて母親が自死を選んで1人取り残されると、村の名士でもあった治夫の家に引き取られる。そこで治夫とその母から受ける冷たい仕打ちは、まるで『おしん』のようだ。

治夫の実家に身を寄せるのもあとわずかとなった高校三年生の冬、ある事件を発端に、康平は村にいられなくなる。大阪での数奇な出会いがあって、愛知県尾西市の染色工場に就職の機会を得るが、一方の治夫は大学に進み、そして愛知県を地盤とする都市銀行に就職する。最初の配属が尾西支店となった治夫と、康平の因縁はそこからさらに続く。

二度目の尾西支店勤務となった治夫は、自分の融資実績を積み上げるために、康平の勤める会社の社長に近づき、会社の体力からすると過大ともいえる融資を行なう。設備投資だけならともかく、土地や株式に投資する資金まで融資する。1980年代後半のバブル期の浮かれ方って、そんな感じだった気がする。

しかし、そんな誰もが浮かれていたバブルの時代は長くは続かない。やがて株価は急落し、ピーク時の半値以下に下がる。そろそろ下げ止まりだからといってさらに融資残高を積み上げさせる銀行のえげつなさもあった。しかし、結局株価は下げ止まらず、時代はバブル崩壊後の銀行の貸し剥がし、貸し渋りへと突入していく。

真面目な経営をしていた織物工場の社長が土地不動産投資に失敗して自殺に追い込まれる事態も身近では起こった。そんな中でも康平の勤める会社は、バブル期の過剰な借入れで抱え込んだ負債をコツコツ返済し、その間に新しい独自の染色技術の開発も進めた。すると今度はハゲタカファンドによる企業買収工作に巻き込まれる。技術だけを手に入れ、従業員は全員解雇も辞さない投資家に反発する最中、社長は心臓発作により急死、康平が後を受けて社長として会社を牽引することになる。

一方、地方の中小企業を相手に融資実績を上げた治夫も、やがて訪れる都市銀行の統合合併の嵐の中、合併相手との権力争いで不利を強いられる。合併相手銀行出身の上司から怒鳴られ、出身銀行の保有する融資債権の即時回収を優先させられる苦渋を飲まされる日々。自分は何のために銀行員になり、ここまで働いてきたのかと自問する。

まっとうな経営をしてきた会社が、時代の流れの中でどれだけ翻弄されてきたかがよく描かれている。時代の変遷を振り返るにはいい作品である。舞台は愛知県尾西市の染色メーカー。実を言うと、このモデルになった中部地方を基盤とする都市銀行ではないおのの、同じ地方の地方銀行に僕も最初は就職し、バブルがピークに達していた頃は名古屋の支店で働いていた。尾西にも支店があり、入行同期で配属になっていた奴もいたと思うし、その後の貸し渋り期に尾西支店に転勤されていた先輩もいる。都銀と地銀とではやっていることは違うと思うし、地銀の感覚はむしろ本書にも登場する信用金庫の方に近かったのではないかという気がするが、融資がガンガン実行されていたその頃の空気はとてもよく覚えているし、その後尾西に転勤された先輩のご心労も窺い知ることができるような作品の内容だ。

でも、最後に会社を救うのは唯一無二の独自技術と、地域に築いた信頼の絆なのだなというのを感じた。『半沢直樹』を銀行と対峙する中小企業の従業員の側から見たら、銀行もこんな描かれ方になるのだなあと感心。また、治夫の勤める銀行に金融庁が検査に入り、「疎開資料」のありかを巡って検査官と銀行側がにらみ合うシーンとかは、テレビドラマでも同じようなシーンがあったなぁと既視感にかられた。

さて、因縁あいまみえた2人だったが、終盤には和解の時を迎える。長年にわたって康平を苛め、食いものにしてきた治夫が、それまでの行為を悔い、康平に謝罪し、康平がこれを赦すシーンは、思わず涙が出てきた。
タグ:銀行 江上剛
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