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『パーソナルネットワーク』 [仕事の小ネタ]

パーソナルネットワーク―人のつながりがもたらすもの (ワードマップ)

パーソナルネットワーク―人のつながりがもたらすもの (ワードマップ)

  • 作者: 安田 雪
  • 出版社/メーカー: 新曜社
  • 発売日: 2011/07/20
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
友人、恋愛関係、組織、コミュニティ、インターネット、孤独―人間のつながりのあり方とその影響力を研究するネットワーク分析の理論、方法と留意点、実証研究の現在を、キーワードで平易に解説。

昨日書いた通り、僕は11月から新しい部署に異動して、久しぶりに複数のスタッフとのチームで仕事をすることになった。11月に異動という話は、8月末頃からなんとなく聞こえてきていた。具体的な部署がどこかはわからなかったが、漠然と「あの辺かな」という予想はしていた。結局その予想は外れたのだが、久しぶりに島の中に席を置いて仕事するというのはわかっていた。

異動の声がなんとなく聞こえてきて、当然のことながら今の上司からは「今持っている仕事はできるだけ片付けて行け」と注文を付けられた。僕の持っている仕事の中には、10月でケリが付く仕事もあったが、元々作業の終了を来年3月いっぱいと設定していたものもある。性格上後任が来てくれるからといって引き継ぐわけにもいかない仕事もあるので、11月異動と言われても結局新しい職場に持って行かなければならないことにはなる。新部署での仕事は間違いなく今よりも激務だから、10月末までにやれることはやっておけ―――上司は上司なりの配慮だったのだろう。

それで、慌てて読み始めた最初の本が安田雪著『パーソナルネットワーク』である。今年5月に一度挫折した本への再挑戦で、5月時点では市立図書館で借りて読んだのだが、返却期限までに読了できず、その後中古書籍をインターネットで注文し、いずれ読もうと我が家の蔵書にしてあった。

この本は元々は僕が自分の研究テーマとしている、海外ボランティアの現地でのマネジメントをネットワーク論で分析するというのに参考にしようとしたものだが、その要点は自分が組織の中で質の高い仕事をしていくのにも役に立つと思う。その意味では、今月はこの手のネットワーク論の本を多くご紹介することにはなるかもしれない。

個人の能力開発も限界、新人を採用する余裕も見込みもない、グータラな社員もお局様も自主退職の見込みもなく、窓際族の定年もまだ先だ。要するに今いるメンバーは増えもせず減りもせず、急激に能力がつく見込みもない。だとしたら、今いるメンバーの組み合わせや、位置関係を変えることで、より多くの力を発揮してもらおうではないか。個人属性による予測が難しいならば、関係情報を使おう。(p.4)
―――いいじゃないですか。今いる人々、今ある資源を組み合わせてその新たに作った組み合わせで、関係によって何らかの力を創発していこうというお話、なんだかすごく僕のニーズにフィットする。チームの中にはいろいろな人がいる。皆がすごい能力を持っているというのならともかく、個々人の能力には限界もある。世の中自己啓発や能力開発の本に溢れていて、個々人の能力を上げる努力は行なわれているが、それであってもチームの中でそれを発揮できるかどうかは、チームのメンバーとの関係性によるところも大きい。メンバーとの組合せのあやで、自分がいつも以上にやる気を出すケースもあるだろうし、逆にやる気を損なわれて能力の半分の出せないということもあるかもしれない。やる気を引き出すコミュニケーションのあり方やハウツーなんてのも本ではよく出ている。それもそれで重要だが、本書が示すような、メンバーの組合せや位置関係を変えるという発想は新鮮だ。

マーカーを引きまくった箇所をいちいちここで紹介するのは大変だが、この本を読んだことで、ここ数カ月おざなりにしていた積み残しの仕事について、期限までに片づけられそうな気がしてきたのが収穫だった。

ただ、1ヵ所だけ重点的に引用して紹介しておきたい。それは、「4-4. 孤独」であり、パーソナルネットワークのうちでも、「死」とか「孤立」といったものを扱っている。ネットワークがどんどん途切れていくという状況だ。

 共同体への帰属意識はなく、その一方で孤立を過度に恐れる傾向が若い人々に強まっています。同時に、社会関係を限りなく絶って暮らしているひきこもりと呼ばれる人々も増加しています。この同時進行は何をもたらすのでしょうか。
 人々が孤立を恐れる社会では、同調圧力が強くなります。同調圧力の強い集団は、変わり者や異端者に対する寛容性が低く、集団によるスケープゴートや魔女狩りを生み出しやすくなります。共感できない人との共存能力が下がるのです。

 私が、社会関係の重要性を説く一方で、自立の意義を説く理由はここにあります。自立と孤立は違います。自立している人を、孤立者とみなしてはいけないのです。むやみに孤立におちいる必要はありませんが、孤立したとしてもそれを恐れないでください。孤立を恐れる心こそが、他者による言動操作や介入を許してしまうのです。そして変わった人や異端者にも寛容であってください。孤立者に対しても、仲間にひきこもうとするのではなく、そのままの存在を異端とみなさず、受容してください。自立して、他者を必要としていない人を孤立させないことが重要なのです。(p.209)

 私たちが習わなければいけないのは、他者をいかに資本(キャピタル)として使うかではなく、他者への上手な依存のしかたではないでしょうか。獲得すべきは、人脈の名のもとに他者を活用して利益を得る力ではなく、相手に負担を強いることなく上手に手をさしのべる力であり、過剰な要求や責任をおしつけることなくして、甘えすぎることなく力を借りる、そのバランス感覚だと思います。(p.211)

 地縁、血縁、職、趣味、共通性を軸に人をつなげるしくみを徹底的に考えていく必要があるでしょう。おそらく今一番急務であるのは、血縁に依存しないサポートシステムの構築です。いかなる社会保障制度も、人間関係なしでは機能しません。(後略)
 高齢をも含めて単身あるいは母子ないし父子家庭のような家庭内のソーシャルキャピタルが少ない人々を支えるための人間関係のありかたを、社会保障制度だけでなく考えていくべきでしょう。スケールフリー法則のもと、何もしないで放置しておけば人間関係は集まるところには集まり、ほつれ、途切れるところからはどんどん失われていきます。それを止められるのは、人為的な努力だけです。
 つながりにくい人の属性――補うべき関係、他者を必要とする関係――の発見と再構築は長らくサポートネットワーク研究の課題でした。現代社会はそれに加えて、適切な役割を時には代行し助ける役割支援、必要な情報を与える情報支援、経済的あるいは精神的支援などの与えかたとありどころの解明をも、パーソナルネットワーク研究が立ち向かう課題としています。(p.215)
―――そういえば、先週後半に参加した、会社が主催した「50代からのライフデザイン」と題した社員研修でも、ライフデザイン・ワークショップのファシリテーターがしきりに「つながり」を強調していたなぁと思い出した。ファシリテーターという割にはやたらと自分のメッセージをゴリ押ししてくる感じの方だったので、いい印象はなかった。そんなことはとっくに気付いていますよ。趣味や問題意識を軸にしたつながりを地域の中で40代のうちから作っていこうと取り組んできたこの10年だったんだから(笑)。

この本は、パーソナルネットワーク研究でまだわかっていないことが何か、未開拓の領域が何か、今後どのような領域でもっと適用されていくべきなのかがわかるという点で有用だと思う。著者がほぼ毎年のように新たに本を出されておられるのは、その間にも少しずつ新たな研究成果が出てきている分野だからなのだろう。

ただ、最初の僕の問題意識に戻り、どうしたらネットワーク全体としての生産性が上げられるのかということについてはもっと知りたいと思った。読んでいて、パーソナルネットワークというのが、人それぞれによって違う人脈というコンテキストと、組織の内外に張り巡らされた人間関係の俯瞰というコンテキストとがごっちゃになってしまうことがよくあった。個人的テーマとしてはどんな人脈作りをして自分をその中でどう位置付けるかというのは勿論重要だが、組織の中での人間関係を人為的にどう組み替えられるかというマネジメント的視点も僕にとっては重要で、できればこの2つは明確に分けて言及して欲しかった気がする。

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